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「1年で8割が辞める」警備の常識を覆す、Strayaが描く「辞めない仕組み」とは

100社が導入した「KUMOCAN」、累計1億円超を調達したStrayaの次の一手

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このスタートアップに聞きたい

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 工事現場やイベント会場で私たちの安全を支える警備員。社会に欠かせない存在だが、採用しても1年足らずで8割が辞めてしまうのが現実だ。そんな“人材崩壊”に真正面から挑むのが、2023年に生まれたスタートアップ、株式会社Strayaだ。チーム全員が実際に警備員として現場に立ち、泥臭い課題を肌で感じながら作り上げたのが、退職予測AIと最適配置を実現するDXプラットフォーム「KUMOCAN(クモカン)」だ。すでに100社が導入し、年内にはAIで“辞めない配置”を実現しようとしている。今回、事業の背景やビジョンを、代表取締役の渡辺拓也氏に伺った。

 治安維持への貢献と社会的評価のギャップ

 道路工事や建設現場の交通誘導、イベント会場の人流整理、施設の巡回まで、警備員は、日常のあちこちで私たちの暮らしを支えている。全国警備業協会のデータによれば、この30年で国内の警備員数はおよそ3倍に増え、その間に刑法犯の認知件数は大きく減少した。警備が治安を守るうえで欠かせない存在であることは、数字にもはっきり表れている。


 にもかかわらず、警備の仕事は人気がなく、「定年後のアルバイト」「日雇い労働者」というイメージが根強い。企業にとっては、採用のハードルも極端に高い。あらゆる業界で人手不足が叫ばれるなか、警備業の有効求人倍率は7.45倍、特に交通誘導やイベント警備を担う「2号警備」では42.9倍にのぼる。

 「43社で1人を奪い合ってる状態です」と渡辺氏。人材を確保できなければ、需要があっても案件を断らざるを得ない。社会に不可欠な仕事でありながら、構造的な人材不足に陥っているのが警備業界の現状だ。

採用難・高離職・案件断りの三重苦

 渡辺氏によると、警備業界は、「不人気による採用難」「早期離職」「案件を断らざるを得ない」という“三重苦”を抱えている。

 まずは前述のとおり、採用難。各社は人材確保に力を入れており、採用単価は1人あたり20〜50万円と高額だ。それでも思うように人は集まらない。

 次に待ち受けるのが高い離職率だ。新規採用者の26%は1カ月以内に辞め、1年以内には約8割が離職してしまう。Strayaの調査では、給与やキャリアよりも「コミュニケーション不全」を理由に挙げる人が多いという。

 「内勤職員と現場とのコミュニケーションが希薄で、誰がどう思っているのかわからない。結果的に新人が不人気な現場に当てずっぽうで入れられて、すぐ辞めてしまう。構造的な問題だと思っています」(渡辺氏)

 そして最後は、人が足りないがゆえに案件を断らざるを得ないという現実だ。警備業は典型的な労働集約型産業で、人がいればそのぶんだけ売上が伸びる。しかし警備会社300社への調査では、すべての企業が「人材不足で案件を断った経験がある」と回答している。

 「人がいればもっと売上が上がるのに、人がボトルネックになっています」と渡辺氏が話すように、人材不足が事業拡大の最大の障壁になっている。

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