時間がないがやるしかない 人材、資金が不足するディープテック支援
「TECHNIUM Global Conference 2025」イベントレポート
2025年5月7日、8日の2日間、ディープテックカンファレンス「TECHNIUM Global Conference 2025」が東京で開催された。国内初の大規模ディープテックカンファレンスとして開催され、今後の世界のディープテックの潮流を知るためにも重要なイベントとなった。
アイデアとビジネスが出会う場所
今回のTECHNIUM Global Conferenceには海外から50社100人以上のベンチャーキャピタル(VC)を含め、国内外から約2000名の研究者からスタートアップ、経営人材候補、事業会社、官公庁、大学機関、投資家が集まり、ディープテック領域の最新技術や課題を討論したほか、専門家によるメインセッション、医療ヘルスケア、アグリフード、バイオ創薬、デジタル、宇宙、クライメートといった特定産業領域に特化したサブセッションが行なわれた。
さらに、主要な目的として「Connecting」を挙げており、研究者と経営者、スタートアップと事業会社、アカデミアと民間企業や官公庁といった出会いを促進すべく「1on1マッチングブース」を50テーブルほど用意し、ディープテックスタートアップの創出と成長を促した。
7日のオープニングではカンファレンス実行委員会の有馬暁澄氏(Beyond Next Ventures 取締役CSO)は、「日本は世界中が称賛する素晴らしい技術を有しているが、その技術を未来へとつなげるためのインフラ整備は依然として重要。政府によるスタートアップ育成5カ年計画と、研究開発への支援強化により、今こそが実社会への実装に向けて前進する絶好の機会だ。TECHNIUMには世界中から2000人以上のイノベーションリーダーが参加している。未来は有意義な出会いから始まる」と、今回のカンファレンスの意義を強調した。
今回、会場内にテクノロジーショーケースも設置しており、スタートアップ企業の研究者500人は各自のアイデアのプレゼンテーションを行い、ここでもVC等との出会いが多く生まれていた。有馬氏は、「ショーケースはアイデアとビジネスが出会う場所。どうぞためらわずに手を差し伸べて、あなたの未来の製品を見つけてほしい。来年にも変革をもたらすテクノロジーが今日ここに眠っている。それをぜひ発見してほしい。未来は私たちの心中にある」と訴えた。
日本を代表するVCがディープテックの課題を浮き彫りに
続いてのセッション「日本のtop tier VCが語るディープテックエコシステム:20年の歩みとこれからの挑戦」には、モデレーターとしてウィズグループ代表取締役の奥田浩美氏、スピーカーにはBeyond Next Ventures代表取締役CEOの伊藤毅氏、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC) 代表取締役社長CEO・マネージングパートナーの郷治友孝氏、インキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹氏が登壇、20年の振り返りと国内のディープテックを取り巻く課題をあらためて浮き彫りにした。
郷治氏は、「とにかく時間がかかることが一番の課題。 事業化するまでに時間が掛かるのではなく、IPOやM&Aに時間が掛かっている。そうなると資金力が問題になる。東証が改革を進める中で、ある程度スケールの大きい企業しか上場を認めない方向に進むようになると、ますますディープテックにとってハードルが上がってしまう。資金調達を工夫するしかないが、投資するほうも当然リターンが大きくないと割に合わないので、ひとつのVCが担うには負担が大きくなってしまう。今後は、国内のVCだけでなく海外のVCと一緒になって、早くから投資チームを作ることを意識して行動していく必要がある」と、資金面での課題を挙げた。
一方で赤浦氏は、資金調達に関しては政府との連携が重要だと力説する。「郷治さんと一緒に日本ベンチャーキャピタル協会として政府に対して政策提言してきたが、2022年に提出した要望書により、スタートアップへの公共調達に成功した。政府との連携により資金調達という課題は解決の糸口が見えたが、それでもまだまだ足りない。ただ宇宙分野では、JAXAによる宇宙戦略基金というのが動き始めていて、既に第1期の採択先が決定しており、これから第2期の公募が始まる。合計で1兆円超の公共調達となる。防衛分野でも同規模の公共調達があり、政府支援はかなり進んできている」
経営者、研究者の人材不足が深刻
伊藤氏も同じく資金供給量を課題の第一に挙げつつ、「海外に比べて日本のVCファンドはシードとアーリーフェーズに偏っており、特にディープテックのサービス後半のグロースに焦点を当てた投資家は少ない印象。これが課題のひとつ目。課題の2点目は経営者不足。現在まだ技術シーズで止まっていることが多く、事業としての担い手が少ない」と、事業化フェーズでも課題があるとする。そのため今回のTECHNIUMでは、シーズと経営者のマッチングのセッションを設け、多くの出会いを生み出そうとしている。
「われわれVCも長く継続的に投資していく。成功事例はこの10年間で出てきた。次はユニコーンになるような永続的に成長する大学ベンチャーをつくっていく必要がある。そのためにも経営人材の育成が重要となる。各領域で事業経験のある人をリクルーティングしやすい仕組みの構築が急務だ。起業したい、経営者になりたいという気持ちが潜在的にありつつ、その機会を持ち合わせない人々に対して、今回のカンファレンスのようなマッチングイベントを今後も開催していく」
伊藤氏は3点目の課題として、政府支援が特定産業に偏っていることを挙げた。宇宙分野への投資は盛んだが、医療分野など他にも多くのディープテックが生まれているが、支援体制は不十分と見ている。政府支援が他の領域に広がり、ディープテック全般を支援する流れができてほしいとする。最後に、「日本は先進国で唯一、研究者が増えていないことは大きな問題。これは致命的だと思っている。ベンチャー投資するにしても大元の研究者が減っている。国としても、研究者を増やす方向に力を入れるべきだと強く考えている」と力説した。
基礎研究に支援する仕組みづくりで研究者を育てる
研究者不足はディープテックの根幹を揺るがす大きな問題だ。郷治氏は、「基礎研究の部分が蔑ろになっているのではないか」と指摘する。「すぐに事業になるものに資金を投じるだけでなく、基礎となる独創的なアイデアや研究者の雇用に対しても自由度の高い資金を投入できる仕組み作りが必要だと考える。当社では、投資に対するリターンを単にVCの利益とするのではなく、こうした基礎研究にも投じてきた。これがまた次のチームへとつながっていく。この動きを今後さらに拡大していく必要があると思っている」
ではどうすれば良いのか。それにはVCの役目が大きいと赤浦氏は指摘する。「ディープテックスタートアップの支援には『研究開発・実証・事業化』の3つフェーズがあり、これまで独立系VCは事業化を得意としてきた。研究開発と実証化への投資拡大は時間がかかるが、やるしかない。このフェーズの中で一定の成果が出れば資金が得られる、というのがスタンダードになればより資金が集まりやすくなる」
ただ、現状でも研究開発段階への支援は存在する。例えば、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のディープテックスタートアップ支援基金は、STS(実用化研究開発・前期)、PCA(実用化研究開発・後期)、DMP(量産技術実証)の3つのフェーズに分かれており、すべてトータルで30億円もの助成額を示している。「時間がかかるけど、現状ではこうした政府と民間の支援を上手に活用していくことが重要だと考える」(赤浦氏)
しかし、それは既にやるべきこと、できることが具象化しているケースだ。郷治氏は、研究者不足を解決する糸口とするには、さらに前段階での支援が必要だと訴える。「既に研究成果が出ている場面ではなく、素晴らしいアイデアが生まれるための環境づくりを支援するのは国や大学にしかできない。世界中の研究者から高い評価を得られるような、そういう研究が生まれやすい環境づくり、仕組みづくりこそが、日本のディープテックスタートアップを成長させる近道だと考える」
日本のディープテックスタートアップの未来は明るい
赤浦氏によると、課題は多いが、ひとつひとつ進んでいくことで必ず世界に通じるディープテックスタートアップが生まれてくるとする。「日本のVCの資金量は米国に及ばないが、日本の銀行は資金量が豊富。すでに、無担保で大きな資金をディープテックに投じ始めている。日本の強みがそこにある。まずは政府との連携ができて、かつ、強い日本の銀行が味方につく。さらに果敢に攻めるVCが増えてきた。日本の未来は明るい」と締めた。




































