小さな成功はもはや通用しない。東大FoundX馬田氏が警鐘を鳴らす、起業家が今“頭を切り替えるべき”理由
ベストセラー『解像度を上げる』著者が語るディープテック起業支援の現場
ベストセラービジネス書『解像度を上げる』の著者である馬田隆明氏は、東京大学 FoundXでディレクターとして活動している。FoundXは、東京大学および同大学院の卒業生を中心に、起業家やスタートアップを支援する取り組みを行っている組織だ。目指すのは単なる起業ではなく、将来の日本を牽引するような、基幹産業を作り出すような“ハイグロース・スタートアップ”を生み出すこと。容易なことではないが、「世界に名だたる企業を生み出したい」という。FoundXが進めるスタートアップ育成を通して、現在のスタートアップ支援で必要なことを聞いた。
東京大学 産業協創推進本部 FoundX ディレクター 馬田 隆明 氏
日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』『解像度を上げる』『仮説行動』。
もはや従来型の起業の方法論は厳しい
FoundXは、東京大学と東京大学大学院の卒業生、研究者向けの起業支援プログラムを無償で提供している。
「私がやっているのは、東京大学の卒業生を中心としたチームのスタートアップ支援になる。すでにアイデアがある個人や組織を対象とした『Founders Program』、アイデアを持っていない段階からサポートを行う『Studio Program』というアイデア段階からの支援も行っている」(馬田氏)
スタートアップ支援を行っている組織は少なくないが、FoundXは急成長を目指す「ハイグロース・スタートアップ」を生み出すためのアイデアを支援している。
「FoundXがスタートしたのは、コロナ禍直前の2019年ごろ。当初はどんなアイデア、技術でも支援していくという姿勢だった。だがそれが変化して、ある程度の狙いを持って起業しないとスタートアップとしてはうまくいかないという見方に変わったことで、現在では『気候変動対策』や『労働力不足』など特定のテーマを決めてアイデア段階での支援をしている」
支援を行う側がテーマを決めていくことへと変化したのはなぜなのだろうか。
「世間的に、起業することは一般的なことになったが、ビジネス環境の変化もあり、従来の起業の方法を続けていると国内での小さな成功に留まるケースが多くなった。我々が目指すのは、次の産業を作る新たな企業を生み出すこと。すべての起業の支援をしているのではない。ハイグロース・スタートアップを目指して起業する人材を支援したい。そのためにはどんなアイデアでもというより、アイデアを限定して支援していく必要があると考えるようになった」と馬田氏は話す。
確かに従来に比べ、起業自体は難しくなくなった。最近であれば生成AIの登場もあり、スモールビジネスでの起業をうたう声も多く、実際に国内の起業件数は増加している。新しいアプリケーションを開発し、それで起業をするケースも増えているが、ベンチャーキャピタル(VC)など資金を出す側に変化が起きているという。
「この3、4年で投資家サイドの感覚は大きく変わったと感じることが増えた。だが投資を受ける起業家側、特に初回の起業家にはその情報が行き届いていないのではないか」と馬田氏は指摘する。
「この10年、スタートアップが社会的にも大きく注目された弊害として、通常の起業とハイグロース・スタートアップが混ぜて語られることが多くなってしまった。投資を行う側は、大きなリターンが見込める相手なのか、見極めるようになっている。例を挙げれば、スマートフォンアプリによる新ビジネスで大きく成長していくことは、従来よりも難しいと判断されるようになった。一方で、地方創生など、スタートアップだけではなく通常の起業が期待されている領域もある。どういった起業のスタイルを意図しているのかなど、スタートアップを語るときに、従来よりも整理が必要な時期に来ている。
「FoundXが目指しているのは、次の日本を牽引する産業を興していこうと考えるスタートアップ企業を誕生させること。現在というよりも、『2040年にはこういうニーズが出るだろうから、その時のためにどういう事業を作り、そこにいたる道はどういう経路が良いのか』といった視点を持つスタートアップを支援したい」という。






























