メルマガはこちらから

PAGE
TOP

Viva Tech2025 日本のスタートアップエコシステムの存在感は?

特集
ASCII STARTUP イベントピックアップ

 2025年6月11日~14日にフランス・パリで開催された欧州最大級のテクノロジーイベント「VIVA TECHNOLOGY 2025」では、日本貿易振興機構(JETRO)が中心となり、日本の革新的な技術を世界に向けて強くアピールすべく、スタートアップ20社による「Japanパビリオン」を設置。また今回はJETROのJapanパビリオンに加え、東京都、愛知県、京都市、仙台市の4つの自治体が「Japan Village」を企画し、国内でグローバルスタートアップイベントを実施、企画する4都市が共同で出展、オールジャパンで注目を集めるという新たな取り組みが行なわれた。

Japan Village

 古い繭を加工し、シルクから新素材、バイオプラスチックを生成するディープテック企業ユナイテッドシルクは東京都のエリアから出展。このシルク素材は、原油やセルロースに代わる新素材で硬いものから柔らかいものまで様々な製品開発が可能だ。フランスの労働・雇用担当大臣もブースを訪れ、同社の取組からフランスでの展開、戦略を説明し高い評価を得たという。今回のイベント出展の最大の目的について代表取締役社長の河合崇氏は、日本のディープテックである自社のシルク素材をヨーロッパのブランドに採用してもらい、「日本のテクノロジー」として認められることと説明する。すでに2024年から月にほぼ1回パリを訪れて商談を重ねており、昨年10月から今年の1月まではフランス・パリの巨大スタートアップ支援施設「Station F」にも滞在し、フランスの企業と交流してきた。

ユナイテッドシルク

 またVIVA Techでは大企業が支援、協業するスタートアップとともに出展するのが特徴だが、ヤマトホールディングスも国際物流を手掛けるRosso83などスタートアップ3社と出展。イノベーションを担当する部署が参加しており、新しい出資先やシナジーを創出する企業との出会いを求めていた。特に欧州の来場者からは、日本の手厚いラストワンマイルの配送サービスへの高い関心があったという。

 自身も自ら海外のカンファレンスの現場に出て担当する東京都スタートアップ戦略推進本部長の吉村氏は、アジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo」が、VIVA Techが掲げる「サステナブル」や大企業による「オープンイノベーション」を体現する場、またイベント自体の設計をベンチマークしてきて、多くのものを学んだと説明する。実際に今年の「SusHi Tech Tokyo 2025」では、VIVA Tech同様に最終日に一般開放、子どもたちもイノベーションを体感できるパブリックデーを実施した。

東京都スタートアップ戦略推進本部長 吉村恵一氏

 今回のブースでの取組についても、「サステナブルな社会をテクノロジーで作る」というコンセプトがVIVA Techとの相性もよく、来場者の興味を引き付けたと説明する。持続可能なテクノロジーを持つスタートアップが集まっていることが評価されており、日本の「サーキュラーエコノミー」が江戸時代から培われてきた歴史と共に、フランスの地で示されることへの期待が述べた。フランスの人々が好む「ストーリー性」を伝えることも意識しているという。また4自治体が共同出展したことについても日本全体で協力することが重要であるとの認識が醸成されてきた結果で、「新しい挑戦」であると強調した。

Japanパビリオン

 Japanパビリオンでは、2024年にはVIVA Techでももっとも注目される取組のひとつ「LVMH Innovation Award 2024」のファイナリストに選出され、さらに日本企業として初の「Employee Experience, Diversity & Inclusion」カテゴリ賞を受賞したヘラルボニーが出展。同社は知的障害のある作家の作品を企画プロデュースし、多角的なブランディング展開をしている。多様性をとなえるVIVA Techの中でも象徴的存在として際立つ存在だ。2024年9月にはフランスで現地法人も立ち上げて、本格的にグローバルでの活動を開始し、自社ブランドの展示会も開催した。

ヘラルボニー

 そのほかパビリオン以外ではNTTデータやマクニカといった大企業が初の単独出展をしていた。マクニカは高性能AIハードウェア「Axelera AI」、リアルタイムビデオ分析「Icetana」、認知的AI「InnerEye」などAI関連のソリューションを中心に展示。実際に走行駆動シミュレーションを体験できる展示が人気を博していた。今回の出展の目的は欧州でのブランド認知に加えて、AI関連の出展者が前年比40%増加し、AIが国際的なイノベーションの中心となっている中で、マクニカの提供するソリューションとポジショニングがこのトレンドと一致していることと説明した。

マクニカ

 視覚障害者向け歩行ナビゲーションデバイスを開発するAshiraseは、VivaTech公式サイトで「注目すべき6社(6 Unmissable Startups)」の1社として紹介されており、AI Avenue内に出展。開催前から「視覚障がい者の移動をサポートする日本発のテクノロジー」と注目されていた。このデバイスは靴に装着するシンプルな構造で、足元の振動によって方向や行動を伝えることで、視覚や聴覚を使わず、両手や耳をふさがない、より安全で自由な移動を実現する。2025年9月からは欧州での販売開始を予定しており、まずはドイツからスタートするとのことだ。

Ashirase

 6月12日には、世界中の都市のスタートアップ、イノベーションエコシステムを包括的に調査し、ランキングしているStartup Genomeによる最新のレポート「Global Startup Ecosystem Report 2025 (GSER2025)」を、「Unveiling Startup Genome's 2025 Global Startup Ecosystem Report」と題したセッションにて発表した。Startup Genomeは、スタートアップエコシステム向けの世界をリードする政策アドバイザリーおよび調査会社で、世界中のクライアントやパートナーと協力し、政策立案者や起業家エコシステムのリーダーを支援している。

 東京都はグローバルスタートアップエコシステムの第11位にランクイン。2024年の10位から順位は下げたものの、知財については世界3位と高い評価を得ている。ただ本セッションに登壇した、経済産業省イノベーション政策統括調整官の福本拓也氏も日本はエコシステムとスタートアップ向け政策システムを改善することで変化を遂げているが、中国や米国のほうがエコシステムの発展においてはるかに速かったと認識しているとした。とくにAIについては課題を感じており、あらゆる産業へのAIの利用が十分ではなく、国内の伝統的産業の潜在性を引き出すためにもAI利用の重要性を示した。

 AIが引き続き大きなテーマとなった今回のVIVA Tech2025だが、実際にランキングの結果もそれを示しており、今回もっとも注目されたのがフィラデルフィアで、前例のない躍進と12ランクアップという過去5年間で最も強い成長を見せた。その要因が新たに設立されたスタートアップの中で、ネイティブAIスタートアップの割合が最も高い都市のひとつであることとされた。

■関連サイト

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー