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「0%のがん検診率が46%に!」行動科学AIで「人が動く仕組み」を解き明かす

“共感力”を数値化し、社会課題に向き合う。Godotが描く“人間拡張”の最前線

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英国で研究された行動科学が礎

 GodotのAI開発技術とともに、ソリューションのベースとなっているのが行動科学だ。人間の行動を科学的に研究し、法則性を解明することを目指した学問である。「日本では行動科学は、マーケティングでの活用がメインと思われているが、決してマーケティング分野だけの学問ではない」と森山氏は強く訴える。

 Godotの学術顧問には、森山氏も留学中に学んでいた英国の大学教授が名を連ねている。研究に基づき、マーケティング以外の領域でも行動科学が活用できることを実践している。

「行動科学は、人間の行動、原理を理解する学問なので、例えば『人間関係がうまくいかない』という課題と非常に相性がよく、そこに一番価値を出すことができる」(森山氏)

 人間関係がうまくいかないことに対しては、普遍的であるが故に解決が難しい課題と考えてしまいがちだ。しかし森山氏は「科学的に阻害要因、促進要因、行動メカニズム、介入の手法という風に分解していって、行動原理解剖図を生成し、ここから自分が今、何をやるべきなのか、やったけれどうまくいかなかった時は次に何をしたらいいのかを考える手段を提供していく」ことで、人間関係にも解決の糸口を見つけることができると指摘する。

 この行動原理解剖図をもとに行う説明については、当初は懐疑的だった相手にも効果的だという。「『実はこういうことが起きている』といった裏で何が起きているのかを説明することによって、『完全に見落としていた』、『盲点だった』などの声をいただいている。また、問題の範囲と時間軸を少し広げるだけでも、改善の余地があることが『すごく参考になる』といった反応をしてくださるお客様も多く、信用してくれるようになる」という。

 さらに、実際に導入した企業、団体では着実に成果を出している。

「自分たちの状況を俯瞰することで、これまでのUXデザインコンサルタントなどが問題点を見つけ出すという作業を半年間~1年かけてやっていたものが、我々のAIシミュレーションを使うと1分間で問題点を見つけ出すことができる。その指摘は科学的根拠があるもので、何故、その指摘となっているのか説明もできる。実際に我々のソリューションを利用して問題を改善した実績も出ている」

 ある自治体では、半年間で受診者0だった大腸がん検診を、受診率46%と大幅に改善することに成功した。また、ある民間企業では、契約更新を行うスピードが大幅にアップし、数週間単位で大幅に改善することに成功したという。

「飴と鞭を使って改善するのではなく、そもそも何故うまくいっていないのか、AIシミュレーションを行うことで俯瞰し、手始めに取り組むべき課題は何かを特定し、特定された課題を解決するところからスタートするというのが我々のアプローチになる」

 現在、取引先を保険会社をはじめとする大手企業にフォーカスしているという。

「業界や分野に関係なく、人間の行動原理をシミュレーションできるインフラになることを目指しているが、きちんとビジネスを進めていくためには、自分たちのビジネスと相性が良い業種、バーティカルを少なくとも一つ持っておくことが重要だと考えた。創業から2年、ビジネスを進めていった結果、保険業界が目指す方向性と、我々が提供するAIトランスフォーメーションの相性が非常に良いことがはっきり見えてきた。それをふまえ、まずは保険業という業種をしっかりと掘り下げていく。それと同時に、きちんとデータを蓄積し、他のバーティカルに展開していく時に活用できるような、標準化、プロトコール化を進めている」

 こうした取り組みをデジタル上の文字のやり取りだけにとどめることなく、マルチモーダル化を積極的に進めている。

「文字だけでなく、音声を聞かせる、個別最適化された動画を見てもらうなど、文字以外に働きかけをすることでより良い気づきをもたらしていくことができるのではないか。デジタルに閉じてしまうと適応範囲が狭くなってしまう」とデジタルに留まらない、発信を行う環境整備を進めているという。

海外進出視野に特許も国際対応

 活動の場は日本だけでなく、海外も対象としている。

「日本で開発したアルゴリズムだから、『海外展開はどうなのか』という声はあった。しかし、我々の学術顧問は英国人の先生方。そもそも、日本に閉じた属性に基づいた人間の捉え方ではない。日本で培ったアルゴリズムで国境をまたぎ、同じように成果を出していきたい」(森山氏)

 海外での成果といえるものは現段階ではないものの、先日も世界初のAIスラッジ監査でOECDの革新事例に採用されるなど、サービスに対する評価は非常に高い。海外での評価が高いことには、何か抑えるべきポイントのようなものがあるのだろうか。

「2024年10月下旬から、シリコンバレーとマンハッタンの両方に長期出張したが、その際に現地で評価されたのは、我々の独創的な特許技術だった。我々は創業のタイミング以降、生み出した技術は、日本、グローバルの両方ですべて特許を取得・出願している」

 特許取得はコストがかかることもあり、スタートアップ企業では創業時には対応していないケースも多い。Godotでは外部の専門家との連携、特許庁を通じた政府からの支援、さらに社内に知財専門家を置いて、創業時から特許を意識して事業を進めてきた。

「知財を防御のためだけに使うという発想では、『知財戦略は資金力ができて、企業規模が大きくなってから対応しよう』と考えがちになる。最初から知財でどうやって不労所得を得ようか、また知財によって投資家からの評価を高めようといった発想を持てば、知財にかかるコストは単なる経費ではなく、将来的なリターンを見込んだ投資だと捉えられるようになる。そうなると闇雲に知財特許を取るのではなく、我々の守りたい部分を守るためにはどうしたらいいのかを真剣に考えるようになる。遠隔地での事業展開が難しい場合は、特許を活用して現地パートナーにライセンス提供し、我々の世界観を実現してもらうという方法も選択肢になる」

 社内に対しても、「社員全員発明家」をキャッチフレーズに掲げている。

「社内全員発明家というキャッチフレーズは僕自身が言い出したもので、知財チームだけががんばって知財を取得するという発想ではなく、全社員が自分たちの業務の中で知財の種になりそうなものがあれば、役職に関係なく知財チームに相談してほしいと社内でアピールしている。自分たちの組織内で常にイノベーションの種を探し、知財に関する勉強会を定期的開催する、知財特許取得支援AIエージェントを作り、そこで壁打ちをすることを習慣化するなど、社員全員発明家を実践できるよう懸命に進めている」

 こうした知財戦略とともに海外で評価されたもう一つのポイントは、森山氏の世界観と経験値だったそうだ。「日本特有の課題というよりも、人間をどういう風にモデリングしたらより社会課題解決につながるか、どうやったら、どういう風に人間を捉えたら、その人の成長、その人の所属する組織の成長など、社会を良い方向に変えられるのかといったテーマに取り組んでいるところに共感していただけたのではないか」

 同社は、国や文化によらない普遍的な「人間理解」というテーマに真正面から取り組み、構想にとどまらず事業として成果を出しつつある。AIの進化によってその活用が加速する今、その中でもGodotは独自の立ち位置を築きつつあり、今後の展開が注目されるスタートアップのひとつと言えるだろう。

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