もう1社だけじゃ回らない。“1対多”で進めるイノベーションの現実
1社ではできない時代に、“持続する協業”をどう設計するか

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「自社だけでは手が足りない」
そう感じる場面は、新規事業の現場で決して珍しくない。とはいえ、複数のパートナーと一緒に何かを進めようとすると、思った以上に難易度が高い。意見が合わない、スピードが落ちる、そもそも目的がずれる……。複数のパートナーを巻き込む「1対多」の協業は、実務上の難易度も高いが、それだけに成果も大きい。今回は、その設計の考え方と、実務で使えるヒントを紹介する。
オープンイノベーションは1対1から1対多へ
オープンイノベーションという言葉を聞くと、多くの人が「自社とベンチャー・スタートアップ企業の協業」といった1対1の関係をイメージするだろう。しかし現在では、1つのプロジェクトに複数の企業が関わる「1対多」や、さらには業界横断で構築される「多対多」のエコシステム型協業も増えている。
ある研究によれば、外部パートナーの関与時期によって製品の市場投入スピードや寿命が変わるという。開発の初期段階で関与を広げれば製品の完成度は上がるが、スピードは落ちる。逆に、発売直前に巻き込めばスピードは出るが寿命は短くなるという。
つまり、新製品の「質」を取るか「速さ」を取るかで、外部との関わり方も変える必要があるというわけだ。
実務で使える協業設計のヒント
実際の現場でどう応用できるのか。例えば次のような方針が考えられる。
-
初期フェーズで複数パートナーを巻き込む:アイデア創出や技術検証の段階では、複数社からインプットを得ることで製品寿命を延ばす。
-
中期以降は1対1でスピードを担保:量産化や市場投入に向けたフェーズでは、パートナーを絞ってスピードを重視。
-
プロジェクト全体に関わる“ゆるやかな共創型パートナー”の設定:コアパートナーの外に、緩やかに関与する企業群(ユーザー企業、大学、地域団体など)を設けることで、柔軟性と多様性を両立できる。
例として古くからオープンイノベーション活動が普及していたイスラエルでは、大企業が1対1の枠を越えて、ベンチャーや地域エコシステムとの「1対多」の関係を築き直す動きも進んでいる。自社の立ち位置と協業相手の成熟度を見極めつつ、段階的に巻き込む相手を増やしていく姿勢が求められる。
協業の戦略設計が成功への第一歩
1対多の協業は、単純に参加企業が増えるというだけでなく、プロジェクトの設計そのものを見直す契機となる。情報共有、役割分担、意思決定のルールなど、1対1とは違った設計思想が必要になる。まずは「目的に応じて誰を、いつ、どう巻き込むか?」という問いから始めてみてはいかがだろうか。
■本記事をもとに、生成AI(Notebook LM)を活用して構成したPodcastを配信中
「オープンイノベーションや新規事業開発まわりの共通言語を理解する1冊」
社内での「イノベーション活動」に関わる中で、おさまりの悪さを感じたことはないでしょうか。数々の取り組みの概念のつながりや位置づけを理解し、実践できる著者による書籍『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』(羽山友治 著、ASCII STARTUP/角川アスキー総合研究所刊)では、何から始めればよいかがわかります。興味のある方はぜひチェックしてみてください。
■Amazon.co.jpで購入
-
オープンイノベーション担当者が最初に読む本 外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド羽山 友治、ASCII STARTUP KADOKAWA






























