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東京が止まっても、地域は動ける。自走型イノベーションのリアル

自治体と地元企業が「いまから始められる」実践策を探る

連載
羽山友治の【新規事業が動く思考スイッチ】

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。

東京一極集中の限界

 人口減少と地域経済の疲弊が進む中、日本のイノベーション政策も転換点を迎えている。では、日本各地でイノベーションを起こすには何が必要か。海外の知見も踏まえつつ、自治体と企業が取るべき“現実的なアクション”を考えてみよう。

なぜ今、日本で必要なのか

 場所ベースの政策の価値は、単に都市への過度な集中を是正するという点にとどまらない。自然災害が多くリスク分散が重要な日本において、複数地域にイノベーションの核を分散することは、国家レベルでの「レジリエンス強化」につながる。

 加えて、国内各地に点在する“未活用の強み”、例えば、伝統産業、技術的な蓄積、地元大学や高専との関係性などを掘り起こし、イノベーションにつなげる構想力がいま求められている。

まず問うべき「地域選定」の基準

 政策を実行する上での第一歩は、「どの地域に、どのような支援を行うか」を明確にすることだ。これは恣意性を排除し、透明性ある判断が欠かせない。

 以下のような観点で、事前に評価指標を設けておく必要がある。

  • 一定の経済的・産業的基盤があるか

  • 地域独自の強み(技術、人材、ネットワークなど)が明確か

  • 自治体がイノベーションを進める意思と体制を持っているか

 また、短期の成果を求め過ぎず、10年スパンの視点でじっくり取り組むことが重要である。

地域の戦略設計は「共創」で

 続くステップは、選定された地域ごとの「戦略づくり」である。重要なのは、中央からの一律的な指導ではなく、地域の関係者が主体的に設計することである。

 政府や中央省庁は、知識提供や人材支援には関与すべきだが、「何を目指すか」「何を強みにするか」は、地元プレイヤーが責任をもって決めるべきだろう。米国や欧州の成功事例も、こうした「地元起点の戦略設計」が核になっている。

成功に必要な“支援の厚み”

 地域が描いた戦略を具体化するには、多様な支援が必要となる。特に注目したいのが以下のポイントだ。

  • 人材確保:自治体・企業の双方で「イノベーション政策を担える人材」が不足している。広域連携や官民副業などを活用して補完したい。

  • インフラ整備:通信回線・交通・教育・医療といった生活基盤の整備が、移住や定着の大前提となる。

  • ネットワーク形成:地域を越えて他都市や大企業とつながる機会を制度的に設計しておく。

 さらに、プロジェクトごとの成果指標を過度に求めるのではなく、試行錯誤を重ねるプロセスそのものを評価する視点が必要である。

“自治体任せ”と“管理主義”の間を取る

 政府としての難しさも存在する。完全に自治体任せにすると成果が出ず、かといって細かく管理すれば地域の自律性を奪ってしまう。そのバランスを取るには、以下のような姿勢が求められるだろう。

  • 使途の自由度を認めつつ、明確なガイドラインを提示

  • 中間支援組織やファシリテーターの活用

  • 目標達成ではなく、改善のプロセスを共有する仕組みの導入

 日本におけるイノベーション政策の大きな課題は、「実施と評価の分離」だ。現場の裁量を尊重しながら、政府や支援機関が伴走する体制が必要とされる。

最初の一歩は“できること”から

 スイスの小都市での成功例(前回記事参照)でも示されたように、必ずしも壮大なビジョンが必要なわけではない。まずは、以下のような取り組みが現実的な一歩になるだろう。

  • 高速インターネット環境等のインフラ整備

  • 小規模な異業種交流会や学びの場の創出

  • 地域コミュニティに根ざした人材ネットワークの構築

  • 都市圏とのリモート連携を可能にするテレワーク拠点の整備

 こうした“小さな成功体験”を積み重ねることで、地域に自信が生まれ、新たな挑戦へとつながっていく。地方で始まるイノベーションは、これからの日本にとって不可欠な力になるはずだ。


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