中央の指示待ちでは変わらない。“地域起点”が世界で成果を出している理由
米国とスイスの地域エコシステムに学ぶ実践的ヒント

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「地方でイノベーションは起きない」という常識は本当か?
実は世界各地にはそれを覆す事例が存在する。米国、スイス、欧州各国では、地域の小さな町がグローバルな競争力を持つエコシステムを育てている。今回は、そうした実例から学べる“地域の伸ばし方”を整理していく。
米国:エコシステムの多様性に対応するRIEプログラム
米国では、全米科学財団(NSF)が主導する「Regional Innovation Engines(RIE)」プログラムが注目されている。これは、シリコンバレーのような既存の先進地域ではなく、エコシステムが未成熟な地域を優先して支援する構造だ。
RIEの特徴は、「単一の中核組織を置かず、複数のプレイヤーによって構成されるネットワーク型モデル」を採用している点にある。地域の関係者による自発的な戦略設計と、柔軟な連携が重視されており、地域の強み・課題・文化に合わせた多様なエコシステムのあり方が認められている。
スイス:小規模な町からの世界的競争力
もう一つの印象的な事例が、スイス東部の人口密度の低い町での取り組みである。この地域には技術系大学もなく、産業の集積も限られている。しかし、精密光学や通信機器、自動車工学といった分野で、世界的な競争力を持つ企業群が存在している。
その理由として挙げられているのは、以下の3点だ。
1. 人材の多様性:企業が国内外から幅広く人材を採用している。
2. コミュニティの密着性:小規模な町だからこそ、企業や住民同士の交流が密である。
3. 外部との接続性:頻繁な出張やオンライン会議を通じ、外部の知見を積極的に取り入れている。
また、大都市にはできない「個社ごとのニーズへの対応」が可能であることも、小さな自治体ならではの利点とされている。
地理的制約よりも“つなぐ力”
上記の事例から読み取れる共通項は、「物理的な資源よりも、外部と接続する能力」の重要性だ。小さな町であっても、世界中とつながる意識と仕組みさえあれば、イノベーションの芽を育てることは可能なのである。
また、地域政策として特に有効とされているのが以下の3点である。
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デジタル・交通インフラの整備:物理的・情報的な接続性の基盤。
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人材とその家族への支援:教育・医療・生活支援の充実。
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地域の「一体感」醸成:自治体や企業の垣根を越えたコミュニティづくり。
日本への示唆
スイスのように、大学がなく、企業集積も少ない町でもイノベーションが起きているという事例は、日本の地方にとって大きな希望となるだろう。成功のカギは、「地理的な制約」よりも「つながる力」にある。都市か地方かではなく、外部との接点をいかに持てるか。地域の強みをどう見出し、どう他と組み合わせるか。その視点こそが、地方に眠る可能性を引き出すのだ。
また、予算や制度の柔軟性も大きなポイントである。現場の裁量を信頼し、「地域が自ら戦略を描ける」設計にすることで、成功の確率は高まる。自治体の側も、単なる補助金の使い道を超えて、自らのビジョンと構想を明確に持つことが求められている。
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