ケルヒャーを超える『亜臨界水洗浄』という最終兵器
常温で香りを引き出す「減圧蒸留法」
「水は100℃で沸騰する」──これは誰もが学校で習った常識だが、実は「1気圧下で」の話である。気圧が下がれば、もっと低温でも水は沸騰する。これを利用して、30~40℃程度の常温で植物の香りや成分を抽出する「減圧蒸留法」が最近注目されている。精油の抽出やカクテルの香り付けにも使われ、都内の一部のバーでは「真空蒸留で仕上げたジントニック」なんてメニューも登場しているらしい。
圧をかけると、水は“変態的”に進化する
つまり、気圧を変えれば水の性質は変わるということだ。では、逆に“圧をかける”とどうなるのか? 水の沸点は上がり、まるで洗剤のように有機物を分解できる“変態的”な状態へと進化する。要は、圧力鍋で煮ると具が柔らかくなるのと同じで、加圧によって水の力そのものが強まるというわけだ。
暴走寸前の水「亜臨界水」を外で扱えるように
これが「亜臨界水」と呼ばれる状態である。高温・高圧の環境下で、水の性質が変化し、水では落とせないような有機汚れや油分を溶かすほどの洗浄力を発揮する。これまでは密閉容器の中でしか扱えなかったが、この“暴走寸前の水”を外部で安全に噴射できる装置を開発したのが、京都大学発の株式会社HotJetだ。
水洗浄の最終形かもしれない
同社の開発する洗浄装置「HOT JET」は、いわば“水洗浄の最終形”。洗剤や溶剤を一切使わず、140℃の亜臨界水をノズルから直接噴射し、こびりついた汚れを一瞬で浮かせて蒸発させる。その威力はすさまじく、HOT JETの紹介動画を見ると、金属の鉄板にこびりついた黒い油汚れが「ジュー」という音とともに消えていく。「AIのマジックブラシじゃなくて?」と目を疑ってしまうほどだ。
洗剤ゼロでカビ・鉱油にも効く
もちろん高温ではあるが、噴射後すぐに蒸発するため飛び散りが少なく、安全性も高いという。熱による殺菌効果も期待でき、厨房機器や医療・介護施設の洗浄、工場設備のメンテナンスなどでの利用が想定されている。
「高圧洗浄機やアルカリイオン水で十分では?」と思う人もいるかもしれないが、HOT JETは従来の水洗浄では太刀打ちできなかったカビや鉱油のような“手ごわい汚れ”にも対応できる。現在は業務用とのことだが、BBQの片付けや庭まわりのカビ落としに使いたいので、ぜひ家庭用も出してほしい。
「水の再発明」にじわる
「沸点を下げて香りを引き出す」減圧蒸留の繊細さとは対照的に、「圧をかけて汚れを吹き飛ばす」亜臨界水の豪快さがたまらない。「水って、こんなに強かったのか」と素直に驚かされた。水に圧をかけて性質を変え、薬剤を使わず汚れを洗い流す。地味に見えて、これは“水の再発明”と言っていいかもしれない。




































