冷凍庫がうなる夏に。氷はただの“冷えた水”ではない、という話
冷凍庫が止まらない夏
連日の猛暑。冷凍庫から「ぶぅぅぅん」という機械音が止まらない。保冷剤、アイス、冷凍うどん、凍らせたペットボトル。極力外に出たくない我々の生命線である冷凍庫が、こちらも連日の稼働を続けている。
氷は勝手には凍らない?
それにしても、氷というのは当たり前すぎて考えることもない存在だ。水を冷やせば凍る。そう思っている人がほとんどだろう。だが実際には、水が凍る過程には「氷核」という“発火点”が必要になる。凍るきっかけがなければ、水は0℃を下回っても凍らないことがある。いわゆる「過冷却」という現象だ。
氷のタイミングをコントロールする技術
この凍る・凍らないの境界を制御する技術に挑んでいるのが、関西大学発ベンチャーの株式会社KUREi(クレイ)だ。植物由来のポリフェノール配糖体など、自然素材を用いて氷核の生成を抑え、過冷却を維持する。つまり「凍るタイミングをコントロールする」ことが可能になる。
ナノレベルで“氷結晶”を設計
さらに、いったん氷ができた後の「結晶の成長」まで制御できるという。冷凍食品では、氷結晶が大きくなると食品の細胞が破壊されて食感が損なわれるが、成長を抑えて結晶を微細に保てば解凍後も品質が維持される。まさに“氷をナノレベルでデザインする”発想だ。
食品から農業・インフラへ応用が拡大
この技術は冷凍食品加工への応用だけではない。例えば、冬場の道路や橋の凍結被害の低減、農作物を突然の霜から守る「遅霜対策」など、広範な用途が期待されている。氷の発生タイミングや結晶の育ち方を制御できれば、従来の除氷・融雪とは異なるアプローチで“氷害”に先回りできる。実際にコーヒーかすの成分を使った凍霜害対策剤「フロストバスター」も製品化され、農業現場で導入が進みつつある。
氷はただの“冷えた水”ではない
どこで凍るか、どう凍るか。ふだんは気に留めることのない現象を精密に操る技術が、食品の裏側でも、インフラの安全でも、じわじわと効いている。
自宅でもできる「過冷却」の実験
ちなみにこの「過冷却」、ペットボトルのミネラルウォーター1本あれば自宅でも観察できる。冷凍室で2〜3時間、凍らないギリギリの状態まで冷やした水をそっと取り出し、机に“コツン”と軽く打ちつけると、一瞬でシャーベット状に凍る。冷凍庫に入れる時間や温度管理がシビアなのでやや運任せなのだが。猛暑で外に出たくない夏の午後、家にあるもので小さな氷の魔法を試してみてはいかがだろうか。






















































