
著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「新規事業開発って、結局“現場のがんばり”に任せるものじゃないの?」
そう思っている方にこそ伝えたい。人的資源の設計なしに、新規事業は動かない。仕組みやフレームワークが整っていても、そこに適切な人材がいなければ絵に描いた餅に終わる。そして、その“人”を見極め、育て、チームとして動かす仕事こそ、まさに人事の領域なのだ。
「向いてる人」は現れる。だから全員に開いておく
新規事業の担い手は、特殊な能力を持った一部の社員だけと思われがちだが、実はそうとも限らない。確かに業務範囲が広く、不確実性も高いため、向き・不向きはある。だが近年では、リーンスタートアップや顧客開発モデルといった実践スキルが体系化されており、訓練によって十分キャッチアップ可能になっている。
重要なのは、“誰を育てるか”を決め打ちしないことだ。例えばドイツのSAPのように、イントラプレナー向けのオンライン講座(MOOC)を広く社内に開放することで、「やりたい人」「やり続けられる人」が自然と絞り込まれていく構造をつくれる。
この“自己選抜型”のアプローチは、日本企業でも十分に機能する。最初から選抜するのではなく、「機会を開き、それを取りに来た人を育てる」ことが本質だ。
本気で学んだ人には、本気の投資を
意欲を見せた人材には、それに見合う支援が必要になる。例えば、「アクションラーニング」という実践的な研修では、自らのプロジェクトを題材に学びを深められる。時間もコストもかかるが、すでに選抜された有望人材に投資する形であれば、十分に見合うだろう。
さらにこうした研修は、横のつながり=社内ネットワークを生む副次的効果もある。社内の“志ある仲間”が自然と集まるコミュニティーは、新規事業の土壌として機能しうる。
チーム編成は「人事権」ではなく「信頼関係」で
新規事業は、1人で立ち上げても、途中からは必ずチーム戦になる。そしてこのチーム編成の良し悪しが、実は成果を左右する。
理想的なのは、「スキルが補完し合えるメンバー」であり、「ある程度の信頼関係がある」組み合わせ。ベンチャー・スタートアップ企業を対象とした研究では、この2つの要素を両立した「二重形成戦略」が最も成功確率が高いという結果もある。
社内であっても、上司の一存でチームを組むのではなく、アイデアを出した本人が“誰と組むか”を選べる仕組みがあるだけで、チームの機動力は大きく変わる。
成功しなくても、育つものがある
新規事業がすべて成功するとは限らない。だが、関わった社員は確実に育つ。企画・検証・交渉・意思決定……普段の業務では得られない力が、実践を通じて身につけられる。
テーマが小さく、収益が見込めないとしても、人材育成という観点では取り組む価値がある。その視点を持つことで、事業の「成果」だけでなく「人を育てる装置」としての新規事業を捉えることができる。
新規事業は、特別な人の“ひらめき”で生まれるものではない。企業として、「人を見つけ、育て、つなぐ」構造を設計するかどうかにかかっている。
その構造をつくるのは、現場だけではない。人事の視点こそが、新規事業の地盤になる。今、新たな成長に向けて動くなら、まず「人から」始めてみてはいかがだろうか。
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