
著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「うちも新規事業に取り組まないと」
と思ってはみたものの、何から始めればいいのかわからない、という企業は少なくない。実際にはアイデアや手法よりも、継続的に事業を生み出す“仕組み”そのものをどうつくるかが、意外と難しい。
その仕組みを動かすカギとなるのが、「人」の動機づけと活用法だ。特に注目したいのは、インセンティブ設計と社外人材の活用である。今回はこの2点に絞って、新規事業の仕組みづくりを考えてみたい。
「仕組み」を機能させるには、“動機付け”が必要
新規事業の仕組みづくりというと、アクセラレータープログラムの立ち上げや、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の運用、はたまたベンチャービルダーの導入など、「組織構造や制度の話」になりがちだ。だが、どんなに仕組みを用意しても、実際に動かすのは人間である。
特に新規事業は、成果がすぐに出るわけでもなく、先の見えない取り組みになりやすい。そうした中で担当者のやる気が続くかどうかは、報酬や評価の設計次第とも言える。
インセンティブとしては、「貢献度合いに基づくボーナス」や「マイルストーン達成に応じた報酬」「売上や利益に応じたロイヤリティ」などが代表的だ。しかし、これらの「成果連動型インセンティブ」には問題がある。これらの多くは“成果が出た後で”報われる仕組みのため、目の前の行動につながりづらいのだ。
内発的動機を高める“日常レベルの工夫”が効果的
最近の心理学では、「楽しい」「うれしい」といった内発的動機が、行動の持続に強く影響するとされている。例えば、「アイデアを提案したらコーヒーチケットがもらえる」「展示会に参加すると一流ホテルに宿泊できる」「インタビューやヒアリングごとに小さなインセンティブを用意する」といった小さな“ごほうび”が意外と効く。毎日の活動に意味や楽しさを感じられる仕掛けが、仕組みを支えてくれる。
また、新規事業の推進には「予測不能な状況を切り抜ける力」「裁量を持って動ける自由さ」「他部署や社外との関わりから得られる刺激」など、日々の業務そのものがモチベーションの源泉になりやすい。これらの“前向きな経験”を意識的に演出することも、仕組みの一部に含めてよいだろう。
外部の「一流の助っ人」が仕組みを支える
もうひとつの論点は、リソースの限界をどう超えるか。多くの企業が直面するのが、「新規事業をやりたいけど、やれる人がいない」という問題だ。
ここで注目されているのが、EIR(客員起業家:Entrepreneur in Residence)という、外部の起業家や専門家をプロジェクト単位で社内に招き入れる仕組みだ。一般的な採用とは異なり、業務を限定しているところがポイントで、高度な専門性を"必要なときにだけ"活用できる。国内では、南海電鉄や三菱地所で導入事例がある。
またEIR以外にも、外部の業務委託人材や副業人材、あるいはベンチャービルダー経由でリクルートされる創業者候補の活用など、手法は多様化している。いずれも「必要なスキルを、必要なときに、必要な分だけ調達する」考え方に基づいており、従来の“採用して育てる”モデルとは大きく異なる。
こうした社外人材を柔軟に使いこなすスキルは、今後の競争力にも直結するだろう。
仕組みは「制度」だけでなく「人の設計」が大事
制度や枠組みを整えても、それを動かすのは結局「人」である。その人をどう動かすか、どう補うか。その設計が、新規事業の仕組みを機能させる本質的なカギになる。
次回は、実際にこうしたインセンティブ設計や外部人材活用に取り組んでいる企業のケースを取り上げながら、「誰がどのように仕組みを運用しているのか」に迫っていく。
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