SOMPOグループではコールセンター端末として検証、ITコストの課題を解消
「Windows 365 Link」の実力は? 手のひらサイズのクラウドPC専用端末
2025年05月02日 08時00分更新
Microsoftが、2024年のIgniteで披露した「Windows 365 Link」。同社が提供するDaaS(Desktop as a Service)の「Windows 365」専用シンクライアント端末であり、2025年4月2日(米国時間)から、日本市場でも一般提供が開始された。
端末内にデータが保存されないため情報漏えいの危険性が低く、Windows 365のシフト業務向けプランと組み合わせることで、コールセンターや工場、店舗用端末としての需要にも応える。参考価格は5万6800円(税抜)。日本では唯一のリセラーとして、日本ビジネスシステムズが販売を担う(個人向け販売はなく、マイクロソフトからの直販も可能)。
本記事では、4月25日に開催された一般提供開始記念イベントから、Windows 365 Linkの概要や、プレビュープログラムに参加したSOMPOシステムズによる評価などを紹介する。
Windows 365 Link+Windows 365の実力、ユースケースは?
働き方改革やコロナ禍に伴うリモートワークの普及を経て、2020年前後から「シンクライアント端末+DaaS」というクライアント環境が普及し始めた。その選択肢のひとつとして登場したのが、Windows 365 Link+Windows 365の組み合わせだ。
Windows 365 Linkは、Windows 365向けに設計されたシンプルで安全なシンクライアント端末である。筐体は手のひらにも収まるCDジャケットサイズ(120mm×120mm)で、ここにUSB-A 3.2ポート×3、USB-C 3.2ポート、HDMIポート、DisplayPort、3.5 mmヘッドフォン ジャック、イーサネットポート、ケンジントンロック、電源コード用端子を搭載。無線接続としては、Wi-Fi 6EやBluetoothを内蔵。ディスプレイは4Kデュアルモニターまで対応しており、ファンレス設計のため動作音は非常に静かだという。
大きな特徴は、設計段階からセキュリティを重視しているところだ。ローカルストレージを持たず、管理者権限は不要。「Microsoft Entra ID」と連動して、「Microsoft Authenticator」や「USB セキュリティキー」を使用したパスワードレス認証にも対応する。本体やOSのファームウェア・ドライバーやセキュリティパッチなどは自動更新されるほか、セキュリティ関連機能はデフォルトで有効に設定されている。
ユーザーはこのWindows 365 Linkを使って、マイクロソフトが“クラウドPC”と呼ぶWindows 365にアクセスする。インターネット環境さえあれば、どこからでもAzure上でホストされたWindows環境にアクセスでき、管理者は、運用管理サービスである「Microsoft Intune(Intune)」でシンプルに展開・管理が可能だ。
利用にあたっては、Windows 365のSSO (シングル サインオン) が必須となっているため、デスクトップが表示されるまで待機時間はわずかだ。筆者も実機を触ってみたが、操作のレスポンスも早く、違和感は全くなかった。同じAzure上にあるTeamsやOfficeなどのアプリケーションとも親和性が高い。なお、社内リソースにはVPN経由でアクセスできる。
管理者の視点でみると、Intuneを使うことで、Windows 365や既存端末を統合管理できるため管理負荷を軽減できる。一方、現環境では、Windows 365 Linkが「Windowsデバイス」として登録されるため、他のWindows端末と一括りでポリシーが割り当てられる点に注意が必要だ。その際は、動的デバイスグループや特定のフィルターを作成するとWindows 365 Linkだけを制御できる。
Windows 365 Linkは、どのようなユースケースに最適なのか。MicrosoftのCloud Endpoint Specialistである渡部未来氏は、まず、個人情報や機密情報を取り扱うような業務での利用を挙げる。「Entra IDでクラウドPCの入り口が守られ、データはAzure上でテナントごとに隔離される。なによりクライアント端末にデータが保存されない」と渡部氏。
また、Windows 365のプランのひとつである「Windows 365 Frontline」(詳しくは後述)と組み合わせることで、コールセンターや工場、店舗などのシフト業務用端末や、受付デスクやPC教室に設置する共有PCとしての需要にも応える。これらのユースケースはほんの一例だという。
SOMPOグループはどう評価し、どう使う予定か?
損害保険ジャパン(損保ジャパン)が中枢を担うSOMPOグループの一員として、同グループのシステム開発や保守などを担うSOMPOシステムズ。何千、何万もの端末を抱える同グループでは、そのITコストが課題となっている。そこで、Windows 365 Linkに可能性を見出し、プレビュープログラムに参加したという。
SOMPOシステムズのアーキテクト本部 R&Dグループ 課長である関谷雄太氏は、「シンクライアントやリモートデスクトップなど、都度、何が最適かを問われていた。フルマネージドのシンクライアント端末で、従来のセキュリティ対策が不要になることに魅力を感じ、プレビューに応募した」と振り返る。
Windows 365 Linkを試用してみると、「セットアップの早さ」に驚いたという。「Entra IDで環境を構築したら、1時間以内で端末をセットアップできた」と関谷氏。
また、従来のシンクライアント端末と異なり、通信遅延の影響が少なかったことも高評価だった。「操作してみると、シンクライアント端末であると全く感じなかった。Teams会議では、通信の兼ね合いで画質が粗くみえるところがあったが、レスポンスに関しては良好で、IDE(統合開発環境)のコーディングでも問題がなかった」(関谷氏)
その他にも、端末にデータを残さず、盗難や故障のリスクもないため、課題であるIT管理コストを減らすことができるという。
実際の使い方として想定しているのが、全国に263拠点を持つ保険金サービスの「コールセンター用端末」の置き換えだ。シフト業務とWindows 365のFrontlineプランとの相性が良いという。「開発用のテスト端末」や「貸与端末」としての利用も模索していく。
今後は、これらのユースケースに沿って、実際のネットワーク環境で検証を進めていく予定で、3桁以上のユーザー数を見込んでいるという。
