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大谷イビサのIT業界物見遊山 第39回

新型コロナ真っ最中の日本、ビジネス基盤になり始めたSaaSの最新動向

2021年04月30日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 人手不足やダイバシティなどを起点とした2019年の働き方改革、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年のテレワークブームを経て、いよいよSaaSがビジネスの基盤になってきた感がある。ここでは、最近フォーカスしているビジネスチャットやコンテンツ管理、ワークフローなどの分野でなにが起こっているかを見ていこう。

働き方改革とコロナ禍で急成長するMicrosoft Teams

 コロナ渦においてテレワークが当たり前の働き方となり、昨年はクラウドの需要が一気に加速した一年だった。こうした中、一気に存在感を伸ばしたのはMicrosoft Teamsだ。Teamsの強さを考えると、ビジネスクラウドの次の方向性が見えてくる。

 昨年、掲出した「2028年、リモートワークが消えた日」のモデルになっているかみさんの不動産管理会社だが、実はあの記事の通り、リモートワークとクラウド化を加速させている。1990年代からの遺産であるNotesや国産グループウェアから脱却し、たどり着いたのはOffice 365、Outlook、Microsoft Teamsなど「ほぼマイクロソフト」のクラウド環境である。「ほぼ」と付くのは、勤怠管理にTeamSpirit、クラウドストレージにBoxを使っているからだが、適当なサービスがマイクロソフト製品にあれば、たぶん完全に乗り換えるだろう。

 私のような1990年代から活動している古参記者からすれば、マイクロソフトは「OfficeやWindowsの会社」だ。しかし、かみさんの話しぶりを聞いていると、最近のビジネスパーソンからすれば、マイクロソフトは「Teamsの会社」になったのではないかと思う。マイクロソフトによると、Teamsの2020年10月時点のDAU(Daily Active User)は昨年の約5倍の約1億1500万人。成長率でZoomを上回り、Windows以上の成長を遂げるとも言われている。これだけの伸びを示せば、Teamsの存在感が高くなるのは当然だ。実際、昨年読まれた記事はなんですか?と聞かれれば、「Teams含めたMicrosoft 365の連載」と答える。

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 Teamsがここまで急成長したのは、オールインワン型の強みを発揮したというのが一般論だ。私自身も昨年まではそう思っていたし、実際にMicrosoft 365のユーザーだからTeamsを使うという企業は多い。しかし、「マイクロソフト=囲い込み」を連想するのはすでに時代錯誤で、他社のさまざまなサービスと連携できるのがMicrosoft Teamsの強み。オールインワン型でありながら、他社のツールと連携できる柔軟性が売りで、そしてソフトウェア企業としての圧倒的な開発力を背景としたスピーディな進化がTeams成長の原動力だと考えられる。

ディープに連携していくSaaS

 急成長するMicrosoft Teamsの対抗馬となるZoom、Google、Slackなどのサービスが指向しているのは、「アプリinアプリ」や「インライン連携」とも言える、よりディープな連携である。Googleスプレッドシートのリンクを共有するとアクセス権の設定までインラインで行なえるSlackの連携は典型的だ。こうなるとSlackユーザーからは、連携先のサービスを利用している意識が希薄になる。

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 いまだに激しいプラットフォーム争いを続けているIaaSの領域と異なり、SaaSはつながるサービスが増えれば増えるほど、その価値を増していく。「Salesforceで顧客情報が更新されたらSlackに通知される」といった簡易なAPI連携は以前から提供されてきたが、昨年は国内クラウド同士の連携も進み、日本市場で人気のサービスも連携の恩恵を受けられるようになってきた。

 一時期、「アプリケーションハブ」を謳っていたSlackは、ユーザーのもっとも手前にあるチャットの役割からディープな連携を指向しているが、データの保管場所という観点からアプリ連携を進めているのがBoxだ。Box Platformでは、既存のアプリからBoxに格納しているファイルを呼び出せるため、アプリごとのデータストレージやファイルビューアーを作り込む必要がなくなる。

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 こうしたディープな連携が進むと、別のアプリにログインしなくとも処理がアプリ内で完結するため、両者はシームレスに統合される。まるで1つのシステムのようにアプリ同士が連携して、業務改善や可視化を実現するわけだ。

導入したけど、使いこなせないというクラウド市場の課題

 SaaS連携にも密接に関わるトピックだが、近年はタスク管理やプロジェクト管理、ワークフォースマネジメントなどのSaaSが大きな注目を集めた。国内市場への本格展開を進めるために2019年に日本法人を設立したWrikeやAsanaなどは、既存のタスク管理よりもチーム指向で、プロジェクト管理ツールよりも簡単に利用できるワークマネジメントというジャンルを謳う。

 今になって国内進出を決めた海外ベンダーがその理由として口をそろえるのは日本の「HATARAKIKATA KAIKAKU(働き方改革)」だ。ご存じの通り、日本は縮小する市場や少子高齢化、先進国と比べて低い生産性、もはや倒産を引き起こすレベルに至った深刻な人手不足など多くの課題を抱える。仕事は増えるが、給料は上がらず、現場の人員も増えないというこうした日本企業の現場で、最新のワークフローツールがどのようにアダプトされるのか、海外のベンダーも気にしているのである。

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 とはいえ、ツールはあくまでツールであり、そこに目的と戦略がなければ成功はおぼつかない。コロナ渦のテレワーク体制構築のため、ツールは入れたものの使いこなせないユーザー企業は今後ゴロゴロ現れるはずだ。

 「すぐに導入でき、すぐに辞められる」ということでクラウドサービスを大量に導入した結果、ユーザーが混乱・疲弊してしまうことも多い。さまざまなアプリから矢のように通知が飛ぶので、振り回される従業員はいい迷惑だ。一方で、担当や決定権者の概念があいまいすぎて、タスクやプロジェクトにアサインできず、ワークマネジメントが導入できないという話も聞く。いずれにせよ、日本企業においては、クラウド導入の前に解決すべき課題は山積している。

 こうした事態を想定し、企業ごとに最適な働き方・業務改善提案を実現すべく、いっしょに汗を流してくれるカスタマーサクセスやパートナーが必要になる。単純にツールの導入や使い方の紹介だけでは、ユーザーはもはや納得してくれない。業務に組み込まれるところ、業務改善に結びつくところまで、求めてくるはずだ。最近SaaSベンダー中心に、働き方に関するシンクタンクや研究機関を創設する動きも、こうした顧客課題の理解を深める流れの1つとして捉えられる。

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 クラウドの登場で、多くの企業では自社にあわせたシステムを時間をかけてスクラッチで作っていくことがナンセンスとなった。自社の業務にあったSaaSを利用するか、クラウドサービスを組み合わせてシステム構築するかといった選択肢の中で、ソフトウェア開発会社やSIerが指向すべき今後のビジネスは、ユーザーと併走しながら、クラウドの活用を考えることだ。いかにユーザーの業務フローにあわせたビジネスクラウドのパイプラインを構築できるかが鍵となる。
 

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