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知財が強い日本のディープテック成長に必要なのは連続起業家、M&A、エクイティストーリー

SAKURA DEEPTECH SHIBUYAがオープン〜産官学とスタートアップの交流、発信の場としての役割に期待〜

 渋谷駅直結の「Shibuya Sakura Stage Central Building」の12階にディープテック支援施設「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」が開業した。産官学があつまり、スタートアップの交流、企業との出会い、発信の場となるHUBを目指すとしている。

 テナントを手掛ける東急不動産の黒川泰宏執行役員本部長は、開業にあたっての挨拶にて、単なるスタートアップ拠点にとどまらず、企業や人材の交流の場として機能し、スタートアップが開発した技術の社会実装の場として、技術だけでなく文化も発信する場として、渋谷全体がグローバルな街として成長することへの期待も寄せされた。

 SAKURA DEEPTECH SHIBUYAは、東急グループの「Greater SHIBUYA 2.0戦略」に基づくもので、渋谷駅半径2.5キロメートル圏内のエリアを「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」として、「働く」、「暮らす」、「遊ぶ」が融合した都市ライフの提案の一環として位置付けられている。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)とのパートナーシップを締結し、スクラムスタジオ株式会社が推進するアクセラレータープログラムの提供など、国内外のさまざまなスタートアップや事業会社とが出会い、国際社会へ発信してゆく場として、渋谷の新たな街づくりにも役立てたいとしている。

 東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発株式会社)や渋谷区とも連携し、周辺大学や企業なども巻き込んで、渋谷の街、文化という吸引力、ブランド力を活かした多角的な取り組みや支援を通じて、グローバルイノベーションエコシステムの構築を目指すという。

 開業にあたっては、エネルギー、燃料、素材、ケミカル、AI、ロボティスクなどのディープテックのスタートアップや参加企業を募集している。設備としては、オフィススペースの他にコワーキングスペース、ミーティングスペース、Webミーティングブースなどが用意され、ドライラボには、3Dプリンターや計測器など、スタートアップでは準備するのが難しい設備も用意され、入居者は自由に使用できる。設備は、MITの研究室にも導入されている、高精度、高品質のものが導入される予定で、製品の開発などに活用できる。

 渋谷区の長谷部健区長は、開業に寄せる祝辞で、「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」は、渋谷の街にとっても大きな武器になると歓迎。

 スタートアップとの並走や、実証実験などへも協力してゆきたいと示された。渋谷で生まれ育ち、変化する街を見て育ったと振り返り、住んでいる人たちだけでなく、働きに来る人遊びに来る人などいろいろな人たちが混じり合って集まったエネルギーをうまく活用したいと意欲も見せた。

 2025年1月23日に開催されたオープニングイベント「DEEPTECH INNOVATORS DAY 2025」では、「~各界オピニオンによるディープテック領域の未来洞察~」と題したパネルセッションでは、日本のディープテック・スタートアップに関わるキーパーソンたちから日本におけるディープテック関連の現状やスタートアップが目指すべき方向性が示された。

 冒頭で内閣府 科学技術・イノベーション 推進事務局 参事官の有賀理氏は、先進国と言われている国々の経済発展のファクターとして技術発展があると挙げ、歴史的には政府が技術導入、発展の後押ししてきた経緯を紹介。

 一方で近年は民間資本の割合が増えていると変化の兆しをしめした。オープンイノベーションの重要性に触れつつも、経済安全保障の観点などマイナス面での影響や、時には失敗する可能性もあるなどリスクに関しても認識しておくべきと、両面を見据える重要性が語られた。

 東京大学 生産技術研究所 教授 総長特任補佐で産学協創推進本部副本部長の菅野智子氏は、特許庁に在籍していた経験をもとに、知財の重要性を説いた。

 スタートアップのイノベーションの課題として、せっかく開発した技術、ソリューションがお金を産まない、収益につながらない場合があることを挙げ、特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術(DEEPTECH)の可能性を見出すには、すぐに真似されない、価値の見える化という面で知的財産の役割が大きいと示された。

 またこの日はオンラインでの参加となった、東京科学大学 環境・社会理工学院 教授 イノベーションデザイン機構長の辻本将晴氏は、「日本の研究者の研究レベルは高いが、エクイティーストーリー(投資家へ向けた成長ストーリー)を描けるプレイヤー、アクターがいない」とスタートアップの課題を挙げた。結果として、研究に対して社会的投資の正当化が十分ではない。ポテンシャルがあるのに実現しない。などの負の面が生じていると懸念を示し、メゾレベルの新産業、新市場の構造をデザインできる能力を持った人材が必要不可欠であると、テック系スタートアップに必要な要素を強調した。

 早稲田大学 ビジネススクールの入山章枝氏は、日本のスタートアップの最大の課題は連続起業家がいないことだと指摘した。

 イーロン・マスクなどの例を挙げ、スタートアップが大きく成長する、成功するためには連続起業家が必要であると指摘。起業家は1社目の立ち上げには資金や人材などの課題を抱えながら試行錯誤するという制約の中で企業を成長させる努力をするが、成功させた後資金や経験を得て2社目、3社目を起業する際は余裕があるのでリスクをとった起業ができると連続起業家が出るからこそ大きなイノベーションが生まれると強調。日本の上場しやすさに一定の評価をしつつも、M&Aによるエグジットが少ないことを指摘。起業家のモチベーションを維持するためにもM&Aを容易にすることが必要だと示した。

 そのほかの参加者からも、ディープテックというと難しい印象を持つが、高齢化や防災など、日常の中に潜む課題を解決するのがディープテックであり、人が集まる場所で共創することで、よりよいイノベーションになってゆくのではないかと、「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」が渋谷のこの場所に開業したことの意義が改めて示された。

 かつてビットバレーと呼ばれ、IT企業が集まっていた渋谷には、ディープテックスタートアップの拠点としてのポテンシャルがある。「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」は、渋谷駅を中心に線路や道路で分割された桜ヶ丘エリアを象徴する場として、新しい成長戦略の柱となることが期待されている。そんな未来と可能性が垣間見えたイベントだった。

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