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量子光学技術と光通信技術の融合により実現

東大とNTT、世界最速の“量子もつれ”生成 100GHz帯域の光量子コンに道筋

2025年01月31日 07時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 東京大学の研究チームとNTTは、2025年1月29日、すべての量子技術の根源となる「量子もつれ」を、従来の1000倍以上高速に生成・観測することに成功したと発表した。

 今回の実験では、光の通信技術を量子光学にも応用することで、従来コンピューターや他の物理系による量子システムを凌駕(りょうが)する高速化を実現。これにより、100GHz帯域の光量子コンピューターが現実的になってきたという。

 技術的なブレイクスルーとなったのは、NTTが光通信用に開発してきた光パラメトリック増幅器および、これまで東京大学理化学研究所が培ってきた量子光学技術と新たな制御手法である。

今回の実験で活用された光パラメトリック増幅器

量子もつれの高速化に向けた光量子技術の現状

 量子もつれとは、2つ以上の量子ビット間の特殊な相関を有する量子力学特有の現象であり、量子計算や量子通信、誤り訂正など、多岐にわたる量子技術に不可欠な、量子情報処理の根源となるリソースである。

 この量子もつれの実用上の有用性を決めるのが、“生成速度(生成レートや帯域ともいう)”である。特に量子計算や量子通信などの量子情報処理の応用においては、リアルタイムに高速な量子もつれを生成して、測定する必要がある。この時間スケールは、量子システムが用いる物理系のキャリア周波数によって決まる。原子方式や超伝導方式といった他の物理系と比べて、光方式は数百テラヘルツ(THz)と最も高速なのが特徴だ。

 しかし、従来の光方式における量子もつれの生成速度は、量子的な光を生む量子光源や量子測定が律速となって、kHzからMHzオーダー(1秒間に1000回から100万回、1回あたりの時間に換算すると数十マイクロ秒から数十ナノ秒)にとどまっていた。こうした現状の量子もつれの生成速度が、量子コンピューターのクロック周波数を制限してしまい、従来コンピューターのクロック周波数であるGHzよりも遅い量子コンピューターしか実現できていなかった。

高速化に向けた光量子技術の現状

光の通信技術を量子光学に応用、古典コンピューターを凌駕する光量子コンピューターに道筋

 研究チームが今回、従来の1000倍もの高速な量子もつれ状態の生成・観測に成功したのは、上述した「量子光源」や「量子測定」の高速化によるものだ。

 まず、これまで量子光源は、光を共振器の中に閉じ込めて、強い光の力を結晶と相互作用させることで、量子的な光を生成していた。しかし、共振器の構造によって帯域が制限されてしまう課題があった。そこで、NTTと共同で開発した、導波路状の非線形光学結晶が内蔵された「光パラメトリック増幅器」を活用。この光増幅器は、きわめて狭い領域に光を集約することで、光エネルギー密度を上げ、光と結晶の相互作用を実現する。そして、共振器構造を持っていないため、6THzと広帯域で量子光源を高速化できる。

量子光源の高速化

 もうひとつの量子測定については、5G光通信に用いられる高速な「ホモダイン測定器」を用いている。この測定器によって、量子もつれ状態の振幅情報を取り出すことができるが、測定結果が不完全性によるノイズに埋もれてしまうという課題があった。また、ノイズが発生しないよう高効率な測定器を用いると、効率とトレードオフで帯域が制限されてしまう。そこで実験では、光の振幅を増幅させることでノイズの影響を減らすという、測定の定石を応用する手法を用いた。

 実際の量子もつれの生成および測定のシステムでは、光パラメトリック増幅器から生じた量子光を、ビームスプリッターで干渉することで、2つの量子もつれ状態(エンターグルメント)を生成。そして、光パラメトリック増幅器を測定でも活用して、光のある位相の振幅情報を劣化なく増幅させる操作で(位相敏感増幅)、ホモダイン測定器による高速測定と測定精度の向上を両立させた。そしてここには、2者間の高速測定を同期させたまま測定するという新たな制御手法が用いられている。

実験における量子もつれの生成および測定のシステム

 実験結果としては、60GHz(ピコ秒オーダー)での量子相関のリアルタイム測定に成功しており、従来の量子相関測定がナノ秒程度に対して、1000倍の高速化を実現している。また、定量的な評価においては、60GHz帯域にて量子通信や量子計算の応用に十分な水準となる最大4.5dBの強い量子相関を観測できた。

実験結果(実時間測定)

実験結果(周波数領域)

 今回は2つの量子もつれ状態であったが、今後はさらに数を増やして大規模化を進めていくと共に、波長多重などの光通信技術を融合してTHz帯域を目指すなど、より一層の高速化を図る予定だ。

 東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻の川﨑彬斗氏は、「クロック周波数が1GHz程度の古典コンピューターをはるかに凌駕する結果が得られたことで、今後の100GHz帯域の光量子コンピューター実現への道筋を立てた」と説明。

 加えて、「今回とった手法は、独立に育ってきた量子光学技術と実用化されている光通信技術を結び付けた結果である。今後、2つの領域の融合を進めていくことで、量子コンピューター、量子情報処理の研究はさらに加速していくのではないか」と展望を語った。

(左から)東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻/理化学研究所量子コンピュータ研究センター アサバナント・ワリット氏、東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻/理化学研究所量子コンピュータ研究センター 古澤明氏、NTT 先端集積デバイス研究所 梅木毅伺氏、東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 川﨑彬斗氏

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