最新パーツ性能チェック 第457回
“Battlemage”世代の尖兵「Arc B580」レビュー【前編】
インテル新GPU、Arc B580の実力は?AI&動画エンコードは前世代より超強力に
2024年12月12日 23時00分更新
検証環境は?
今回の検証環境を紹介しよう。Arc B580のLimited Editionと対比させるためにA750のLimited Edition、さらにRTX 4060とRX 7600をそれぞれ用意した。今回Arc B580のドライバーが土壇場で2回も入れ替わるという予想外の出来事があったため、比較用GPUのチョイスを絞らざるを得なかったのが残念だ。
ドライバーはArc B580が検証用に配布されたβ版、A750がバージョン6319、GeForceはGameReady 566.36、RadeonはRadeon Software 24.12.1である。また、CPUはゲームにおけるパフォーマンスを考慮しあえてCore i9-14900Kを選択。CPUの電力制限はデフォルトの“Performance Profile”とした。
検証環境 | |
---|---|
CPU | インテル「Core i9-14900K」 (24コア/32スレッド、最大6GHz) |
CPUクーラー | NZXT「Kraken Elite 360」(簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | ASRock「Z790 Nova WiFi」(インテル Z790、BIOS 7.01) |
メモリー | Micron「CP2K16G56C46U5」(16GB×2、DDR5-5600) |
ビデオカード | インテル「Arc B580 Limited Edition」、 MSI「GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC」(GeForce RTX 4060)、 AMD Radeon RX 7600リファレンスカード |
ストレージ | Micron「CT2000T700SSD3」(2TB、NVMe M.2 SSD、PCI Express Gen 5) Silicon Power「SP002TBP34A80M28」(2TB、NVMe M.2 SSD、PCI Express Gen 3)×3 |
電源ユニット | ASRock「TC-1300T」(1300W、80PLUS TITANIUM) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」(23H2) |
検証にあたり、Secure BootやResizable BAR、メモリー整合性やHDRといった機能は一通り有効化している。そしてさらに、Arc B580とA750環境においては、GPUの省電力性能を十全に引き出すためにPCI ExpressのASPM(Active State Power Management)を「L1」、つまり使っていない時にはPCI Expressリンクの電源を切れるように設定し、さらにWindows側の電源管理でもPCI Expressの省電力機能を「最大限の省電力」とした。
これらの設定はArc Aシリーズ発売後に知られた設定であるが、今回これを利用するようにとレビュアーズガイドに記載されていた。ただ結論から言うと、この設定を使っていてもArcシリーズの省電力性能が劇的に改善するわけではなかった。
3DMarkは強いが……
ではいつも通り「3DMark」の検証からスタートしよう。Arc B580はランク付けとしてはBシリーズの中堅であり、Aシリーズの副将格であるA750のほうが立場は上である。だがBシリーズは、GPU設計を細部まで見直したことでA750を上回れるとインテルは謳っている。果たして本当なのだろうか?
A750に対してB580が例外なく勝っているが、特にDirectX 11ベースのFire StrikeおよびFire Strike Ultraの伸びが非常に大きい。Fire Strike Ultraに至っては50%ほども伸びているのは驚くしかない。その一方でSteel Nomad Lightは5%程度、Speed Wayでは7%程度に止まっている。どうやら旧弊なAPIで構築されたゲームのほうがよく伸びるようだ。これはXe2アーキテクチャーにおけるフロントエンド部の強化やキャッシュ増量といった部分で差がついていると思われる。
しかし、Arcは3DMarkのスコアーが良くても実ゲームでは今ひとつということが何回もあった。筆者もArc Aシリーズのレビューで散々思い知らされたクチだ。ゲームでの検証は後編までお待ち頂きたい。
続いては消費電力の比較といこう。3DMarkの“Steel Nomad”実行時における実消費電力をHWBusters「Powenetics v2」を利用して計測した。ここではシステム全体の消費電力とTotal Board Power(ビデオカード単体の消費電力)を比較する。アイドル時は3分間放置した際の平均値を、高負荷時は平均値や最大値のほかに99パーセンタイル点の値も比較する。
Steel Nomadを実行すると、描画を担当したGPUが音を上げるギリギリまで回す傾向があるため、Total Board Powerはスペックシート上のTotal Board Powerにかなり近い値が得られる。今回の検証においてもB580のTotal Board Powerは平均193Wまで上昇した。
電力をガッツリ注ぎ込んで動かしているわけだがら、3DMarkでRTX 4060やRX 7600に勝っても当然……と言えるかもしれない。ただA750と比較すると平均30W低い電力で最大50%近いゲインを得ているのだから、Arc Bシリーズのワットパフォーマンスはかなり改善したと考えてよいだろう。
ただ、アイドル時の消費電力がライバルより格段に大きいのは残念だ。前述のようにPCI Expressの電源管理設定をBIOSとOSの両面で調整したが、それでもなおRTX 4060/RX 7600に比してアイドル時で10W以上電力を食っている。Ryzen環境ではまた違った値になる可能性もあるが、現行のRyzen 9000シリーズとX870Eマザーボードをベースにした場合、CPUとチップセットのぶんだけでさらに消費電力が大きくなる可能性もある。
QSVエンコードが爆速!
続いては「Handbrake」を用い、4K@60fpsの動画(約3分)を4Kのまま別のコーデックにエンコードし直す処理時間を比較する。Handbrakeではハードウェアによるエンコード処理を有効化し、プリセットで備わっている4K(2160p)用プロファイルの中から、各GPUに合致するものでエンコードさせた。どのGPUでも“H.265 2160p”は共通でプロファイルを持っているが、“AV1 2160p”はQSVが利用できるArcシリーズでしか使えない点に注意。
ハードウェアエンコードだけにどのGPUも再生時間を大幅に下回る時間で処理できるが、Arcシリーズの処理速度はGeForceやRadeon以上に速い。とりわけB580の処理時間はAV1でもH.265でもA750を30秒以上置き去りにするなど、QSVのすごさを再確認することができた。
続いては「Premiere Pro」におけるGPUエンコード速度を検証してみよう。検証にあたっては「UL Procyon」に収録されている「Video Editing Benchmark」を利用する。4種類の動画をエンコードする時間からスコアーを算出する。
Premiere Proに実装されているGPUエンコーダーはHandbrakeの実装と大きく違っているせいか、スコアーの傾向も大きく変わる。ここではXe-coreの多いA750が最短時間で処理を終了し、総合スコアートップを獲得した。A750はB580に対してスコアーでは約17%上になったが、実際のエンコード時間で見ると数秒なので、実はそれほど大差ない。
ただしRTX 4060やRX 7600を基準にすると、B580は約20~40%短い時間で処理を終えており、Premiere Proにおいても案外優秀であることを示している。
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