好きを突き詰めたら人生にも変化が!〝タイ沼民の愛〟が詰まったポッドキャストから語学本が出版
2024年10月末に発売され、その後1か月で重版がかかるなど好評を博している「タイドラマにときめきながら覚える きほんのタイ語フレーズ」。タイのエンタテインメントにどっぷりとハマった〝タイ沼民〟に向けた必須表現を詰め込んだ、これまでにないタイ語学習本だと話題に。
その著者として日本でも活躍するタイ人俳優のパース・ナクンさん、タイ語翻訳・通訳者である福冨 渉先生と共に名前を連ねているのが、タイのカルチャーやエンタメ情報を発信するポッドキャスト番組「WELCOMEタイ沼」だ。白蝶(はくちょう)さん、ウェルタイDさん、メイさんという3人のパーソナリティが〝タイエンタメへの愛〟を熱くさけび続けた結果、リスナーである〝タイ沼民〟を巻き込み、ついには本を出版するまでに。制作に関わった人たちみんなが「自分の人生でこんなことが起きるとは思わなかった」という今回の語学本制作。その発端であるポッドキャストのことから、制作の裏話まで、番組の企画、制作、編集も務めるウェルタイDこと阿波加雅子さんに話を聞いた。
タイエンタメの情報を発信するメディアがないなら自分たちで作ってしまおう!
コロナ禍のホームステイ期間が続いた2020年ごろからブームに火が付き、アジアを中心に世界中を席巻していったタイドラマ。いまやその人気はドラマだけにとどまらず、映画やT-POPといった音楽にも派生するなど、タイのエンタテインメントが大きな注目を集めている。そんなタイエンタメに〝酔いしれ、盛り上げていく〟ポッドキャスト番組「WELCOMEタイ沼」、通称「ウェルタイ」が配信を開始したのは、日本においてタイドラマ人気が最高潮に達しようとしている2021年1月のこと。
もともとは北海道・札幌市在住の阿波加雅子さんが、映像や音声の制作も手がける広告代理店・タレント事務所の「TRIPLEONE」より、ポッドキャスト番組の制作を打診されたことがきっかけだったという。長年ラジオの制作会社に勤務し、5年ほど前にフリーランスとして独立した阿波加さんは、20数年にわたる生粋の〝ラジオ畑〟の人間だった。
「ちょうどフリーになったタイミングの2020年に、『TRIPLEONE』の社長から『今、ポットキャストが熱いんだよね、なんでもいいから番組をつくってよ』と打診があり。ポッドキャストの制作はしたことがなかったので、いろいろとリサーチをしたんです。ラジオは基本、不特定多数の方が聞いて興味を持ってもらえる番組づくりをするのですが、ポッドキャストはもっと尖っているというか、何かに特化した内容の番組が多いなという印象で。じゃあ、どんな内容の番組がいいかと考えている時に、25年来の親友である白蝶がタイのドラマにめちゃくちゃハマっていることを思い出したんです。彼女はいつも何かにハマっている人間で、それを人に布教するのがすごく上手なタイプ。必ず友達や誰かを巻き込んでいくんですよ(笑)。そして、私も当時、タイドラマのことをずっとプレゼンされていて。でも、それと同時に『なんかタイの情報を発信しているメディアがあまりないから、情報源がないんだよね』とぼやいていたんです。なるほど!じゃあ、ポッドキャストとして、タイのエンタメ情報を発信する番組を作ろうと。プレゼン上手の白蝶を〝タイエンタメを知りたい側〟のパーソナリティに立てて、さらにもう一人〝教えてくれる人〟を探すことにしました」
さっそくタイエンタメの先生となりうる人を探し始めた阿波加さんに、白蝶さんからTwitter(現・X)で適任者を見つけたとの連絡が。それがタイと日本のハーフで、ドラマをはじめ広くタイのカルチャーやエンタメに詳しいというYuriさんだった。
「中学・高校とタイに住んでいて、タイと日本語、英語のトリリンガル、さらにフォロワー数もめちゃくちゃ多いということでまさにぴったり。DMでお声がけしたところ快諾いただき、タイエンタメを知っているYuriさんと知りたい白蝶という構図で『ウェルタイ』をスタートさせました。現在まで毎週金曜日午前7時に欠かさず配信しています」
白蝶さんとYuriさんをメインパーソナリティーとし、2021年10月には現メンバーでもあるタイ在住のメイさんもウェルタイレポーターとして参加。阿波加さんは番組の企画・構成、台本作成に収録、編集と主に制作の役割を担った。
そんな「ウェルタイ」ではタイドラマの話を中心にしつつも、タイの文化やタイ語、タイの日常などもテーマとして取り上げることで、多くの〝タイエンタメ好き=タイ沼民〟の心をつかみ、SNSやメールでの反響も増えていった。しかしながら、2023年にYuriさんが体調を崩したことから収録に参加することが困難となり、番組存続の危機を迎える。新たにタイに詳しいパーソナリティを探そうかと考えたが、阿波加さんはある意味、番組として転換期なのではと思い始めたという。
「いや、もうピンチだし、どうしようってなった時に…じゃあ、とりあえず私で繋ぐしかないかなと。どうせいつも収録の場にいるわけですし。偶然にも番組開始から2年経ったそのころには、リスナーさんも自身で情報をキャッチでき、タイ語を学んだり、旅行でタイへ行ったり、留学したり、移住したりする人が増えているタイミングではあって。番組を始めた当初は、自分たちもリスナーさんも『情報が欲しい!』という感じだったんですけど、結局のところ、〝オタクたち〟は自分で情報を取りに行く生きものなので(笑)。さらに、白蝶と私がパーソナリティとして続けていくなかで、〝共感〟といった部分を番組として求められてるということにも気づきはじめて。だったら、白蝶と私もリスナーさんと同じところに立って、ワイワイしようよっていう番組コンセプトに変えていったんです」
Yuriさんの卒業を機に、当初の〝タイエンタメの情報を発信〟する番組から、〝タイエンタメの魅力を分かち合う〟という共感スタイルにシフト。現在、月に1回、阿波加さんが白蝶さんの自宅に出向き4回分を1日がかりで収録している。収録日以外には先々の企画・構成、編集作業に加え、情報収集をするためのタイドラマ視聴など、やるべきことはてんこ盛り。本業がありつつの番組制作なので大変なことも多いそう。しかしながら、現状では広告収入もなく、無料配信のため収益は出ていない。
「相当数の人数が視聴する番組となれば広告やスポンサーも付きますが、現在の『ウェルタイ』の聴視者数ではなかなか難しいのが現状です。私が携わっている制作・編集費の面においてのみ『TRIPLEONE』より費用をいただいていますが、パーソナリティ費については無償。それでも続けていけるのは制作メンバー全員、タイエンタメが好きということに尽きると思います。あと、『ウェルタイ』は無料配信なのですが、番組のファンになってくれた方に向けた『ウェルタイ沼の会』という有料コミュニティサイトを立ち上げ、いただいた月額費用を制作費に充てています」
「ウェルタイ沼の会」では、会員限定の記事や動画、音声コンテンツを配信するほか、オンライン上でのコミュニケーション、リアルで会えるオフ会などを開催している。そんな有料会員も巻き込んで制作に携わることとなったのが、冒頭で紹介した「タイドラマにときめきながら覚える きほんのタイ語フレーズ」だ。
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