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〝幸福国〟を巡る旅で得た経験を生かし、元広告プロデューサーが子どもたちの未来のために起業

文●杉山幸恵

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 世界50か国150以上の団体と連携し、オンラインでの国際交流を推進する「教室から世界一周」プロジェクト。世界と日本をつなぎ、同世代同士が意見交換できる場を提供する同事業を立ち上げたのは、「株式会社WTOC(ウトック)」の代表取締役である堂原有美さん。その発端となったのは、前職である広告代理店を退社後、幸福度の高い27か国を巡った自身の経験だった。彼女を世界一周の旅へと駆り立てた〝幸せの本質とはなにか〟という探求心。それはやがて起業へと結実し、次世代の若者たちが幸せに生きるきっかけをつかんでほしいと、今もひたむきに走り続けている。

「株式会社WTOC」の代表取締役・堂原有美さん。世界一周の旅で、イスラエルのエルサレムを訪れた時の様子

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キャリアの転機を感じ取りライフシフトを決断、〝幸福国〟をめぐる世界一周の旅へ

 学生時代から〝人を驚かせること、楽しませること〟や〝地域を発信すること〟に強い興味と憧れがあったという堂原有美さん。自分のクリエイティビティが発揮でき、さらに多くの人を幸せにできるフィールドはどこかと模索。大学卒業後、広告代理店でおもに企画を担当することになる。自身が携わった仕事のなかで、「最もエキサイティングだった」と語るのが名古屋おもてなし武将隊の立ち上げだ。

名古屋城をバックに名古屋おもてなし武将隊のメンバーと撮影。中央が堂原さん

 2009年、名古屋市が名古屋開府400年を記念し、観光誘致と地域活性化を目的に結成させたもので、全国の武将隊ブームの先駆け的存在となった。織田信長を筆頭に〝戦国時代のイケメン武将たちを現代に蘇らせる〟というアイデアが話題となり、年間経済効果は26億円にも及んだ。以降も広告の世界で順調にキャリアを積んでいった堂原さんだが、ある時ふと、「このままでいいのか?」という疑問が芽生えはじめる。名古屋おもてなし武将隊を立ち上げて10年が経とうとしていたころのことだった。

 「入社して随分と年月が流れ、このあたりが自分のキャリアのひと区切りかも…と。それと同時に会社員としてできることの限界も感じていました。ここで何か新しいことを始めなければ、一生そのままになってしまう気がしたので、このタイミングで次に進もうと決めたんです」

代理店時代の堂原さん。愛知県で実施された白しょうゆええじゃないか祭り(左)と、名古屋城で行われた映画「スター・ウォーズ」シリーズのプロモーションの様子(右)

 広告代理店を退職した後、特になにをするのか、何がしたいのかも決まっていなかったという。ただ、たくさんの時間が手に入るなら、自分の好きなことを思いきりやろう。そうして選んだのが世界一周の旅だった。

 「これから何をする?私は世界が好き。じゃあ、世界中を巡るのは?そうだ、世界一周しよう!それだ!と決めました(笑)。でも、ただ巡るだけではもったいないなと。そこで、一つテーマを決めることにしたんです」

 そこで頭によぎったのが、フィンランドでの旅の思い出だった。さかのぼること5年前、幸せという概念に興味があった堂原さんは、幸福度世界一の国といわれる同国を訪れていた。

 「仕事を通して人を幸せにするにはどうすればいいのだろう?と、つねづね考えていて。そこで、その幸せの答えを探るためにフィンランドへ行き、現地で道行く人たちに、『あなたはどうして幸せなんですか?』と聞いて回りました。みなさんそれぞれの回答が非常におもしろく、たくさんの学びがあったことを思い出し、その旅の続きをしたいなと思ったんです」

 そう思い立った堂原さんは、フィンランドだけでなくより多くの国を巡り、幸せの秘密をリサーチしようと決意。国連が調査するもの(2019年当時)と、スイスの調査会社であるGallup International Association(GIA)とWorldwide Independent Network of Market Research(WIN)が共同で実施するもの(2017年当時)、2つの世界幸福度ランキングに入っている国を巡る旅へと出発した。

 訪れたのはデンマークにガーナ、ウガンダ、トルコ、コスタリカ、フィジー、ベトナムなど全27の〝幸福国〟。そのなかで最も印象に残っているエピソードとして、幸福度がトップクラスであるスウェーデンの出来事を教えてくれた。車いすで楽しそうに街を散策する人、ベビーカーを押すたくさんの男性、手をつなぎ歩く老夫婦。絵にかいたような社会福祉ぶりを目の当たりに、ワクワクが止まらなかったという堂原さん。しかしながら、ホームステイ先で問いかけた「どうしてスウェーデンの人たちは幸せなのか?」に対する答えに愕然とする。

 「ホストマザーは『この国の人たちは幸せだとは思わないわ』と…。思いもよらぬ答えに理由をたずねると、彼女が息子にクリスマスにプレゼントを渡した時のことを例に挙げてくれました。彼は隣の家の子は何をもらったとか、金額はいくらだったとかいつも比較をすると…。そのような考えを持っていて本当に幸せなのか、と疑問を抱いているようでした」

 また、ホストマザーは仕事でアフリカを訪れた経験があり、教育や医療が十分でない環境でも、人々が楽しく幸せそうに暮らしているのを目にしてきたという。その対比から、物質的に恵まれた環境では、どうしても他人と比較し、羨む気持ちが生まれてしまうと感じたのだろう。「なるほど、日本人である自分もよくわかる話だ」と堂原さんは思うと同時に、「果たして幸せとは?」と、立ち戻された気分に…。それはいくつもの〝幸福国〟で多くの幸せそうな人たちと出会い、自分の中での幸せの定義が確立しつつある中での出来事だった。

 「そこから、幸せとは何か?と考え抜いた結果、たどり着いた結論は〝幸せは自分次第〟 ということでした。シンプルですが、実際に『幸せだ』と口にする人が本当に幸せであり、身近な幸せに気づける人こそ、幸せを感じていると実感しました。では、どうすればそうなれるのか。大切なのは、自分が何をしているときに幸せか、心地よいか、好きな自分でいられるかを考えることです。忙しい日々の中で、日本人はこうした時間を持つことが少ないように思います。だからこそ、あえて立ち止まり、自分の心の声を聞く。そして、その声に従って進むことが、自分を幸せにする方法だという考えにいたりました」

メキシコで出会った大家族が開いてくれた歓迎会の様子

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