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自動運転バスがすごい 技術開発の熱意を感じた

2024年10月16日 20時00分更新

文● @sumire_kon

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運行を支える通信回線

 ここまで取り上げた路車協調システムや遠隔監視システム、そして自動運転バスの走行自体にも欠かせない最重要インフラが、車両や各設備、拠点間を結ぶ通信回線だ。

●ローカル5GとWiGig

 走行エリアのうち出発地点から400mほどの区間は、本実験線用のローカル5Gを展開。自動運転バスとスマート道路灯や遠隔監視システムの間をつなぐ、周辺の混雑状況に左右されない専用通信回線として利用された。

 基地局は正門前の交差点付近と、そこから300mほど離れた道路横にそれぞれ1基ずつ設置。正門前の基地局にはルーターが設置され、直線距離で約4km離れたパナソニックの施設内にあるコア装置と光回線で接続されている。見た目はごく普通の電柱に、箱形の機械やアンテナが付いているだけと、至ってシンプルだ。

ローカル5G基地局(正門前)

ローカル5G基地局(正門前)

 一方、300m離れた2つ目の基地局は、60GHz帯の無線を使った「WiGig」で正門前の基地局と接続。両基地局間で道路がカーブする箇所には中継器を設置し、指向性(直進性)の高いWiGig用電波の向きを変えている。

道路上空に飛び出したWiGigアンテナ

道路上空に飛び出したWiGigアンテナ

 基地局間の通信速度は1Gbps前後。もともとレイテンシーの低い規格のため、中継器によるレイテンシーの増加は無視できる範囲に収まるという。また、WiGigは無線局の開局申請なしで運用できるので、光回線の工事が難しいエリア向けの代用回線としても利用しやすいという。

 周波数の高い電波にありがちな降雨時の通信速度低下についても問題なし。一方で物理的な障害物には弱く、実験期間中には雨水で垂れ下がった街路樹の枝がアンテナを遮り、通信速度が落ちたこともあったそう。こちらはアンテナ設置用のポールを道路上まで延ばし、街路樹を避けることで解消している。

 都市部と郊外で人口密度の差が大きく、また国土のおよそ75%が山地や丘陵地とされる日本で自動運転バスを普及させるには、ローカル5GとWiGigの普及が鍵となるだろう。

●5Gワイド

 走行エリアのうち、ローカル5Gの電波が届かない区間については、NTTドコモの一般向け5G回線を優先的に利用できる「5Gワイド」で通信している。

 ローカル5Gと5Gワイドの切り替えには、無線品質の劣化を予測して最適な通信回線に切り替える「Cradio」という技術を活用。回線の切り替えは全自動で、切替時にバスの動きに違和感が出るようなこともない。自動運転と手動運転の切替と同様、事前の説明がなければ気付けないほどスムーズな切替だった。

 5Gワイドの役割は、コストや基地局の設置スペースなど、さまざまな問題でローカル5Gの導入が難しいエリアで通信環境を提供することにある。

 メリットは、キャリアが設置した5G基地局を活用できるため、自動運転システムの導入コストを削減できること。デメリットは、自動運転バスのルート上に多くの人が集まると、自動運転バスの通信にも悪影響を及ぼす可能性があることだ。

 今回の実験で使われた5Gワイド(NTTドコモ回線)は、あくまで自動運転バスの通信を一般のユーザーの通信より「優先」しているに過ぎない。また、これはドコモに限った話ではないが、キャリアの5G回線が通信障害を起こすと、遠隔監視ができなくなってしまう。

 自動運転バスを本格的に導入するなら、ローカル5Gと5Gワイドを組み合わせるだけでなく、5Gワイドの部分で複数キャリアの回線を利用可能とするなど、冗長性を確保する仕組みが必要となるだろう。

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