適用範囲を拡大したAI支援機能「AI Companion 2.0」を年次イベントで発表
「Zoom Workplace」強化でプラットフォーム戦略を加速、その「勝算」をZoomのCPOに聞く
2024年10月15日 07時00分更新
Zoom Video Communications(Zoom)は2024年10月9日、生成AIによる支援機能「AI Companion 2.0」など、多数の最新機能を発表した。
ビデオ会議サービス「Zoom Meetings」で知られるZoomだが、現在は“コミュニケーションとコラボレーションの統合プラットフォーム”である「Zoom Workplace」を中心に据えて、急ピッチで製品を拡大している。同社のCPO(最高製品責任者)を務めるスミタ・ハシーム氏に、今回発表された新機能、そしてプラットフォーム戦略での「勝算」について聞いた。
AI Companionを「2.0」に強化、AIが幅広いアプリ/データを活用可能に
怒涛の発表ラッシュは、Zoom本社のある米サンノゼで開催された年次イベント「Zoomtopia 2024」に合わせたものだ。まずは発表内容を見てみよう。
今回、Zoom Workplace関連で最大の発表となったのが「AI Companion 2.0」だ。AI Companionは同社がビデオ会議の要約、チャットの未読メッセージの要約といった、個々の製品の枠内にとどまった機能だった。これが2.0になると、朝、仕事を始める前に「今日やるべきことは?」と尋ねると、AIがカレンダーやメール、チャットといったさまざまな情報を参照し、そこから優先事項をリストアップするといった機能も実現する。もちろんそのほかにも、メールやチャットに書くメッセージのドラフト生成なども可能だ。
AI Companionに関連して、今回は「Custom AI companion add-on」というオプション機能(1ユーザーあたり月額12ドル)という新機能も発表されている。これは、外部のサードパーティアプリケーションと連携して、ユーザーが独自に作成したワークフローを実行できるというものだ。外部データソースとの接続、ワークフローのカスタマイズを行うための「Zoom AI Studio」も合わせて発表している。想定されるユースケースについては、次のような例を挙げた。
「たとえばある部門に所属する社員に、新しいソフトウェアをプロビジョニングしたいとする。まずはWorkdayからその部門に所属する社員の一覧を取得し、ServiceNowにその情報を送ってプロビジョニングを実行、Jiraチケットを開いてデプロイする。このように、さまざまなアプリケーションやデータソースをオーケストレーションをして作業をこなす、スーパーエージェントのような存在になる」
バージョン2.0になっても引き続き、Zoomの有料版ユーザーはAI Companionを追加料金なしで利用できる。ハシーム氏は「Zoomでは、生成AIは企業内の全員がメリットを享受するべき基本的な機能と考えている」からだと説明する。
AIの品質についても自信をのぞかせる。たとえばビデオ会議の要約機能については、「Microsoft Copilotと比較すると、書き起こしのミスは36%少なく、会議後の要約のエラーも15%少ない」と胸を張る。AI Companion 1.0のリリースからの1年間でおよそ400万ユーザーが有効化し、Fortune 500企業の57%がAI Companionを採用しているのは、こうした高い品質への信頼が背景にあるという。
Zoom Workplace以外では、コンタクトセンター向け製品「Zoom Contact Center」にもAI Companionを統合し、こちらも追加コストなしでAI機能を提供する。顧客からの問い合わせに対してリアルタイムにAIの支援が受けられるほか、コンタクトセンター管理者向けには、顧客とのやり取りで問題がありそうな会話を検出したら即座にフラグを立てる機能も提供すると、ハシーム氏は説明した。
顧客向けのバーチャルエージェント(チャットボット)「Zoom Virtual Agent」では、顧客が1つのメッセージに複数の質問を記入しても、それぞれの意図を理解して対応できるようになる。そのほか、教育機関向け、ヘルスケア向けといった業界向け製品でも、それぞれAIを中心とした機能強化が行われている。
Zoom Workplaceのプラットフォーム戦略に舵を切ったZoom、勝算は?
Zoomでは、今年3月に「Zoom One」を「Zoom Workplace」にリブランドし、“コミュニケーションとコラボレーションの統合プラットフォーム”への変革に本腰を入れてきた。
リブランドの理由について、ハシーム氏は「従業員が、日々の業務の中で使うプラットフォームになるための機能拡充が完成したため」だと説明する。Zoom Workplaceには、たとえばチャット、メールとカレンダー、オンラインホワイトボード、会議室予約といったツールも組み込まれている。
ただし顧客企業のほとんどは、すでに他社のオフィススイートに組み込まれたツールを使っているはずだ。そこで、ZoomとしてはZoom Workplaceという“閉じた”世界にこだわらず、“オープン性”を特徴としていく。「Microsoft 365」や「Google Workspace」などと統合することも可能であり、「現在は2700以上のサードパーティツールとの統合が実現している」とハシーム氏は説明した。
それでも競合はかなり手強い。Zoomとしてプラットフォーム戦略での「勝算」をどう見ているのか。この質問に対してハシーム氏は「Zoomはとにかく動く(just works)」点が強みだと強調した。シンプルで誰でも使いやすく、なおかつ信頼性もあるツール、といった意味合いだ。
「Zoomはとにかく動く。だからビデオ会議がこれだけ広まった。同じように、Workplaceも“とにかく動く”シンプルさを提供する。これにより、利用の重心をわれわれの製品に移してもらえるようにしていく」
シンプルで使いやすい特徴から、顧客は規模や業界を問わず存在する。「教育業界の顧客は世界に9万、ヘルスケアは4万を数える」という。
もうひとつ気になるのが、顧客企業における「オフィス回帰」の動きだ。日本だけでなく、米国でもオフィス出勤を義務づける動きがあり、たとえば9月にはAmazonも「原則週5日のオフィス勤務」を義務づけることが報じられた。
このように、コロナ禍前の働き方が戻ってくれば、Zoomが手がけるオンラインコミュニケーション/コラボレーションの役割も小さくなるのではないか。この問いに対しては「柔軟な働き方や、多様なコミュニケーションを通じて生産性を高めようとする動きは変わらない」と一蹴した。オフィスでの対面会議やハイブリッド会議(オンライン+対面)を支援する機能も拡充させている。
「地理的な距離や時差を超えたコミュニケーションツールの活用は、すべての組織にとって重要だ。また会議は(コラボレーションの)基本であり、会議がなくなることもない」
ちなみにZoomでは、社員の60%以上がフルリモートで働いており、これが世界中の優秀な人材を採用できることにつながっているという。「オフィスにいるかどうかは大きな問題ではないのではないか」とハシーム氏は指摘した。
「Zoomでは顧客の声を聞き、それをすぐに実現してきた。これまではビデオミーティングで“ハッピー”を提供してきたが、今後は仕事全体で“ハッピー”を実現していく」(ハシーム氏)