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満足度2割の絶望から逆転。歩行モビリティの課題解決から広がる独自市場を開拓するAshirase

10月から一般販売がスタートする視覚障害者向けの歩行支援デバイス「あしらせ」

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ASCII STARTUP 今週のイチオシ!

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最初の製品はわずか20%の満足度。社内に緊張が走る!

 創業から2年後の2023年3月には、先行販売モデルをクラウドファンディングで販売した。8万8000円という決して安くはない価格だったが、120人が本体を購入しプロジェクトは成立した。

「値引き価格で買われたお客様もいるので、全員が8万円を出して買われたわけではないが、有償で購入いただくことが重要だった」(千野氏)

 千野氏が有償での製品提供にこだわったのは、「自らこのプロジェクトに関わっているメンバーだと思ってほしかったため」だという。

「クラウドファンディングで提供したのはテストマーケティングという要素もあるが、製品を一緒に育てていく仲間を募るという意味もあった。無償でお渡しして『使ってください』では、製品を手にしたものの、実際には使わない方も多い。初期ユーザーに対しては、アンケートなどに答えてもらいながら、一緒に製品を育てていく感覚を持ってもらい、その分、次のバージョンは無償で提供し、使ってもらうことを約束した。我々の思いが伝わり、利用率・アンケート回収率ともにかなり高い結果になった」

 だが、個人での研究も含めたプロジェクト開始から5年目となっており、当事者のヒアリングなども含めてプロダクトは詰められていたかに思えたが、「最初の段階では満足度は20%と低い数値だった」と千野氏は苦笑いする。その内容に社内では緊張が走ったそうだ。

「自分でお金を出して購入したものだから、とにかく厳しい、率直な感想をいただいた。こうなったら、声を聞いてアップデートしていくしかない」と腹をくくったという。重要な点として、開発段階で「これは必要ない」とカットした機能が、本来は必要なものだったとわかった。

「その代表が、『マイルート』という機能。日常的に利用している馴染みのルートにはナビゲーションなんていらないと開発側は考えていた。ところが、実際の現場はそうならない。例えば、雨が降っていたので感覚が異なり、気がついたらいつも曲がる角を通り過ぎていた、または考え事をしていたら曲がり角を通り過ぎていたといったことが結構あると指摘された。その場合、ユーザーにとっては知っている角を一個先に行っただけでまったく知らない道になってしまう。実際に使ってもらう中で出てくる課題に対し、ほかにも的確な指摘をたくさんいただいた。フィードバックを得たからこそ、開発側の思い込みとのギャップを埋めていけた」

 アプリ側だけでなく、靴の内部に入れるパッド素材について一度リコールし、新しいものにリニューアルしている。「内部で断線が起こる事例があった。発売前には歩行テストも行っていたが、調整の中で最後に入れた変更がよくなかった。エンジニアは影響ないと思っての判断だったが甘かった。2023年3月に発売して、4月にリコールを決断して、6月には回収し、7月に再リリースした。修理は120個で、町工場を借り、社員総出で乗り切った」という。

 不満があるのであれば、あとは改修をするのみ。製品を買って使い始めるオンボーディングの体験から、使いこなすまでのサポートを積み重ねた。アプリについても30回ものアップデートを繰り返し、現在では7割のユーザーが満足をする形になったという。

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