最新パーツ性能チェック 第448回
Ryzen 9000シリーズの成長を見守る
TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄
2024年09月03日 13時00分更新
「Starfield」
Starfieldは画質プリセット“低”を選択しつつ、レンダースケールはFSR 3“バランス”相当の58%とした。都市ニューアトランティスのMAST地区を移動する際のフレームレートを計測した。
Starfieldでは平均フレームレートにポジティブな影響はないものの、最低フレームレートの出方に明らかな違いがみてとれる。Ryzen 5 9600Xの方が最低フレームレートの伸び方が鈍く、Ryzen 7 9700Xの方が著明な改善が見られる点は、前掲のCINEBENCHやHandbrakeの検証結果と連動している。
ゲームでTDP設定とCPUの消費電力に相関はない、というデータしか出てこなかった。しかしStarfieldでは一転、TDPを105Wや120Wに引き上げることでCPUの消費電力が大きく引き上げられるデータが得られた。しかしこれはRyzen 7 9700Xに限った話で、Ryzen 5 9600Xではほぼ変化していない。
StarfieldにおけるRyzenの挙動は非常にユニークで、CCDあたりコア6基しかないモデル(例:Ryzen 9 7900X3D)のパフォーマンスは、CCDあたりコア8基の格下モデル(例:Ryzen 7 7900X3D)に負けるなど、CCDあたりのコア数が十分多くないと性能が頭打ちになる傾向がある。
もしかするとRyzen 5 9600XでCPUの消費電力やフレームレートが伸びない理由の一つに、CCDあたりのコア数が関連している可能性がある。
TDP 105Wモードは保証範囲なのか?
Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XのTDP 105W設定を試した結果、CGレンダリングや動画エンコードのようなマルチスレッド性能が重要な処理では明らかな性能改善が確認できた一方、ゲームのようなCPU負荷の低い処理では体感性能の向上にあまり寄与しないことがわかった。CPUの消費電力や発熱面においても、TDP 105Wにすると前世代のRyzenに近い挙動となり、空冷運用するにしても大型クーラーを使うなどといった配慮が必要になる。
このようなメリット・デメリットを考慮に入れると、MSIが実装しているTDP 105Wモードの“オン・オフ”という設定項目は実に合理的である。しかし、このTDP 105WモードはPBOを利用して実装されているものであるとすれば、この105Wモードの利用は自己責任となると考えるのが自然だ。それともメーカー保証の範囲でTDP 105Wにする設定を作るのだろうか? このあたりは他社製マザーにTDP 105Wモードが広まってから考えてみるといいかもしれない。
これでRyzen 9000シリーズのパフォーマンスに関する騒動は終わりか……と思っていたがそうではないようだ。本稿の検証の終盤に配布が始まったWindowsの更新「KB5041587」には、Zen 5の分岐予測を改善するコードが含まれているとされているし、2CCD構成のRyzenの弱点であるCCD越境時のレイテンシー問題を改善するAGESAも開発中という。
Ryzen 9000シリーズは生まれ落ちたばかりだが、まだこれから伸びしろのあるCPUなのである(といえば聞こえはよいが……)。今後も折を見てRyzen 9000シリーズの成長を見守っていきたい。

この連載の記事
-
第462回
デジタル
RTX 5070の足を止めた「Radeon RX 9070 XT/ 9070」レビュー -
第461回
自作PC
新たな鉄板M.2 SSD筆頭候補確実! 約2年半ぶりに登場したWD_BLACK SN7100がスゴい! -
第460回
自作PC
Arc B570でもRTX 4060/RX 7600は超えられるのか? ゲーム10本で検証 -
第459回
自作PC
Arc B570が4万円台半ばで発売、性能はRTX 4060やRX 7600対抗の本命か【速報検証】 -
第458回
自作PC
Arc B580のRTX 4060/RX 7600超えは概ね本当、11本のゲームで検証してわかった予想以上の出来 -
第457回
自作PC
インテル新GPU、Arc B580の実力は?AI&動画エンコードは前世代より超強力に -
第456回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」は高画質設定でも最強ゲーミングCPUであることに間違いはなかった -
第455回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」が最強ゲーミングCPUであることを証明する -
第454回
デジタル
性能が最大50%引き上げられたSamsung製SSD「990 EVO Plus」は良コスパSSDの新星だ -
第453回
デジタル
性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍! -
第452回
自作PC
Core Ultra 200Sシリーズのゲーム性能は?Core Ultra 5/7/9を10タイトルで徹底検証 - この連載の一覧へ