生成AIがライブでコメントするサービスを開発中、ほかにも幅広いスポーツデータ活用を展開
サッカーの試合を生成AIが多言語で実況! ブンデスリーガとAWSのデモを見てきた
2024年08月09日 16時45分更新
カメラ映像を分析し、ゴール確率予測などのデータも提供
ブンデスリーガとAWSは、このAI実況サービスで初めてコラボレーションしたわけではない。
両者の提携関係は2020年にさかのぼり、AWSはブンデスリーガの公式テクノロジープロバイダーとして、(1)AIと機械学習を使ったリアルタイムの統計や予測(「Amazon SageMaker」などを利用)、(2)パーソナライズされたファン体験(「Amazon Personalize」など)、(3)運営の効率化と、大きく3つの分野で技術支援を行っている。
その成果の1つが「Bundesliga Match Facts powered by AWS」だ。スタジアムに設置した複数台のカメラから毎秒25回送信されるデータを使い、シュートの距離、角度、ゴールキーパーを含む相手選手の位置などから、瞬時にゴールの確率を予測する「xGoals」などが含まれる。ここでもサーバーレスアーキテクチャを活用しており、「xGoals」コンテナ内で「Amazon SageMaker」を利用して瞬時に計算する。カメラのデータを受信してから放送局やアプリにゴール確率を提供するまでは、「わずか500ミリ秒以内」のタイムラグだという。
このMatch Factsは、ブンデスリーガの新たなビジネスにもつながっている。ブンデスリーガのガバナンスを担うDFL Deutsche Fußball Ligaの子会社、Bundesliga InternationalでCMOを務めるピアー・ノーバート氏によると、米国のMLS(メジャーリーグサッカー)に同様のサービスを提供することで長期契約を結んでいるとのこと。UEFA(欧州サッカー連盟)も、UEFAが開催するチャンピオンズリーグでMatch Factsのアルゴリズムを利用したいと関心を寄せているそうだ。
このほかにも、ブンデスリーガとAWSの提携で実現していることはある。たとえばメディア制作(試合映像の制作)においては、クラウド型のリモートプロダクション(映像制作システムのクラウド化/リモート化)を進めた。これまでは、試合が行われるスタジアムに大規模な映像機材や中継車、スタッフなどを配備する必要があったが、クラウド/リモートプロダクションを採用することで現地の機材やスタッフを最小化できる。
「すべてのスタジアムとメディア制作センターを光ファイバーで接続している。これまでは、スタジアムに1~2台の中継車と最大100人程度のスタッフを配備していたが、数年以内に中継車は廃止できそうだ。スタジアムに必要なのは、数人のカメラスタッフだけということになる」(ノーバート氏)
メディア制作では、ブンデスリーガが擁するサッカー映像のアーカイブも活用している。「たとえば“香川選手(現在、セレッソ大阪所属の香川真司選手。2010~2012年、2014~2019年にブンデスリーガでプレー)のシュートシーンが見たい”と言えば、すべて抽出してくれるシステムがある。抽出したアーカイブ映像を使って、短い動画を作成できる」(ノーバート氏)。
テクノロジーの重要性についてノーバート氏は、「イノベーション/技術は中核的な存在だ」と話す。
「ブンデスリーガでは、スタジアムでの映像撮影からコンテンツ制作、ファンの端末への配信まで、すべてのバリューチェーンを所有している。これが他の欧州リーグとの差別化ポイントであり、バリューチェーンのすべてのステップにおいて、テクノロジーを用いた新しいサービスや製品を提供するための基盤となっている」(ノーバート氏)
なお、ノーバート氏の口から香川選手の名前が挙がったように、ブンデスリーガに所属する日本人選手は、英国のプレミア・リーグ、イタリアのセリエA、スペインのラ・リーガ、フランスのリーグ・アンのどこよりも多く、1992年からの累計で44人もいる。先に引退した長谷部誠選手、現役では堂安律選手、田中碧選手などが活躍しており、出場回数やゴール数でも群を抜いているそうだ。
ブンデスリーガとDFL(ドイツサッカーリーグ機構)では、今回デモを披露した生成AIによる多言語実況サービスをいつ正式提供するのかについてはまだ明らかにしていない。日本人選手が活躍することで身近になったブンデスリーガの試合で、日本からの“国境を越えた応援”を盛り上げるためにも、ぜひとも実現されることを期待したい。