最新パーツ性能チェック 第444回
低発熱&低消費電力でも性能が向上した「Ryzen 7 9700X」「Ryzen 5 9600X」のアプリ&AI処理性能に驚いた
2024年08月07日 22時00分更新
AI処理では前世代を上回る推論性能を発揮
ここでAI系の処理も試してみることにしよう。まずは「Premiere Pro 2024」に実装されている“文字起こし”機能の比較だ。再生時間約1時間半のフルHD動画に登場する4人程度の登壇者がしゃべる内容を分析して文字データにする時間を比較する。
ちなみに書き起こす内容は全て英語、Premiere Pro 2024における言語の自動認識機能はアテにならないので手動で英語を指定している。また、書き起こされた文字データを字幕トラックとして作成する処理(こちらはAIではないが)の時間も比較した。
今回の検証環境ではこの解析処理はCPUが主体となって実行される。ただコアの使われ方にムラがあるため、多コアが有利というわけではない。今回の検証でもシングルスレッド処理の速いRyzen 9000シリーズが他のCPUを僅差で抑えた。3D V-Cache搭載版を含むRyzen 7000シリーズは4分前後の狭い範囲に集まっていることから、この処理速度を決める要素はコア数でもブーストクロックでもなく、コアのIPCであることが容易に想像できる
一方字幕トラックの作成時間については、Ryzen 7 7700Xや7800X3D、Ryzen 5 7600Xが9~10秒という短時間で終了している一方、Ryzen 9系は軒並み15秒をオーバーしている点から、Ryzen 9特有の2基のCCDに分割されている設計が足かせになっていると推測される。
現時点ではテストできていないRyzen 9 9950Xや9900Xといった2CCDのRyzen 9000シリーズで12~13秒程度の結果が出てくれれば、Zen 5アーキテクチャーの強さが証明できると思うのだが、これは後日の検証課題としたい。
ここで再びUL Procyonを利用した検証に戻る。今度はAIによる推論処理速度(回数)を比較する“AI Computer Vision Benchmark”だ。以前は“AI Inference Benchmark for Windows”と呼ばれていたテスト群であり、MobileNetやInception、Real-ESRGANといった画像処理系の処理が中心となる。ここで推論エンジンはCPU、精度はFP32を指定。APIはWindows MLを選択した。
Zen 5では浮動小数点実行ユニットにも改善が入っていることは既報の通りだが、このベンチマークにおけるRyzen 9000シリーズのスコアーの伸び方はZen 5の浮動小数点演算性能の改善を実感できるもの、といえるだろう。
Ryzen 7 9700Xはコア数が倍、かつTDPも3倍以上のRyzen 9 7950Xを、Ryzen 5 9600Xは同様にRyzen 9 7900Xを上回る推論性能を叩き出した。Ryzen 7 7700XやRyzen 5 7600Xといった同コア数の旧世代モデルから見ると、実に30~40%も伸びている。
ただこのベンチで使用している推論処理ごとの推論回数を見ると、どんな処理でもRyzen 9000シリーズが圧倒しているわけではなく、ReNet 50やYOLO V3のようにRyzen 9 7950XがRyzen 7 9700Xを越えているものもある。Ryzen 9000シリーズのスコアーを支えているのは、MobileNet V3の処理がRyzen 9000シリーズと異様に相性がいいから、と結論づけられる。
今どきのAIを語るうえでStable Visionを避けて通るわけにはいかない。幸いUL ProcyonにもStable Diffusionを使ったテスト“AI Image Generation Benchmark”があるのでこれも使ってみよう。Stable Diffusionのバージョンは1.5とし、GPUがRadeon環境なのでAPIは“ONNX”を選択した。
前掲のAI Computer Vision Benchmarkと対象的に、このAI Image Generation BenchmarkではCPUの差はほとんどない。GPUがほとんどの負荷を引き受けているのだからこの結果は当然といえる。Ryzen 9000シリーズを使っているからといって、従来のStable Diffusion環境が快適になる! というわけではないのだ。ただ特定の処理が特定のGPUに対応しておらず、CPUを使わざるを得ないという状況であれば、Ryzen 9000シリーズが力を持つ可能性はある……かもしれない。
ゲームのパフォーマンスは後編にて検証する。
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