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最新パーツ性能チェック 第444回

低発熱&低消費電力でも性能が向上した「Ryzen 7 9700X」「Ryzen 5 9600X」のアプリ&AI処理性能に驚いた

2024年08月07日 22時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

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消費電力と発熱にZen 5の凄さをみた

 次は「Handbrake」を利用して動画のエンコード時間を比較する。ソース動画は4K@60fps、再生時間は約3分。これをHandbrakeプリセットの“Super HQ 1080p30 Surround”および“Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround”を利用してエンコードする時間を計測した。言うまでもないがCPU比較なのでエンコードはCPUだけを使用している。

Handbrake:2種類のプリセットを利用したエンコード時間

 CINEBENCHのグラフを反転させたような傾向になった。H.264ではRyzen 7 9700Xと7700Xがほぼ同着なのに計算の重いH.265では差がついているなど、処理によって新旧Ryzenの差がある・ないケースがあるようだ。まだ発売されていないRyzen 9 9950Xや9900Xではどういう傾向になるか今から楽しみだが、9700Xや9600XよりもTDPの上限が高いため、前世代との差が見えやすくなっていると推測される。

 ではこのHandbrakeでのH.264エンコードの際にシステム全体またはCPUがどの程度の電力を消費しているかをHWBusters「Powenetics v2」を利用して実測してみた。グラフにおける高負荷時とあるのがHandbrakeエンコード時だが、平均値・99パーセンタイル点(99%ileと表記)・最大値をそれぞれ比較する。

 注意点として最大値は一瞬(0.1秒程度)しか維持できない値である、という点に注意したい。また、アイドル時は文字通りアイドル状態だが3分間計測した平均値だけを見ている。

システム全体の消費電力

CPUの消費電力

 この消費電力のデータは、Ryzen 9000シリーズのすごさを端的に示すものだ。新旧Ryzenの同格モデル(9700X対7700X、9600X対7600X。以降同様)エンコード時間は新旧で大して差がないが、消費電力は18~35W低下。システム全体における新旧Ryzenの平均の差と、CPUの消費電力における差がほぼ一致しているので、純粋にCPUの消費する電力だけで差がついたことになる。

 そして99パーセンタイル点や最大値についても、前世代はRyzen 7 7700XとRyzen 5 7600Xでハッキリとした差がついているのに対し、Ryzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xはほとんど差が出ておらず、電力制御が強烈に効いていることが示されている。

 今回販売解禁になったTDP 65Wモデルだからここまで分かりやすい差がついたと言えるが、来週販売解禁になる上位2モデルの場合は消費電力にどういった違いが出るか、非常に楽しみだ。

 インテルのK付き3モデルに関しては、Baseline Profileから1段階性能側に振ったPower Delivery Profileで検証しているが、特に解説をしなくても第14世代の最大のネックが把握できるはずだ。

 消費電力がここまで違ってくるのだから、Handbrakeでエンコードしている最中のクロックやCPU温度もここでチェックしておくべきだろう。消費電力を測定したエンコードの裏で「HWiNFO Pro」を利用し各種データを追跡したのが次のグラフだ。

CPUクロックの推移:Ryzen 5 9600Xと7600Xのデータ。全コアの平均値

CPUクロックの推移:Ryzen 7 9700Xと7700Xのデータ。全コアの平均値

 先のエンコード時間の比較でRyzen 5 9600Xは7600Xよりも処理速度が上がっているのが数字でわかるのに対し、Ryzen 7 9700Xは7700Xと大差ないように見えるのは、このクロックの差にヒントがあるといえる。

 Ryzen 5 9600Xは全コアがほぼフルロードでも5GHzあたりに踏みとどまり、Ryzen 5 7600Xから200MHzも落ちていないのに対し、Ryzen 7 9700Xはフルロード時に4.6GHz前後まで下がり、Ryzen 7 7700Xに対しコンスタントに400MHz程度の差を付けられている。逆をいえばZen 4と5の差はクロックにして400MHz程度のハンデになる、とも解釈することができる(無論処理でこの差は変動するので、常に400MHz差相当にはならないだろう)。

CPU温度 (Tctl/ Tdie)の推移:Ryzen 5 9600Xと7600Xのデータ

CPU温度 (Tctl/ Tdie)の推移:Ryzen 7 9700Xと7700Xのデータ

 CPU温度 (Tctl/ Tdie)のデータは消費電力以上に強烈だ。Ryzen 5 9600Xは80度未満、Ryzen 7 9700Xに至ってはほぼ70度以内に押さえ込んでいる。Ryzen 7000シリーズの場合TDPの枠が許すならCPU温度が95度になるまでアクセルをべた踏みするような挙動をするが、今回販売解禁になったRyzen 9000シリーズの場合はTDPが控えめなせいもあり、アクセルを全然踏まない。この制御のおかげでRyzen 7 9700Xは前世代の7700Xよりも400MHz程度低いクロックで動いているといえる。

CPU Package Powerの推移:Ryzen 5 9600Xと7600Xのデータ

CPU Package Powerの推移:Ryzen 7 9700Xと7700Xのデータ

 ではエンコード中のRyzenのクロック制御は熱と電力のどちらが優位なのか? それはCPU Package Powerの推移が教えてくれる。今回の検証では、Ryzen 9000シリーズは88W、すなわちTDP 65W設定のRyzenにおける定格PPT(=ソケットが受け取れる電力)からほぼ動いていない。つまりPPT 88Wの枠内までは自由にクロックが動くが、PPTの定格値を上回ることはないようガッチリと制御されているのだ。

 逆にRyzen 7 7700XもRyzen 5 7600XもTDP105W設定なので、PPTは142W設定。PPT上限までアクセルを踏もうとクロックを上げるが、温度限界である95度が先に到来してしまうため、CPU Package Powerの推移がこのグラフのようにしきりに変動するようになる。

 BIOSやRyzen Masterを利用してPPT/ TDC/ EDCを上手く引き上げれば、今回発売された2モデルはもっと性能を引き出せるはずだ。このあたりは新Ryzenが発売になり、BIOSが落ち着いたら検証してみたい。

AMD Tech Dayで出していた資料より抜粋。PBOを利用すればパフォーマンスが伸びる、というものだが、Ryzen 7 9700Xの伸びが大きいのはコア数が多いので定格だとクロックが控えめだ、ということの裏返しになっていると考えられる

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