Google Cloud Next Tokyoのユーザー企業登壇 総まとめ
LINEヤフー、星野リゾート、ヤマト運輸…未来をつくる先進7社のAI・デジタル活用
JR東日本:Geminiが日本の旅行体験の幅を広げる
JR東日本グループでは、鉄道を取り巻く環境の変化に対応すべく、グループ経営ビジョン「変革2027」を策定。同ビジョンを加速するためにDXに注力しており、2023年には「DICe(Digital & Data イノベーションセンター)」を立ち上げた。DICeは社員が主導して、データを活用したアプリ開発やデータガバナンスの統制、生成AIの活用を進める組織だ。
このDICeが、GoogleおよびGoogle Cloudの協力のもとに開発したのが、インバウンド向けチャットアプリ「JR East Travel Concierge」である。2024年7月29日より実証実験を開始している。JR東日本の代表取締役副社長 イノベーション戦略本部長である伊勢勝巳氏は、「Gemini 1.5の力を最大限に活用して、訪日外国人が日本での旅をより楽しく、そして安心して過ごせるようサポートするアプリ」と説明する。
コロナの水際対策も緩和され、訪日外国人の旅行者が増えている一方で、彼らが直面しているのが“言葉の壁”“文化の違い”“地方の情報不足”だという。
JR East Travel Conciergeでは、Geminiなどのテクノロジーを活用して、これらの課題を解決する3つの機能を提供する。
ひとつ目は「情報提供」機能だ。言語の壁を越えて、旅行中の疑問や不安を解消してくれる。2つ目は「スポット提案」機能。ユーザーの好みや過去の体験に応じた観光スポットを提案してくれる。例えば、歴史に興味があるユーザーには歴史的名所を、自然が好きなユーザーには絶景スポットを勧め、地方を含めた新たな旅先の発見を助ける。
3つ目は「旅程生成」機能。ユーザーが選択した旅先を組み合わせて、最適な旅行プランを生成してくれる。「パーソナライズされた観光を提案してくれ、自国にいながらスマホひとつで計画を立てられる。そこから、新幹線の予約にもつなげていきたい」と伊勢氏。
伊勢氏は、「Googleのようなグローバルなネットワークとプラットフォームを活用していくことで、世界中の人が、より日本を旅行しやすくなるのではないか」と語った。
日本テレビ:Geminiでデータから新たな価値を生み出す
日本テレビは、「共に新しい働き方を創造し、価値を創造する」というコンセプトのもと、データやAIを活用したDXに取り組んでいる。同社がGeminiで推進するのは、業務改善にはとどまらない“事業貢献”への活用だ。
同社の主要ビジネスはコンテンツに広告出稿してもらうことであり、その中で、“コンテンツの中身”に即したターゲティング広告である「コンテクスチュアル広告」を提供する。コンテンツに含まれる物体やセリフを検知して、その内容に沿った動画広告を配信するこの商品を、Geminiを使って構築した。
同社がGeminiを選んだ理由は3つあるという。ひとつ目は「親和性」。マルチモーダル、ロングコンテキストに対応するGeminiは、動画コンテンツを豊富に抱える同社と親和性が高い。
2つ目は「Google Cloud製品とのシームレスな連携」。同社のデータ基盤は「BigQuery」、ドキュメントはGoogle Workspaceに格納しているため、社内データやナレッジをAI活用する環境がすぐに整えられる。3つ目は「周辺プロダクトの充実」。モデルだけではなく、Vetex AIのAgent Builderや「Cloud Run」など、アプリケーション開発のためのサービスが充実している。
コンテクスチュアル広告の仕組みとしては、まずGeminiが、クラウドストレージの動画から物体や音声、シーンを抽出する。これらのカテゴリをGeminiが分類して、それを基に動画広告を配信する。さらには、Agent BuilderやCloud Runを用いることで、データの抽出結果を活用するための対話型のチャットも構築した。
Geminiによるデータ抽出のフローにおいては、「Langchain on Vertex AI」でタスク全体をマネージドサービスとしてAPI化しており、さらに「Context caching」で計6回に及ぶGeminiの呼び出しを精度とコストの両面で最適化している。これらの仕組みを構築したことで、65%のコスト削減につながったという。
日本テレビ放送網のDX推進局 データ戦略部 主任である辻理奈氏は、「生成AIはPoCから実用化のフェーズに来ており、日本テレビでも、広告商品やコンテンツ制作に積極的に活用していく。変化の激しい生成AIにスピード感を持って追随するには、用途に応じて最適な選択をしていくことが重要」と強調した。
ヤマト運輸:運ぶ力とデジタルの力を掛け合わせた未来の物流の創出
「運ぶ」を通じて「豊かな社会の実現」を目指すヤマト運輸。Eコマースの成長などにより宅急便の取扱量が年間23億個にまで達する中で、同社が推進するのがデジタル技術を活用したオペレーション改革である。
同社がGoogle Cloudのソリューションで構築を進めるのが、効率的で持続可能な物流システムだ。フロントエンドにはGoogle Maps PlatformとGoogle Cloudを活用し、バックエンドにはスケーラビリティの高い「AlloyDB」を採用して、将来的なデータ量の増加に対応する。
具体的には、AIによって担当エリアの割り当てや配送ルートを柔軟に最適化できる仕組みを実装する。一部のドライバーへの負担集中を防ぐ仕事量の平準化を目指しており、これにより配達可能個数が10%増加する見込みだという。
事業環境の変化に対応できるよう、これらのシステム開発はGoogle Cloudのアメリカ、フランス、シンガポール、そして東京のチームと協力して、アジャイル開発で進めた。現在も、数週間から1か月のサイクルでリリースを続けている。最前線で働く同社のドライバーもプロジェクトに参画し、Google Cloudの開発メンバーも同社の現場を体験することで、互いに感度を合わせているという。
ヤマト運輸の執行役員 輸配送オペレーション システム統括である秦野芳宏氏は、「このシステムは始まったばかり。現場とテクノロジー、経営が一体となってヤマト運輸の良さをテクノロジーの中に組み込む」と説明。加えて、「運ぶ力とデジタルの力を掛け合わせて、物流の未来を切り開き、社会に貢献し続けたい」と強調した。
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