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2000年に世界初の観客向けダイヤルアップ接続を提供、球団CIOにファン体験進化の取り組みを聞いた

MLB サンフランシスコ・ジャイアンツが「球場のネットワーク」にこだわる理由

2024年07月08日 17時15分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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顔認証でのスムーズな入場もスタート、より先進的なファン体験を目指す

 シュロフ氏が「ネットワークを使ったファン体験のイノベーション」として強くアピールしたのが、観客の入場管理だ。試合前になると押し寄せる4万人超のファンに、いかにスムーズに入場してもらうかがカギとなる。

 同球場では2000年、野球場として初めてバーコードチケットを導入した。当初はバーコードが印刷された紙チケットを販売するかたちだったが、その後はバーコードをメール配布して、観客がプリントアウトして持ってくる方式にあらためた。これによりインターネット上でのチケット販売が容易になった。

 時代が進み、スマートフォンが普及したことを受けて、チケットはさらにデジタル化される。球場に来てMLBの公式アプリにログインすれば、購入済みのデジタルチケットが画面表示できるようにした。また5年前からは、NFCによるチケットのタッチ読み取りにも対応している。

現在はMLBアプリに保存したデジタルチケットをスキャンして入場する

 さらにファン体験を進化させるために、今シーズンから部分導入が始まったのが「顔認証方式」での入場だ。あらかじめアプリから顔写真を登録してあるファンは、立ち止まってチケットをスキャンさせる必要はなく“顔パス”で入場できる仕組みだ。家族連れの場合、アプリスキャン方式では人数分のチケットを1つずつ表示させる必要があったが、顔認証方式ではその必要もなくした。

 この顔認証による新しい入場管理は、MLBが統一的に用意した「Go-Ahead Entry」という仕組みで、顔認証端末とシステムには日本のNEC製品が採用されている。導入済みの球場はOracle Parkを含む4つで、すでに来場者のおよそ10%がこのGo-Ahead Entryを利用しているという。

 シュロフ氏は、顔認証技術を「自分のキャリアで出会った中で、最もすばらしい技術」だと評価する。ファン体験に生じるストレスを取り除いてくれるからだ。2025年のシーズンまでには、顔認証方式の利用率を50%まで引き上げたいと意気込む。

 顔認証技術の適用先は入場管理以外にも広げたいという。たとえば球場内の売店で、顔認証を使ったキャッシュレス決済ができないかと検討していると語った。

顔認証方式の入場管理をスタートし、登録済みのファンは“顔パス”で入場できる。今後は売店での買い物も“顔パス”になるかもしれない(ちなみにUber Eatsによる座席への配達は導入済み)

 さらに、Extremeのシステムを使ったトラフィック分析も考えている。たとえば試合中、スポンサー企業がスクリーンで広告コンテンツを流すことがあるが、その際に球場内ネットワークで関連トラフィックがどのくらい発生したのかを検証することができる。「スポンサーも投資対効果を求めるようになっている」(シュロフ氏)。

* * *

 このように、先進的なファン体験を実現する“ハイテク球場”の取り組みの数々を紹介したシュロフ氏だが、最もファンが喜ぶ体験は「サンフランシスコ・ジャイアンツが試合に勝つことだ!」と笑う。こればかりはCIOの力ではどうにもならない。

 幸いなことに、この日、サンフランシスコ・ジャイアンツは5対3の逆転勝ちでロサンゼルス・ドジャースを下した。試合が終わると花火が上がり、集まった地元のジャイアンツファンたちは、球場で味わう“最高のファン体験”に酔いしれていた。

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