第14回衛星放送協会オリジナル番組アワード 番組部門 ドキュメンタリー 最優秀賞「BS1スペシャル「わが娘を手放した日 中国 “一人っ子政策”のその後」
2024年06月27日 17時30分更新
制作陣の作品作りにおける情熱と姿勢から描き出された“愛”に刮目せよ
6月10日に「第14回衛星放送協会オリジナル番組アワード」の最優秀賞が発表され、番組部門 ドキュメンタリーでは「BS1スペシャル『わが娘を手放した日 中国 “一人っ子政策”のその後』」(NHK BS1)が受賞した。
同番組は、1979年から36年間に渡って中国政府が行った「一人っ子政策」がもたらした傷跡を、21年ぶりに再会した親子に密着することであぶり出した秀作。厳しい産児制限政策によって、農村部では男子を求めるあまり、先に生まれた女子の存在を闇に葬るケースが横行したという悲劇を紹介し、罰金や罰則に耐え切れずわが子を放棄せざるを得なかった親と国際養子縁組により米国で人種的偏見に晒されながら育った娘の再会を追うことで、強権政治のうねりに翻弄される庶民の姿を描き出している。
センセーショナルな内容もさることながら、特に驚くべきは制作陣のドキュメンタリー制作に向き合う姿勢と取材力だ。農村部での「一人っ子政策」について当時の状況や、現在の“娘との再会を願う親”と“本当の両親を探している娘”が数多く存在していることなどを丁寧に説明しつつ、実際に再会できた家族と娘の両側からカメラで追うことで、互いが“会いたい”と強く願う思いや、見つかった時の喜ぶ姿、実際に再会するまでのうれしさと怖さが入り混じった心情、再会した瞬間のリアルな反応、しばらく一緒に過ごす中で生まれたそれぞれの思いなど、複雑に絡み合う“感情”がリアルな人間ドラマを描き出していく。これは、制作陣の熱い思いと社会問題に対して真っ向から取り組んだチャレンジ精神の賜物に他ならない。
そんな制作陣の血と汗と涙で作られた作品から届けられるものは“愛”だ。離れていてもずっと焦がれ続けていた親子の“愛”、無事でいてくれたことに満足し、これからの幸せだけを願う親の“愛”、自分を捨てたことを心から後悔し続けた両親の思いに触れて、今後は両親に楽をさせてやりたいという子の“愛”、国際養子縁組によって育ての母となった養母の娘を思う“愛”など、強権政治が生んだ深い傷にスポットを当てつつも、“リアルな人間ドラマ”で視聴者に“愛”を届けている。だからこそ、観る者の心を震わせる秀作となっているのだ。
社会問題をテーマに現代社会の闇を取り上げつつも、“愛”にあふれた作品となった、制作陣の作品作りにおける情熱を感じた。