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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第106回

〈後編〉taziku田中義弘さんインタビュー

ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる?

2024年08月11日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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法律的にクリアでも……感情を推し量る必要あり

まつもと アニメ業界から、問い合わせや引き合いってありますか?

田中 K&Kさんのところにはアニメスタジオさんから、「この技術はどこまで行っていて、どうやって実現しているのか?」とか、「AIアニメプロジェクトはどこまで進んでいるのか?」といった問い合わせがすごい数来ているそうです。

 あと、テレビシリーズでちょっとAIを使いたい、みたいなお話もありましたが、残念ながら具体的には進みませんでした。

 やはり従来のワークフローにどう組み込んだら良いのかというところは、ちょっとまだイメージが難しいのかもしれませんね。たぶん最終的なアウトプットとしては実用レベルなのですが、ほかの作業にうまく組み込んであげないといけないので。

 ちなみにK&Kの川上取締役曰く、「東京のアニメスタジオさんは稼働が2~5年先まで埋まっているそうで、(AIで制作するアニメの相談を受けても)新たなラインを空けることはできず、膨大な仕事に追われて研究開発もままならない状況でしょう。逆にうちは暇だからできた」と(笑)

まつもと 良い意味で余白があったのですね。新しいものってそういうところから生まれるので、期待されてる方も多いと思います。

 とは言え、現時点で田中さんが感じていらっしゃる「こういう箇所は気をつけないといけないな」といったリスク要因や教訓みたいなものはありますか?

田中 法律面は文化庁さんも啓蒙されていて、現行法で言えば範囲や用途など正しく法律に従ってであれば問題がないという認識です。

 我々が実施するのは生成・利用段階なので、仮にたまたま似てしまったとなっても、あったとしても民事で訴えられて損害賠償だと思うのですが、専門家からは、「著作権侵害の要件にあたる依拠性をAIの場合どう証明するのか?」「AIが意図してやったと証明しづらい」と。要はアウトプットに偶然性があるので「これは意図して真似た」と証明しづらいとか。

まつもと プロンプトで「●●風を出せ」などと明言してない限りは、って感じですかね。

田中 そういった意味ですと、最大のリスクは法律面ではなく、感情面でしょう。大好きなキャラクターがここで蹂躙された、みたいな。「AIで作られたキャラが●●とめちゃくちゃ似てる。こいつが発表してるぞ」となったときの燃え上がり。

まつもと 何度かありましたね。

田中 たとえ裁判で勝っても社会的には潰されてしまいます。ですから、今アニメを大事にされていて大好きな方々の気持ちはきちんと汲んでいかないと、感情面でコントロール不能になってしまったときに、おそらく社会的に抹殺されてしまうというリスクはあるかなと思っています。

まつもと そのお話って、前編でおっしゃっていた「トリリオンゲーム」の際に、きちんと指定しないと既存アニメの絵がアウトプットされがちなので“下絵でパーツを具体的に描いて独自性を出す”といった工程は、感情面でのリスクを避けるための1つの手段という解釈もできるのでしょうか?

田中 そうですね。要はAIってオリジナリティーが消失しがちな一方で、“オリジナリティーを出すために既存のアニメ絵に近づける”こともできてしまう技術ですから、手作業を織り交ぜていくことで若干の人間味をまぶしてオリジナリティーを出すことができると思います。

まつもと 今日のお話を通じて感じたものは、やはり“人の手が介在することによって初めて得られるものがある”ということですね。すごく大事なメッセージだなと。今回はありがとうございました。

前編はこちら

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 IT・出版・広告代理店、映画会社などを経て、ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。情報メディア・コンテンツ産業に関する教育と研究を行ないながら、各種プロジェクトを通じたプロデューサー人材の育成を進めている。デジタルハリウッド大学院DCM修士(専門職)・東京大学大学院社会情報学修士(社会情報学)。経産省コンテンツ産業長期ビジョン検討委員(2015)など。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

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