関西から全国、世界へ。アカデミア、ベンチャー、大手企業の枠を超えてイノベーションに取り組む
InnovationのIncubation(孵化)新たな価値を創造するイノベーション(神戸医療産業都市クラスター交流会)レポート
独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)近畿本部が主催する、新規事業を創出するイノベーションとインキュベーションをテーマにしたイベント「InnovationのIncubation(孵化)新たな価値を創造するイノベーション」が2023年3月6日にアンカー神戸(神戸市)で開催された。アカデミア、ベンチャー、大手企業の分野からイノベーションに取り組む人たちが登壇し、それぞれの視点から現状と今後について語った。ここでは二つの講演の模様を紹介する。
中小機構は全国29カ所、近畿本部は11カ所にインキュベーション施設を運営しており、J-Startup KANSAI、J-Startup選定企業70社のうち、17社(24%)が入居しているという。大きく分けて、新事業創出型事業施設と大学連携型起業家育成施設という2種類の施設があり、それぞれにインキュベーションマネージャーが常駐し、ソフトとハードの両面から支援を行う。その他に、将来有望な技術やシーズを保有するスタートアップを支援するアクセラレーション事業「FASTAR」、ベンチャーリブート支援事業といったプログラムがあり、ファンド出資事業、ベンチャーデット債務保証などを提供している。
講演「バイオ産業革命を牽引するバイオファウンドリ」
工学の概念である「DBTL(Design Build Learn Test)サイクル」を生物学に導入し、合成生物学に必要な技術や装置を集積させて自動化するシステムやサービスを構築する「バイオファウンドリ」が世界で注目を集めている。その第一人者である近藤氏は「合成生物学は経済、社会、暮らしを変革し、地球規模での社会課題解決と経済成長の両立という二兎を追える研究分野である。産業規模は200から400兆円規模の成長が見込まれ、経済産業省もバイオものづくり革命推進事業に3000億円の予算を付けている」と話す。
関連ベンチャーの立ち上げが期待される中で近藤氏は、「バイオものづくりにディープテックで貢献することは大学の使命」だと言い、日本初の統合型バイオファウンドリである株式会社バッカス・バイオイノベーションを自ら立ち上げた。バイオファウンドリには、ゲノム解析技術、ゲノム合成・編集技術、IT/AI技術、ロボット・自動化の融合が必要となり、エンジニアバイオロジーという言葉も登場している。バイオ製造には個社で対応するには限界があり、スケールアップさせるには統合型プラットフォームが不可欠となる。
近藤氏は、「最高の論文は良い知財になる。大学が年月をかけた研究があるからベンチャーを立ち上げられる。その上で、施設、人材、資金などを集積させる効果が重要だ」と語る。また、近藤氏は関連する複数の大学ベンチャーにも関わっている。いずれも神戸市のポートアイランドに集積しており、「別の動きをする複数のバイオファウンドリがコネクトすることで、他の分野とも連携できる可能性もある」と話す。
周囲には中小機構が運営する神戸医療機器開発センター「MEDDEC」、神戸健康産業開発センター「HI-DEC」といった施設もあり、バイオ分野そのものが関西の強みになりつつあるという。近藤氏は個人的な構想としながら、「スーパーシティが集まる関西をスタートアップ集積地にする“グレーター大阪ベイエリア”を実現し、世界に負けないベイエリアをみなさんと一緒に構築したい」と参加者にエールを送った。
講演「たった1人からはじめるイノベーション入門」~価値創造の仕組みと人材~
イノベーションが残り続ける仕組みである「1人イノベ」を提唱し、著書も出版している竹林氏は、重要なポイントとして、「未来」を描く、「軸」を変化させる、「人と組織」を創る、の3つを挙げている。「コミュニケーションもモチベーションも無い風土にイノベーションは生まれない。外ではイノベーションと言っているのに、席に戻ったらオペレーションしかせず、実際にしようとしたらハレーションが起きる」と軽快なテンポで核心を突く。
竹林氏は「イノベーションとはソーシャルニーズを創造することで、社会課題を技術で解決し、より良い社会を実現する未来を描くことが大事」だと話す。具体的に軸を変化させるにはどういう方法があるかを紹介し、視点と発想を変えて考える重要性を強調した。さらに「新しい価値を生み出すにはバラエティに富んだ人材が必要」と言い、「起承転結」のそれぞれを得意とする人材を組み合わせるモデルを紹介した。