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先駆者の事例、フェローのパネル、アカデミックな視点も披露

コミュニティマーケティング推進協会が始動 5年後の当たり前を目指す

2024年04月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2024年4月17日、「コミュニティマーケティングをあたりまえに」を掲げ、一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会が設立イベントを開催した。母体となるCMC_Meetupを運営してきた代表理事の小島英揮氏は社団法人化の趣旨や活動について説明。また、協会のフェローたちがコミュニティマーケティングの課題や協会設立の意気込みを語った。

コミュニティマーケティング推進協会 代表理事 小島英揮氏

コミュニティを作ることが目的になっていないか?

 イベントの冒頭、コミュニティマーケティング推進協会代表理事の小島英揮氏は、ユーザーコミュニティであるCMC_Meetupから社団法人になった経緯が説明した。

 AWSジャパンのマーケティング担当者時代、クラウド普及の起爆剤となるAWSのユーザーコミュニティJAWS-UGを立ち上げた小島氏。「利用者同士で話をすることで、マーケットが創造される場面をよく見てきた。これがたまたまJAWS-UGに起こったことだけではなく、再現性がある。再現性があるということは誰でもできるということ」(小島氏)ということで、2016年にはコミュニティマーケティングを考えるコミュニティとしてCMC_Meetupを立ち上げ、2019年にはコミュニティマーケティングの書籍も刊行。2024年現在、CMC_Meetupのミートアップや配信も130回を超え、Facebookのメンバーも3900名以上に拡大した。

10年のコミュニティマーケティングの普及活動

 同氏がコミュニティマーケティングをイベントで紹介したのは、AWSジャパン在籍時代の2014年。そこから10年が経ち、コミュニティマーケティングという言葉は確実に拡がったが、最近はコミュニティへの期待が「銀の弾丸」として捉えられるようになってきたという。これに対して小島氏は「期待値が先走りしているのでは?」と課題を投げかける。聴衆に対して「多くの人はコミュニティを作りたいわけではない。コミュニティでなにかを加速させたい近道したい、拡大したいのではないか?」と問いかける。

 では、コミュニティマーケティングとはなにか? 実は十年前、米国の口コミ・マーケティング協会のWOMMAでは、コミュニティマーケティングを「ユーザーグループやファンクラブなど、商品やブランドの興味を持つ組織を運営し、支援する手法」と定義していた。当時は「ブランド形成に寄与する」ことが、コミュニティの役割だと考えられていたわけだ。

 しかし、小島氏はコミュニティマーケティングはブランド強化のみに寄与するわけではないと指摘する。「ベンダーに言われたことをお客さまが体験し、その体験とセットでブランドがでいる。であれば、体験を束ねて強化するのがコミュニティ」と小島氏は指摘する。実際、CMC_Meetupの7年の活動、200件以上の事例からは、さまざまなTIPSやフレームワークが生成され、コミュニティのメリットはブランド強化にとどまらないことが見えてきたという。

コミュニティマーケティングの価値はブランド強化にとどまらない

 ブランド強化以外の効能として小島氏が挙げたのは「顧客理解」「顧客育成」「顧客創造」の3つ。そしてこれを実現するため、CMC_Meetupで披露された事例では、ユーザー同士のインタラクションの起こし方、コミュニティを通じてバリューを伝える、フォロワーシップやリーダーシップを機能させるための3つのファーストなどのいわゆる「型」が生成された。小島氏は「結局、(コミュニティを作ることで)みなさんがやりたいことはこれでは?」と指摘。これらの近道の1つがコミュニティマーケティングであると語った。

 結果、協会としてのコミュニティマーケティングの定義は、「事業者等が、製品やサービス利用者を対象として主宰する『コミュニティ』との双方向のコミュニケーションを通じて、顧客同士の交流や情報発信を促すことで、顧客の製品・サービスへのロイヤリティ創出、向上に貢献するとともに、①顧客理解、②顧客育成、③顧客創造を相互に連動させ、スケーラブルに実施すること」になったという。この定義は、日本マーケティング協会が2024年に作った「新定義」ともシンクロしているという。

コミュニティマーケティングの定義とやりたかったこと

コミュニティマーケティングを当たり前にして5年後に解散する

 続いて小島氏は、コミュニティマーケティングの現状を整理する。CMC_Meetupの活動では、実践者のためのフレームワークやTIPSが言語化され、実践者自体も増えた。もちろんコミュニティマーケティングの知名度やデマンドも増加した。また、コミュニティマーケティングがビジネスだけではなく、地方創生や社内コミュニティの醸成に寄与することもわかった。

 「10年かけてやっとここまで来たなと。でも、まだまだ実現できてないことがある」と小島氏は語る。たとえば、現状は「どのようにやるか」というHowが先行し、実践者が増加したにもかかわらず、まだ成功例が少ないのが課題。海外やお手本や先行事例が少ないため、コミュニティマーケティングを体系的に学べ、その価値やメソッドを普及・啓蒙するより強力なエンジンが必要となり、この受け皿となるのが、今回設立された一般社団法人コミュニティマーケティング協会になる。

 小島氏は一般社団法人コミュニティマーケティング協会を「OWWH」のフレームワークで説明する。まず目的(Objective)は「5年後、コミュニティマーケティングが当たり前の存在になること」。「5年後にこの団体は解散する予定。5年後にできなかったら、あいつら実現できなかったんだなと思っていただければ(笑)」と小島氏は語る。また、対象(Who)として潜在層までを含むコミュニティマーケティングの関係者を顕在層にシフトさせ、「わかっている」から「できる」にシフトするようにするという。

5年後の当たり前を目指す

 なにを伝えるのか?の「What」は、コミュニティマーケティングに取り組むべき理由や想定される効果、推奨モデル、ステークホルダーへの説明や連携方法、設計手法、フレームワークやTIPSなど。方法を示す「How」はコミュニティやイベントに加え、教育プログラム、講師派遣、調査・研究事業なども用意する。

 一般社団法人コミュニティマーケティング協会は理事会で基本方針を決定し、実行主体としての事務局とユニットを設置する。同時に特定分野の専門知識に基づいた講演や執筆、アドバイスなどを行なう「フェロー」を置く。「今までは真ん中に『コミュニティ島』があって周りが傍観している状態だった。両者をブリッジするのがフェローの役割」ということで、後述するエンタープライズ、B2B、D2C、B2C/オムニチャネル、カスタマーサクセス、DevRelなどのフェローをそれぞれ任命されている。

コミュニティ島と周りをつなぐフェローの役割

先駆者とフェローが語るコミュニティマーケティングのリアル

 設立趣旨を説明する小島氏の講演のあとは3つのセッションが開催された。「Community Led Growth の実践例」では、クラフトビール業界700社でシェアNo.1を誇るヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行氏、KDDI傘下にありながらIPOを実現したソラコム 上級執行役員 SVP of Engineering 片山暁雄氏が登壇し、コミュニティマーケティングの実例を披露した。

 ヤッホーブルーイングは、20年間で売上約20倍に拡大している。看板商品「よなよなエール」は、今年28年目でありながら売上は年々上がっているという。この背景にあるのがファンマーケティング。ファンを呼んだ巨大なイベントを実施したり、社内のあらゆる部門がファンとつながって、双方向にコミュニケーションが発生しているのが特徴的だ。

ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行氏

 自身もSNSでファンと交流するてんちょこと井出氏は、「ファンが勝手にやってくれた。自然発生したファンをオーガナイズした」とコメント。赤字になるファンイベントも「お金は使っていい。むしろどんどんやってとお願いしている」と意に介さない。今後は、ファンだけじゃなく、幅広くステークホルダーまでも巻き込んでいきたいという。

 IoTプラットフォームを提供するソラコムは、サービス開始当初からユーザーグループ「SORACOM-UG」が立ち上がっている。コミュニティマネージャーのMAXこと松下享平氏が各地の勉強会に登壇し、ユーザーと双方向のコミュニケーションを実現している。コミュニティとやりたいこととソラコムの目標が違うこともあるので、そこをうまく調整していくことが重要だという。

ソラコム 上級執行役員 SVP of Engineering 片山暁雄氏

 続いては今回協会のフェローになった各メンバーに、5年後のコミュニティマーケティングのカタチを聞くパネルディスカッション。登壇したのはエンタープライズユーザー部門フェローであるフジテック 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏、B2B分野フェローのAsana Japan コミュニティ・マーケティング・プログラム・マネージャー 長橋明子氏、、D2C分野フェローのヤッホーブルーイング よなよなピースラボ Unit Director 佐藤潤氏、カスタマーサクセス分野フェローのCore Value 代表/Treasure Data ヴァイス・プレジデントの坂内明子氏、DevRel分野フェローのDatadog Japan シニアデベロッパーアドボケイト 萩野たいじ氏の5人だ。

 小島氏が最初にテーマに挙げたのは「変化と不変」。10年前と違うところについては、「プラットフォーマーの上でユーザーが価値を作るようになったので、ベンダーよりユーザーの方が知ってようになった」(友岡氏)、「実践者が増えた」(長橋氏)、「聞ける人が増えた」(坂内氏)、「会社からの一方通行のコミュニケーションが通じなくなった」(佐藤氏)などのコメントが上がる。

 逆に変わっていないことは「エンジニア同士が助け合うところ」(萩野氏)、「方法論がないこと」(長橋氏)、「口コミのパワー。近くにいる人の強烈なオススメはやはり効果的」(佐藤氏)と語る。坂内氏の「ユーザー会はあったが、コミュニティはなかった」や、萩野氏の「コミュニティはあったが、マーケティングを意識しているところはなかった」というのも印象的なコメントだった。

(左から)小島氏と、フェローの友岡氏、萩野氏、長橋氏、坂内氏、佐藤氏

 続いてコミュニティマーケティングを当たり前にするために相手にすべきは誰かという問いに対しては、パネラーのほとんどが「経営者」を挙げる。コミュニティを理解してもらい、会社の戦略と結びつける必要があるからだ。また、「ロイヤリティの高いお客さま、社長、共感する社内のメンバー」(佐藤氏)、「業界のリーダーをおさえて、大きな山を崩す」(友岡氏)といったコメントも出た。

 最後は協会がゴールを定める5年後に向けたフェローの野望。「コミュニティに出してくれる社長が増えること」(友岡氏)、「大学の授業で受けられる」(長橋氏)「ギバーが増えて欲しい」(坂内氏)のほか、「(世界的なコミュニティマーケティングイベントである)CMXに登壇して欲しい」(萩野氏)という声もあった。

アカデミックな観点でコミュニティはどう見えるのか?

 そして、最後はモデレータ:コミュニティマーケティング推進協会 理事 小笹文氏をモデレーターに迎え、アカデミックの観点で「消費者行動論の視点から捉えたコミュニティマーケティングの可能性」を語る。登壇したのは、コミュニティマーケティング推進協会の理事に就任した早稲田大学大学院経営管理研究科 教授 澁谷覚氏、長橋明子氏の2名だ。

 澁谷氏は、10年の会社員生活を経て、研究・教育の道を志し、デジタルコミュニティをベースにしたマーケティングの研究をしてきた。「ネット・コミュニティのマーケティング戦略」をはじめ、さまざまな書籍を執筆しており、2022年春から早稲田ビジネススクール(WBS)でマーケティングと消費者心理を教えている。

コミュニティマーケティング推進協会 理事、早稲田大学大学院経営管理研究科 教授の澁谷覚氏

 澁谷氏は関心軸を意味するインタレストグラフと地元や血縁などのソーシャルグラフ、そしてオフラインとオンラインという4軸でコミュニケーションを分類。1990年代に研究されたのは、すべてインタレストグラフによるコミュニティだったが、その後Facebookがソーシャルグラフのコミュニティをビジネス化することに成功。一方、同じく空間で集まり、興味・関心軸で集まるファンクラブや同好会、オフ会、ブランドコミュニティなどの領域はいまだに名前がない。ここがコミュニティマーケティングの対象とするコミュニティなのかを考えるべきと提言した。

4つのコミュニケーション

 また、オフラインコミュニティが同じ空間に閉じているのに対して、デジタルコミュニティは発信者と閲覧者に階層化するという現象が起こるという。「真ん中で議論している300人の周りに、議論に参加しない、事例だけ見たい閲覧者が100万人にいる。閲覧者を巻き込める設定ができれば、対面でやっている今の盛り上がりを、デジタルで桁がジャンプできると思う」と持論を披露。その意味で、協会のフェローの制度は両者を結びつける役割になるのではないかと語った。

 澁谷氏の元でコミュニティマーケティングを学んでいた長橋氏は、コミュニティ作りに挫折した経験を経て、研究に解を求めたという。結果として、実務者の課題である「いかに発信する顧客を増やすか」をテーマに、受動的な参加者を能動的な参加者に変容させるメカニズムを研究しているという。今後も研究を拡げ、実務者目線のビジネスの貢献、日米のコミュニティ比較、影響力を最大化する組み合わせ、SNSでのエンゲージメントなどを研究対象にしていきたいと抱負を語る。

B2B分野フェローの長橋明子氏

 なお、コミュニティマーケティング推進協会の今後の活動としては、教育プログラムや個社向けのコミュニティ設計や戦略構築のケースメソッドを用意する予定で、すでに数社に提供済み。また、大型のイベントも開催していく計画で、直近では6月29日に名古屋にある愛知大学のキャンパスで「CMC_Central」というイベントを開催するほか、冬から春には都内で大型のカンファレンスも開催する予定となっている。サイトの「CommunityMarketing.jp」も運営していくという。

設立イベントの参加者たち

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