年度の終わりを迎え、今後の日本のAI政策がどのような方向になるのかが、明確になってきました。昨年5月の「広島AIプロセス」の取りまとめから始まり、文化庁、総務省・経産省、内閣府と個別省庁で話し合われてきた議論の最終案がまとまってきたためです。また、自民党を中心に、議論が活発化しており、内閣の政策方針の提示となる6月の「骨太方針2024」に反映させようとAI関連の立法案も出てきています。
JASRAC理事「30条の4を改正すべき」
3月19日に、文化庁の文化審議会著作権分科会が開かれました。この分科会は、「AIと著作権」について議論してきた法制度小委員会のひとつ上の集まりで、年数回開催されるものです。これまでは法曹の専門家を中心にまとめられた議論を、業界団体等で構成される委員に報告し協議するという会議です。今回は、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の最終案が「考え方」という名称に変わったことや、パブリックコメント実施や審議のプロセスを説明するという形で進められ、それに対して各委員が意見を述べる形で進行しました。
口火を切ったのはJASRAC理事で作曲家の渡辺俊幸氏で、「著作権法第30条の4を改正すべき」と主張しました。また、日本美術著作権連合理事長で児童文学家のあんびるやすこ氏は、「画風の保護を検討してほしい」との主張をしていました。一方で、青山学院大学の内山隆教授は「AIを活発に使わないうちに議論する状況なので、急速な法改正をせずに様子をみるという方向性はよい」と述べるなど、考え方を評価する声もありました。ただ、半年間の議論を始めからやりなおせという意見が出ていたのは事実で、権利者を代表とする各業界団体との意見の溝が大きくあることが改めて鮮明になりました。
こうした意見を受けて、文化庁著作権課の籾井圭子課長は、「現行規定でできるものについては、議論の中で対応している。相談窓口で収集、諸外国の動き、技術の進展、引き続き検討していく」と発言しました。その上で「一連の議論で、なかなか知識基盤のレベル合わせができていない」とも述べました。「関係者ネットワークを通じて、法律の解釈で解決するのは難しい部分もあるので、当事者間の議論を進めていきたい。事業者とクリエーターとで、AI技術の理解の促進、ライセンスの実施状況の共有の促進、海賊版対策など、先の議論をする上での信頼関係が作られるのでは。それを通じて、向き合っていきたい」(桝井氏)
文化庁は、単に法解釈の結果を報告して終わりとするのではなく、継続的なものとして、情報を収集し、関係団体が揃って議論して、コンセンサス形成を進める必要性を感じていることが伺えました。この実現のために文化庁はすでに設置している法律相談窓口をAIについても受付を開始し、また、「AIと著作権に関する関係者ネットワーク(仮称)」の経済産業省の協力を受けつつ設立すると発表しました。4月に第1回会合が開かれる予定です。今後は各種団体とが共通して情報共有をする場所を継続的に運用することで、相互の信頼醸成を図っていくようです。
文化庁は、議論対立が激しいこの分野で、法律の現行規定の中でできることを模索し、迅速に打ち手を進めている印象があります。2018年の著作権法の改正以降、関連する法案についての裁判事例はまだないため、判例もない状態です。国の政策は、法律改正後、判例の積み重ねを通じて次の改正を検討するものですが、大枠としては、現状では司法を通じた改正の必要性が出ていないという状況です。そのため、まずは補完的な機能を強化することでAI分野での「共創の関係の実現」を目指そうとしています。
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