2024年2月に起きた、生成AI関連での最大のトピックは、OpenAIによる「Sora」の公開だろう。動画を生成するAIは多数あり競争が激化しているが、クオリティの高いものがいきなりOpenAIから出てきたため、「革命」「衝撃」と高く評価する声が多い。
"Cinematic trailer for a group of adventurous puppies exploring ruins in the sky"
— Tim Brooks (@_tim_brooks) February 21, 2024
Video generated by #Sorapic.twitter.com/FNZmvstONj
詳しくはのちほど述べるが、筆者は革命ではないと思っている。正確には「まだあわてる時間じゃない」。それっぽい動画が公開されることと、それが動画の実制作に使えることはイコールではないからだ。とはいえ、動画における生成AIの価値を考える上で、大きな転機となるのは間違いない。
それ以外にも「来歴記録」や「1ビットLLM」など、ここから大きな影響がある発表も多くあった月でもある。Soraのように派手ではないのでそこまでバズっているわけではないが、人々の生活にはSora以上に影響を与えるだろう……と筆者は予測している。
ChatGPTで生成した画像に“電子透かし”が入るようになった(2月7日)
グーグル、来歴記録の「C2PA」に参加(2月8日)
地味なニュースに思えるかもしれないが、実は非常に大きな話だ。
生成AIで作られた画像によるフェイクコンテンツへの対策が課題になっているが、根本的にはその手法に関する話である。
OpenAIが採用するのも、グーグルが加入するのも「C2PA」である。C2PAとは来歴記録技術の標準化団体。アドビやマイクロソフトが立ち上げ、カメラメーカーとしてはソニーも運営に参加している。
来歴記録とは、「そのデータを誰が、どんなもので作り、どう編集し、どこに公開したか」を記録する技術。写真の加工履歴を残して報道の信憑性を高めるために考え出されたものだ。
生成AI周りでは、すでにマイクロソフトがCopilotでDALL-Eを使って画像を生成するために埋め込んでいる他、今回、OpenAIがChatGPTでの利用を決めた。また、メタもタイミングを同じくして、生成AIで作られた画像にC2PAのタグを埋め込むと発表している。
C2PAは実装をオープンソースとして公開しているので、団体に参加しなくても利用できる。実はOpenAIはC2PAに加入していないのだが、公開情報をもとに実装したと見られている。
ただここで注意が必要なのだが、来歴記録は「改変を不能にする技術」ではない。来歴自体は削除もできるからだ。ファイルの暗号化技術でもなく、単に来歴を記録するだけだ。
だとすると改変は防げないわけだが、そこがポイントである。来歴のタグがない場合、その画像は「来歴がはっきりしない」もしくは「来歴が消された」可能性を示している。逆に、来歴タグがあること自体が間接的に信頼の証になるわけだ。
直接的に真贋を示すものではないので、導入の意味や価値をどう浸透させるかが重要な課題である。
そういう意味で、グーグルという巨大なプラットフォーマーが参加する価値は大きい。現状グーグルがどこにC2PAの来歴記録を導入するかは明確でないが、ブラウザーであるChrome上での可視化や、Androidスマホでの写真撮影への標準搭載(スマホで撮影された写真であることを明示できる)などが実現すれば、大きな変化につながるだろう。
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