10周年を迎えたModulo Xシリーズ。その第1弾は、いったいどのようなモデルだったのでしょう。それは、今でも色あせない魅力を放つ「心に響き、心に刺さる」1台でした。
◆10年を過ぎたからこそ聞きたいModulo Xのこだわり
Modulo Xシリーズとは、ホンダアクセスが開発を手掛けた、Honda純正のコンプリートカーブランド。Honda車を知り尽くしたホンダアクセスの熟練のエンジニアが、ベースとなる車両にさらなるこだわりと、時間と情熱をもってクルマを仕上げています。さらに開発アドバイザーとしてドリフトキングこと土屋圭市氏を招へい。ホンダアクセスの開発者とともに徹底的に走り込む開発体制は、デジタル時代とは逆行するアナログなクルマ造り。いわば“職人”の世界そのもの。
こうして仕上げられたModulo Xグレードには、あらゆる路面での操りやすさを信条としており、しなやかな足回りと、その性能を最大限に引き出す、デザイン性と実効空力性能を両立したエアロパーツが装着されています。
Modulo Xは、2013年1月に発売した「N BOX Modulo X」を皮切りに、N-ONE、STEP WGN、FREED、S660、VEZEL、FITの7モデルを展開してきました。その後もVEZEL e:HEVでの開発を進めてきたのですが、導体不足や不安定な海外情勢などの複合的要因による生産の遅延を理由に、2022年12月に発売中止を発表。以後、HondaからはSTEPWGN、CIVIC、ZR-V、N-BOXなどのモデルが登場していますが、いずれもModulo Xグレードは用意されずに現在に至ります。
さて、「Honda車を知り尽くしたホンダアクセスの熟練のエンジニア」とは、どのような人物なのでしょう。まずは代表的な3名をご紹介しましょう。1人目は玉村 誠さん。玉村さんは本田技術研究所で3代目「シビック」、通称“ワンダーシビック”のサスペンション開発を担当したほか、初代「NSX」の開発にあたっては、ドイツのニュルブルクリンクでその走りを鍛え上げた方です。その玉村さんが手掛けたサスペンションは「玉サス」と呼ばれ、多くの人々を魅了しました。
玉村さんはその後、1993年にホンダアクセスに異動。Moduloブランドを立ち上げるとともに、玉サスの乗り味が感じられるModuloアイテムを、数多く世に送り出しました。そんな玉村さんはNSXの誕生20周年を記念したカスタムパーツの開発を最後に、2011年にホンダアクセスを定年退職。後任に道を譲りました。
2人目は福田正剛さん。福田さんは、玉村さんと同じサスペンション畑で玉村さんの右腕として活躍された方で、いわばお弟子さん。玉村さんがホンダアクセスへ異動した後、引っ張ってこられたのだそうで、「最初、ホンダアクセスって何?」という認識だったとか。そして玉村さんが退職されたあと、モデューロの開発統括として、玉村さんが作り上げた芯の部分を大切にしながら、さらなる挑戦を行ないました。それがModulo Xというコンプリートカー。
「自分がホンダアクセスに来たとき、『同じホンダの従業員として入ってきて、やっぱりクルマ1台の開発をやりたかった』という話をよく聞いたんですよ。そのとき“できるでしょ。お客様に響くものを作ればね”って思ったんです。オートサロンとかでコンセプトカーを出しているので、ハリボテではなく走れるクルマにして、自分たちのコンセプトとお客さんのコレを作ってほしいというのが響けば、もしかしたら完成車として、工場で作れるかもしれないって」と、Modulo Xを立ち上げた動機を語ります。
工場のラインを動かすことは、とんでもなく大変なこと。それを福田さんはやってのけたのです。その第1弾がN BOX。選んだ理由は「売れているクルマだから(笑)」だったとのことですが、「小さい車両って簡単そうで難しいですからね。軽自動車で行けるところまで行くというのがいいんじゃないかなと思ったんです」という技術的課題に挑戦する意味合いもあったのでした。
その後、10年の間に7モデルを世に送り出した福田さんは、2023年をもって定年退職。後任として、Modulo X完成車性能担当であった湯沢峰司さんに道を譲りました。湯沢さんは玉村さん、福田さんと違って生粋のホンダアクセス社員。もともと制動領域がご専門なのですが、「開発中のN-BOXにちょっと乗せてもらったんです。セッティングをしているときで、そのときに“なんじゃこりゃ!”と思ったんですね。なんでこんな動きをするんですかって。それからドハマリして。それから福田さんとやらせてもらうようになりました。ですから自分から飛び込みました(笑)」と自らModulo Xの道へ。
以来「師匠の背中を見ながら、自ら考える」という形で、Moduloの芯を学んだそうです。これは福田さんも通った道だそうで、「Honda車を知り尽くしたホンダアクセスの熟練のエンジニア」たちは、まさに“職人”のような世界で、自らを鍛え、クルマを磨いていたのです。
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