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あのクルマに乗りたい! 話題のクルマ試乗レポ 第411回

マツダ「ロードスター」が商品改良! 一昨年のヒット貢献車「990S」の価値はどうなる?

2024年02月10日 12時00分更新

文● 鈴木ケンイチ 編集●ASCII

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ロードスター

 マツダの「ロードスター」が、大幅商品改良を実施しました。そこで気になるのが、現行型(ND型)「ロードスター」の特別仕様車「990S」の意味合いです。どれだけ新型は進化しているのでしょうか? もしかすると、すぐさま乗り換えが必要になってしまうのでしょうか? 「990S」オーナーでもある筆者は、正直、不安な気持ちが勝った状態で新型の試乗会に参加してきました。

◆電子プラットフォーム刷新や灯火類、駆動系などを強化

 今回の大幅改良の理由は、マツダの開発陣いわく「ハッキング対策」と「ソフトウェアアップデート」の規制に対応するためでした。そのため電子プラットフォームが一新されています。規制に合致するようにセキュリティは強化されており、今後、CPUチューンは、相当に難しくなっているようです。

ロードスター

今回の商品改良で追加された「SレザーパッケージVセレクション」(355万3000円)。ベージュのソフトトップに、スポーツタンのナッパレザーシートを装着

 また、エンジン制御がより緻密になり、サーキット専用のDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)が採用され、さらにマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(いわゆる高速道路の全車速追従機能:ACC)がオプションで設定されています。

 見えるところでは、マツダコネクトのディスプレイに8.8インチのセンターディスプレイを採用。灯火類はLED化され、デイタイムランニングライトも採用されています

ロードスター

商品改良で灯火類はLED化された。リヤコンビネーションランプは、円形+楕円のモチーフをより鮮明に表現されている。ホイールのデザインも変更されている

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LED化されたヘッドライト。デイタイムランニングランプが変更になっている

 走り系では、電動パワーステアリングをハード&ソフトともに刷新。新開発のアシンメトリックLSDが採用され、駆動系も強化されています。

◆試乗して感じた確かな進化

 改良された新型モデルを前にしてみれば、意外やその差はわずかなものでした。外観としては、ヘッドライトとホイールのデザイン程度。乗ってみると、メーターのデザインがシンプルになって見やすくなっていました。また、大きくなったディスプレイも一目瞭然の違いです。しかし、違うと言ってもその程度。本当にごくごく小さな変化です。

ロードスター

インテリアは新デザインのメーター採用とセンターディスプレイの8.8インチの拡大、センターコンソール部のカバー増加が行われている

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新デザインとなったメーター。メーター内部のデザインがスッキリとなっている

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センターディスプレイは8.8インチになり、バックモニターを表示することができる

 では、走ってみればどうでしょうか? 確かに違いはあります。まず、ステアリングの手応えが軽くなっていました。聞けば、電動パワーステアリングのギヤの場所を変更することで、フリクション(摩擦抵抗)を小さくしたとか。ソフトウェアの制御も独自に新開発したそうです。フィーリングとしては、抵抗が少なく、軽く、すっと動き出し、戻す方向も自然になっています。すっきりとしたフィーリングです。

 そしてエンジン制御は、改良によってアクセルをオフにしたときの反応が良くなっていました。また、新採用となったアシンメトリックLSDは、減速時の安定感を残しつつも、曲がり始めのひっかかりが少なく感じました。バキバキに効く多板クラッチ式の2WAYよりはマイルドだけれど、扱いやすくて安心感があります。この採用に合わせてドライブシャフトなどの駆動系は、2リッターエンジン車と同等に強化されているとも説明しました。

 ただし、これらの進化は、正直ほんのわずかなもの。劇的な進化というよりも、細かな部分までつきつめて磨き上げた! という印象です。歩幅は小さいながらも、でも確実に一歩進んでいるのがわかりました。

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運転席の右側に加わったサーキット走行に最適化されたダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)のスイッチ

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オプションでいわゆるACCとなるマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)が用意された。バンパー左側にレーダーを備える

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万が一の交通事故のときに自動で救急車を手配するエマージェンシー・コール・システムのボタン(赤い部分)も追加されている。ルームミラーはフレームレスになった

 それと、ACCであるマツダ・レーダー・クルーズ・コントロールは、オプション設定ですが、マツダいわく「予約では9割の人が選んでいる」そうです。やっぱりACCは、一度使ってしまうと欲しくなるんですね。その気持ち、わかります。

◆それでも「990S」が勝っている点はどこにある?

 ここまで見ると、新型の進化は明らかです。予約状況を知るマツダは、「NDロードスターは中古車相場が高いので、下取りに出して買い替える人も多い」そうです。確かに、乗り換えたくなる気持ちはよくわかります。

 とはいえ、「990S」を選んで愛車にした人間としては、新型を全面的に肯定できません。実のところ新型車にも弱点があります。それが“重くなっている”ということです。ベーシックは「S」グレードで車両重量は1010kg、「Sスペシャルパッケージ」で1020kg、「Sレザーパッケージ」が1030kg、「RS」が1040kg。なんと、「S」と「RS」で20kg、他で10kgも重くなっているのです。ディスプレイやら電装系、LSDを含む駆動系の強化の弊害と言えます。

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1.5L エンジンは、国内ハイオクガソリン用のリセッティングで最高出力が3kW向上。エンジン・サウンドを室内に引き込むインダクション・サウンド・エンハンサーも改良されている

ロードスター

ボディーカラーに新たに「エアログレーメタリック」を追加。鮮やかさと陰影感がバランスするクールなカラーだ

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新開発されたアシンメトリックLSD。カム機構を組み込むことで、減速時と加速時の異なる作動制限力を実現。イニシャルトルクを弱くすることで微小舵は曲がりやすくしつつ、減速時の効きを強めて安定感を増している

 これは重大な問題です。一般的には「たかが10kg、20kg」と思う人がほとんどでしょう。しかし、「990S」はその「たかが~」を削りに削ったグレードでした。「ロードスターの本質である軽さ」を最優先して、豪華装備や快適装備を削り落としているのです。マツダコネクト(ディスプレイ)もないし、サンバイザーも貧相、遮音材の使用も減らしていますし、LSDもリヤのスタビライザーもありません。それで990kg切りを達成しているからこそ、「990S」を名乗っているのです。装備類は質素ですけれど、そのかわりに「990S」は、軽さが生むヒラリヒラリとした乗り味、街乗りに絞った足回りによる、しなやかな乗り心地の良さを魅力とします。

 こうした「990S」の生き方と、新型は反対だったのです。装備を充実させて快適性を高め、新しいLSDで駆動系を強化しています。重量増を最小に収めたとも言えますが、それでも、残念ながら重くなっていました。雑味のないステアリング・フィールは悔しいけれど、それ以外は心に響きませんでした。

 アクセルの反応は、現状で満足しています。ディスプレイはもともとないから「大きくなった」と言われても関係ありません。ハッキング対策やアップデート対策も当然、ユーザー目線では現状問題ありません。ACCは確かに便利だけど、それで重くなっては本末転倒です。快適なクルマに乗りたいなら、ほかにもっと快適なクルマはたくさんあります。

ロードスター
ロードスター

 「990S」の乗り味は、新型にはないものでした。また、今後の「ロードスター」が車両重量1000kgを切るのは、非常に難しいでしょう。990kgを切っている「990S」の軽さは、今後の「ロードスター」にとって永遠に手の届かない価値になる可能性が大となりました。そういう意味で、「990S」は決して手放してはいけないモデルと言えます。つまり、新型に試乗したからこそ「990S」の大切さを改めて確認することができたというわけです。

 全国の「990S」オーナーの皆様は慌てて乗り換える必要はありません! ちなみに、現在の「ロードスター」の開発トップであるマツダの斎藤氏も「990S」のオーナーです。「990S」にはプライドを持って乗り続けましょう!

■関連サイト

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 

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