3600人以上が登録し、同時接続1800を超えたという話題のテックイベント「コスト削減天下一武道会」に参加してきた。すでにレポートはアップ済みだが、ともすれば後ろ向きなコスト削減を楽しく、生産的に、チームで行なっている事例に感銘を受けた。
2回目はないかもしれないのはネタが出尽くしたから?
イベントは本編となるDELTAとSODAのメインセッションに引き続き、9本ものコスト削減LTが行なわれた。コスト削減は根性だけじゃなく、計測だよというユーザーベース 安藤 裕紀さんのメッセージはエンジニアらしい目線を感じたし、NTTドコモの小澤 遼さんが披露してくれた数百台クラスのEC2のコスト削減は規模の大きさに驚いた。後半にはAWSのみならずGoogle Cloudの事例も飛び出し、コスト削減のテーマはAWSに限らないことも理解できた。イベントの動画やLTの資料も公開されているので、ぜひチェックしていただきたい。
コスト削減の手法もさまざまだ。Reserved InstancesやSaving Plansの導入、Gravitonインスタンスへの移行、NAT GatewayからVPC Endpointへの移行、CloudFrontでの効率的な圧縮、ファイルサイズの削減、ストレージクラスの変更、Auroraでの書き込み削減やディスク容量の解放などなど。確かに99%減もあった。「親の顔よりCost Explorer」「コストを削減して、給料を上げよう」といういいフレーズもいただいた。
こうしたスポットの施策のほか、アーキテクチャ変更など、システムに大きく手を入れた事例もあった。たとえばatama plusの事例は、HerokuからFargateへの移行、EC2からCircleCIへの移行などを行なった。アイリッジの事例ではデータ集計基盤で使っていたマネージドAiriflowであるCloud Composerを、Cloud Functionsベースのサーバレスに作り直した。大きな問題に目をそらさないまさに「Elephant in the Room」である。
ただ、重複している手法もあった。これは主催の西谷さんも指摘していたことなのだが、あとから登壇した人はその前の登壇内容とどうしても話がかぶってしまう。それくらいコスト削減の手法はある程度「型化」されているとも言えるし、こうしたイベントが今までなかったからとも言える。登壇者もネタがかぶるかどうかすらわからなかったわけだ。西谷さんが「一応、イベントタイトルには『第1回』って付けたけど、今回で出尽くしてしまった感があるので、2回目やるかはわからない」とコメントしていたが、確かに2回目は難しいかもしれない。
クラウドコストの削減はあくまで「きっかけ」かも
今回、感じたのはクラウドでのコスト削減は、エンジニアにとってクリエイティブであり、事業の売上に貢献できるテーマだということだ。オンプレミスの時代、システムのコストはエンジニアがチューニングできる領域ではなく、結局はベンダーから買うか、買わないかという二択のみだった。基本は営業や調達サイドの問題で、サーバーを購入したら、エンジニアはそれを減価償却期間いっぱいまで使い切ることしかできなかったわけだ。
しかし、従量課金をベースとするクラウドサービスは、エンジニアの創意工夫で安価に運用するという選択肢がある。システムを見える化し、無駄なリソースを省き、利用形態を見直すことで、コスト削減を実現できる。サービスを維持しつつ、コストが減れば、数字という面で事業に貢献することも可能になる。エンジニアたちが(ネタかぶりを心配しつつ)おおむね楽しそうに登壇していたのは、そういった達成感もあったからではないだろうか。
そしてもう一つ指摘したいのが、コスト削減きっかけで、パフォーマンスや技術的な負債、エンジニア組織のガバナンスなど、さまざまな課題に向き合う機会を得ているという点だ。イベントで特に刺さったのは、DELTA丹さんの「コスト削減はお祭り。全員で楽しく」だし、SODA林さんの「コスト削減の覚悟も重要だけど、そもそも開発組織の風通しのよさの方が重要」というコメントだったりするので、エンジニア組織としてはとても盛り上がれるテーマだなはず。技術的な理解も深まりそうだし、数字に表れるので達成感も得られそうだ。こう考えていくと、「ないかも」と言ってた2回目でも、けっこう楽しい話が聞けそうな気がする。
大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。
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