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3500人が登録した勉強会で披露されたコスト削減の「ケモノ道」とは?

AWSのコスト削減は全員で楽しくやろう DELTAが事例とノウハウを披露

2024年02月02日 16時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2024年2月1日、AWSのコスト削減にフォーカスした勉強会「第1回 AWSコスト削減天下一武道会」が東京汐留のタイミーオフィスで開催された。クラウドコストの削減代行を手がけるDELTA CTOの丹 哲郎さんが170社の実績を元に、コスト削減の「王道」と「ケモノ道」を解説。その上で、成功させるためのコツや大切にすべきことなどをわかりやすく説明した。

DELTA CTOの丹 哲郎さん

総削減額1億6000万強! 戦闘力高いDELTAから見たコスト削減

 AWSのコスト削減に振り切った今回の「AWSコスト削減天下一武道会」は、Singular Perturbationsの取締役CTOの西谷圭介氏が企画したイベント。個人の勉強会にも関わらず、イベント登録者数は結局3500人を突破したという(関連記事:AWSユーザーの今の関心はコスト削減 生成AIじゃない)。会場となった東京汐留のタイミーオフィスには、多くの参加者が詰めかけた。また、ボランティアの配信部隊により、ハイレベルなオンライン配信が実施され、最大1800もの同時視聴があったという。

 イベントは30分の本編×2本と登壇者のパネル、そして9本のLTで構成。Connpassの募集ページには登壇者の戦闘力として、コスト削減率が記載されており、猛者たちが自らのコスト削減事例を披露。冒頭、イベント主催者の西谷氏は、「コスト削減はホットなテーマだし、終わりがないテーマだとも思っている。登壇者たちのいろいろなアプローチを参考にしてもらいたい」と挨拶した。

イベント主催者の西谷圭介氏

 トップバッターはDELTA CTOの丹 哲郎さん。懐かしいWindowsロゴ(しかも 3.1)のTシャツに黒ジャケットを羽織った丹さんは、「100社のコスト診断から見えてきた、コスト削減の王道とケモノ道」というタイトルで、コスト削減のやり方と事例について説明した。

 DELTAはCTOとエンジニア組織を支援するプロフェッショナル集団で、リアーキテクト、コスト削減、エンジニア特化の採用支援などを行なっている。そして「CTO Booster」のサービス名でインフラコストの削減代行サービスを展開している。成果報酬なので「実質無料」であり、削減可能な金額を調べる診断は無料だ。「成果報酬のでできることはなんでもやる。成果で売上が出るので、めちゃ楽しい」(丹さん)という。

 2022年のローンチ以降、実績はメディア、マーケティング、ECなど170社を超え、削減幅はおおむね3割で、最大削減率は93%(!)を誇る。総削減額は年間1億6000万円以上とのこと戦闘力はかなり高い。そんなDELTAからすると、コスト削減は「お祭り」であり、「総力戦」だ。「コスト削減はお祭りムードで総力戦を」こそがツイートポイントであり、メッセージでもあると強くアピール。イントロを終えた丹さんは、さっそく王道とケモノ道の話に移る。

年間の削減額は1億6000万円以上

エンジニアでできる「王道」だけでいいのか? 全員参加の「ケモノ道」へ

 コスト削減の「王道」は、やはりAWSから提供されているAWS Well-Architected Framework&Toolの「コスト最適化」を愚直に実践することだという。まずは料金モデルの分析を実行。コミットメント割り引きを提供するRI(Reserved Instance)を利用したり、ワークロードの伸縮性を見極め、夜間や休日の縮退などを実施する。

 また、学習用のコンテナは北米で動かすなど、コストに基づいてリージョンを選択。費用対効果の高いサードパーティの契約を選択するのも1つの方法だ。コストの分析に関しては、AWSのCost ExplorerやCloudWatchの使用メトリクスを利用し、ボトルネックになっているサービスから負債を解消していく。「分析面に関しては、僕らも当たり前のことを当たり前にやっている」と丹さんは語る。

 ボトルネックは見えた。問題は「誰がやるか」だという。ここまではインフラエンジニアで実現できる範囲だが、丹さんは「でも、それだけでいいんだっけ? Auroraのサイズがボトルネックだったら、RI買って終わりですか? 全員でできることがもっとあるはず」(丹さん)と聴衆に問いかける。

「王道」のアプローチはインフラエンジニアでできる範囲

 さらに丹さんは「早く、全員でコスト削減に取りかかろう」と訴える。理由は簡単で、早い段階で手を付けて月額コストが安くなれば、利益が直接的に増えるからだ。原価率30%で換算すれば、月額100万円削減できれば、年間で3600万円の売上を創出したのと同じ。しかも、早く成果が出れば、事業インパクトはより大きくなるし、サービスの拡大を前提とすると、さらに効果は時間積分されるという。さらにサービス全体の売上に直結するから、エンジニアだけではなく、全員を巻き込め、さらに効果がでかくなるから、いち早くやれというのが丹さんの主張だ。ここから「王道」ではなく、「ケモノ道」がスタートする。

早く始めればインパクトは大きくなり、サービスの拡大を見越して効果は時間累積される

全員ワイワイの「モブコスト分析」で大事な3つのこと

 では、どうやったら全員を巻き込めるか? 170社の実績を見ている丹さんは「CTOやVPoEなど高いレベルの技術責任者がリードしている場合は、うまくいくケースが多い」とコメント。経営陣としての率先してプロジェクトをリードすることが重要だとアピールした。また、そのときはコストの「最適化」ではなく、「削減」というハットで物事を見ること必要があるという。

 全員参加したら、あとは「楽しく」が重要だ。支払額やサービス利用状況を見ながら、ワイワイと話せばよい。「DB小さくできないか?」「転送量多過ぎでは?」「NATを通っているトラフィックなんだ?」「アーキを変更すれば、イメージプルが減るのでは?」などなど、いろいろな意見が出るはず。DELTAでは、これを「モブコスト分析」と呼んでおり、初動でまずは集合知を結集するという。「お客さまからの診断依頼が来たら、全員でまずこれをやる。レポート出して、お客さまの反応待って手を付けるのだと遅い。楽しいし、みなさんの組織でもできるはず」と丹さんは語る。

初動で集合知を結集する「モブコスト分析」

 モブコスト分析で大事なことの1つ目は、こうすればいいんじゃね?を「全員で」考えることだ。「たとえば通信コストを落としたいという話だと、気がつくのは意外とフロントエンドエンジニアかもしれない。逆にCSの人が、ここってこういうコンテンツやトラフィック多いよねという知恵をくれるかもしれない」と丹さんは語る。知恵を持ち寄って、それぞれのドメインで考え得ることを持ち寄るのが大事だという。

 続いてモブコスト分析で大事なのことの2つ目は「ドメインとアーキテクチャを繋げてみる」こと。「事業ドメインということもあるし、それぞれ目から見る職域という意味でのドメインもある。それをアーキテクチャやコスト削減の観点で見ると、こうなるよねというところまで結びつけることが重要」と丹さんは指摘する。

 大事なことの3つ目は大きな問題を避けないこと。これを丹さんは「Elephant in the roomとおそれずに向き合う」と表現する。「でっかいAuroraのインスタンスどうするの?という話はみんな避けがち。でかすぎると動かせないと思いがちだが、上位5パーセントのクエリをなんとかするだけで大きなコスト削減につながる。でかい問題から逃げずにやりきったところは、(コスト削減が)うまくいっていることが多い」と丹さんは語る。

「Elephant in the roomとおそれずに向き合う」

王道からケモノ道まで進んだ3つのコスト削減事例

 丹さんは複数のコスト削減実例を挙げる。1つ目はハイブランドアイテムの中古販売・買い取りを手がけるRECLO(リクロ)。DELTAのCTO Boosterで年間420万円のサーバーコスト削減を実現したRECLOは、バックアップ戦略の見直しという「王道」のほか、アセットをアップロードする際のアルゴリズム改善を変更するという施策も行なった。今まで重複してアップロードしていた処理を1回にすることで転送料を減らしたというパターンだ。

 実はこれは前述した「ドメインとアーキテクチャを繋げてみる」につながる実例だという。中古販売・買い取りを行なうRECLOの場合は、同じ用品でも異なる状態のアイテムが複数回アップロードされてしまう。こうした特性は、まさに事業部というエンジニアとは異なるドメインからの指摘を、アーキテクチャにひも付けなければ実現は難しかったという。

 2つ目の事例はカートシステム「ecforce」を運営しているSUPER STUDIOの事例。SUPER STUDIOでは、今まで1ショップ=1インスタンスというシングルテナント構成だったので、こちらを1つのインスタンスに複数のショップを収用するマルチテナント構成に切り替えた。両者の移行期間はフラグの付いた場合のみ、DBの設定を読み込んだマルチテナントモードで動作するように実装したという。

シングルテナント構成でコストがかかっていた

 もちろん切り替えにはコードレベルでのシステムの刷新が必要になるため作業の手間はかかった。「お客さまのCTOといっしょに半年くらいかけてやった」(丹さん)とのことだが、EC2インスタンスというまさに「Elephant in the room」のようなサービスの本丸に手を入れたことが大きかった。1つのショップあたり、80%のコスト削減という、大きなインパクトがあったという。

 3つ目の事例は女性向けの漫画アプリの「Palcy」でコスト最適化を実現したピクシブだ。ここでやったのはデータ通信量の削減。利用しない返り値のデータを削減することで、元々1MBを超えていたレスポンスを400KB程度に落としたという。iOSとAndroidのアプリでそれぞれフィールドを切り捨て、一部デザインの修正も行ない、バックエンドに渡すようにした。

削減幅を見るとととのうし、気持ちいいし、報われる

 まとめに入った丹さんは、改めてサービスの収支に関わるコスト削減はいち早くとりかかる必要があると指摘。その上で、どうせやるなら楽しくやるべきだし、「全員で」「ドメインとアーキテクチャをつなぎ」「Elephant in the roomに向き合う」という3つが重要だと説明した。

 最後に強調したのは、やはり楽しくという点だ。丹さんは「僕らも成果報酬という形で、お客さまでかかっているコストを減らして、お給料をいただいている立場ですが、毎日楽しくてしようがない。なぜ楽しいかというと、『こうできるのでは?』『もっと安くならね?』 みたいな話を全員でやって、お客さまともチームになって、総力戦でお祭りでなしとげてられるから」と語る。

改めて「コスト削減はお祭りムードで総力戦を」アピール

 そして実際に成果に結びつくと大きな充足感を得られるという。「300万くらいだったグラフが、60万とか、40万とかになると気持ちいいですよね。Cost Explorerで削減幅見て、『いや、ととのうわー』みたいな感じで(笑)、気持ちいい。楽しいし、報われる」とコスト削減の効能について語る。「みなさんの組織でも、モブコスト分析やコスト削減祭りをやってみると盛り上がると思います」とコスト削減イベントのチャレンジをオススメし、セッションを終えた。

 成果報酬で顧客のコスト削減を請け負うというある意味シビアなビジネスなのにも関わらず、全員参加で楽しくやってしまおうという向き合い方がとても新鮮。説得力のある数字と事例、実践に役立つノウハウ、なにより刺さるパワーワード、丹さんの軽妙洒脱な語り口も含めて、満足度の高いセッションだった。

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