クラスターの起動時間も60%短縮、堅牢性も向上
レッドハット、AWS上のマネージドOpenShiftで新提供モデル ― 最大35%のコスト削減
2024年01月31日 08時00分更新
レッドハットは、2024年1月29日、AWS上のマネージドOpenShiftである「Red Hat OpenShift Service on AWS (ROSA)」において、AWSのインフラコストを削減できる「Hosted Control Plane(ホスト型コントロールプレーン、HCP)」対応の提供モデルを、同日より東京リージョンで一般提供を開始することを発表した。
レッドハットのクラウドソリューションアーキテクト部 ソリューションアーキテクトである北村慎太郎氏は「HCPの仕組みにより、中央集権的なOpenShiftのクラスター上にコントロールプレーンをポッドとしてデプロイできるようになる。これにより、OpenShiftクラスター全体で必要なリソースを削減しつつ、クラスターの堅牢性を高められる」と説明する。
AWS上のフルマネージドOpenShiftサービス「Red Hat OpenShift Service on AWS (ROSA)」
レッドハットは、現在、“Open Hybrid Cloud(オープンハイブリッドクラウド)”という戦略を提唱している。あらゆるアプリケーションやワークロードを、オンプレミスからプライベート/パブリッククラウド、エッジまでのあらゆる環境で、一貫して実行、あるいは迅速に展開・運用できるようにするアプローチだ。
このアプローチにおいてコアとなるのが、Linux OSの主要ディストリビューションとなる「RedHat Enterprise Linux」およびコンテナプラットフォームである「Red Hat OpenShift」となる。
OpenShiftは、エンタープライズに対応したKubernetesのディストリビューションであり、Kubernetes単体では不足しがちな、開発者向けの機能やセキュリティ、サポートなどを付与している。あらゆる環境において一貫した開発・運用体験を提供する、柔軟かつ迅速にサービスを展開するためのプラットフォームとして、レッドハットが注力するソリューションだ。
そしてレッドハットとAWSが運用管理を担うOpenShiftのAWS上のフルマネージドサービスが、Red Hat OpenShift Service on AWS (ROSA)である。パブリッククラウドにおいて提供されるさまざまなマネージドサービスと同様に、ユーザーの運用の複雑さを軽減して、アプリケーションの開発や運用に集中できるよう支援する。
ROSAのアーキテクチャーは、Control Plane(コントロールプレーン)とCompute Node(コンピュートノード)に加えて、OpenShiftの開発や運用を支援する機能をホストするための独自のノードであるInfrastructure Node(インフラストラクチャーノード)を具備しており、これらの3つのノードからROSAのクラスターは構成される。
従来のROSAの環境(ROSA Classic)では、この3つのノードを、ユーザーのAWSアカウント上にデプロイしていたが、コントロールプレーンやコンピュートノードは、あくまでOpenShiftを構成する管理用のノードであり、PrivateLinkを経由して、レッドハットが運用している。
今回新たに東京リージョンでGAとなったのは、Hosted Control Plane(ホスト型コントロールプレーン、HCP)というアーキテクチャーをROSAに適用したROSA with HCPだ。
このHCPは、複数のOpenShiftクラスターのコントロールプレーンをコンテナ化して集約する技術。従来は、個々のクラスターでコントロールプレーン用のノードを準備する必要があったが、マネージメントクラスターと呼ばれる中央集権的な場所に、複数のコントロールプレーンをポッドとしてデプロイできるようになる。
このマネージメントクラスターは、レッドハットが管理するAWSアカウント上に構築される。ユーザー側のAWSアカウントでは、純粋なワークロード搭載用のコンピュートノードのみを管理することになり、さまざまな恩恵を得られるようになる。
ROSA with HCPによる4つのメリット
北村氏は、ROSA with HCPのメリットを4つ挙げた。ひとつ目は、AWSのインフラコストの削減だ。
ROSA Classicでは、コントロールプレーン3台、コンピュートノード2台、インフラストラクチャーノード2台が、最小構成となる。
ROSA with HCPの場合、コントロールプレーンとインフラストラクチャーノードが、レッドハットが管理するAWSアカウント上のOpenShiftクラスターに移行するため、これらをEC2インスタンスにホストする必要がなくなる。
マネージドサービスな分、ROSA Classicと比べて全体のクラスターの利用料金は上がるものの、EC2インスタンスの費用削減の効果は大きく、年間で8000から1万ドルほどのコスト削減が見込めるという。一番削減効果の高い最小構成では、ROSA Classicと比べて約35%のコスト削減となる。
2つ目は、ROSAのクラスター起動時間の短縮だ。ROSA Classicでは、クラスターを構築するにあたって、コントロールプレーンをEC2インスタンスから順々に構築する必要があった。クラスターごとにOSレイヤーのインストールや設定が発生し、どうしても時間がかかってしまうという。
ROSA with HCPでは、既にあるマネージメントクラスターのOpenShift上にポッドをデプロイする形でコントロールプレーンの作成が完了するため、起動時間は短縮。1クラスターあたり約40分かかっていた起動時間が、約15分となり、60%ほど短縮されるという。
「開発者に即座に環境を払い出したり、運用フェーズでトラブルが発生してすぐに環境を再構築しなければいけないといったシーンでも、早期にクラスターの構築ができる。イノベーションの加速にも繫がり、SLAの担保、信頼性の向上にも寄与する」(北村氏)。
3つ目は、作業ミスの防止だ。ROSA Classicでは、ユーザーのAWSアカウント上に、コントロールプレーンやインフラストラクチャーノードがある関係上、ユーザーがその存在を確認できる。そのため、コントロールプレーンのノードやポッド、インフラストラクチャーノードに載っているコンテナ群の情報などが取得・削除できてしまう。
ROSA with HCPでは、完全に分離されたマネージメントクラスターにこれらがあるため、中身を確認できないような構造となる。「セキュアで、作業ミスによる信頼性の低下を防げるため、本番環境に適している」と北村氏。
最後のメリットは、ノードの種別に応じてアップグレードを個別にスケジュール可能なことだ。ROSA Classicでは、コントロールプレーンとコンピュートノードは、同じスケジュール、ひとつのプロセスでバージョンアップされるため、大きなメンテナンスウィンドウを確保する必要があった。
ROSA with HCPでは、コントロールプレーンとコンピュートノードを個別のスケジュールでバージョンアップでき、柔軟なスケジュール設定が可能。短いメンテナンスウィンドウの中でバージョンアップが進められる。
ROSA with HCPの無償のトライアル環境も展開
これらのメリットを得られるROSA with HCPは、2024年1月29日より東京リージョンで一般提供を開始。現在は、ROSAのクラスターを構築しようとするとClassicかHCPかを選べるようになっているが、将来的にはHCPが推奨される形になるのではないかと、北村氏。
また、レッドハットでは、「ROSA Hands-on Experience」という無償のトライアル環境も用意しており、デモプラットフォームを通して、8時間無償で、ROSA with HCPのクラスターにアクセスできる。Red Hat アカウントが必要で、アカウントごとに月3回まで利用可能だ。
アクセスすると、チュートリアルのモジュールを通して、操作方法やROSA上でのアプリケーションのビルドとデプロイ、オペレーションタスクなどを体験できる他、チュートリアルの概要や開始手順をまとめた日本語ガイドも公開する。
このROSA Hands-on Experienceは、北米での予想以上の反響を受け一時利用停止中であり、2月中には利用可能になる予定だ。