中立国に拠点を移すべく組織の体制を整える
下の画像は2020年11月におけるRISC-Vインターナショナルの技術検討グループの組織図であるが、取締役会の下にTSC(Technical Steering Committee)と呼ばれる技術検討を統括する組織(技術常任委員会)があり、この下にHorizontals/Software/Unprivileged/Privilegedという4つのSC(Standing Committee:常任委員会)が設けられ、さらにVerticals SC(垂直統合型常任委員会)が検討中である。
この5つのSCの下に、さらに細かく分科会(Subcommittee)が設けられ、そこからさらにTG(Task Group)やSIG(Special Interest Group)が設けられ、それぞれのテーマについて検討するといった具合に、だいぶ組織的になった。
実のところ、ベアメタル(OSもなにも載せずに、直接アプリケーションをCPU上で動かすやり方)なMCU向けであればこんなにたくさんの分科会は必要ないのだろうが、アプリケーションプロセッサーやサーバー、あるいは昨今だと強く求められるセキュアなコントローラーを構築しようとした場合、検討しなければならない事柄は非常に多い。
x86の場合ではインテルなりAMDがソフトウェアパートナーと協力して標準化を行っていた。かつてはマイクロソフトがその代表例だったが、最近はそれ以外のケースも増えている。ArmならもちろんArmが主導を取ってさまざまな標準化をしていたが、RISC-Vではこうした役割をRISC-Vインターナショナルが担うことを期待されており、法人格の移動に合わせてそうした体制をきちんと整えた、というのが正確なところだろう。
米企業のRISC-Vへの取り組みを制限する動きを受け
RISC-Vインターナショナルがスイスに移転
スイスへの移転を決めた際に懸念されていた事態は、2023年10月に実際に発生した。ロイターの記事の日本語版は翻訳が変なのでオリジナルを読んでもらった方が確実かと思うが、米の超党派議員らがバイデン政権に対し、米企業のRISC-Vへの取り組みを制限するように要求。これが受け入れられないなら法案を提出するとしている。
要するに「アメリカの技術」で開発されたRISC-Vを中国が自国の軍事用途に使うことをなんとしても阻止したい、という意図である。客観的に見れば荒唐無稽な意味のない言い分であって、命令セットと実装の違いをおそらく理解していないか、していて無視しているかのどちらかであろう。
とはいえ、RISC-V側にも若干突っ込まれるポイントがあるのも事実だ。これは公開されている話だが、RISC-V Historyのページにもはっきり、RISC-Vが当初DARPA(米国防高等研究計画局)の資金援助を受けていたことが明記されている。
連載743回でも書いたようにDoE(米エネルギー省)やDARPA、C-FAR(未来アーキテクチャー研究所)、LBNL(ローレンス・バークレー国立研究所)など軍関係からもいろいろな形で資金援助を得ていた。
もちろんこれはアメリカの大学ではごく一般的な話で、これらの資金援助の契約にはその結果として生み出されたRISC-V ISAをオープンにしてはならない、という制限は一切ついていなかったので、別にAsanović教授としてもRISC-Vインターナショナル(RISC-V財団)としてもやましい部分は1つもない。
しかし、政治家が「軍の資金を得て開発したRISC-Vを中国が使うのはけしからん」(確かに嘘は言っていない:正確でないのは政治家の常である)と声高に叫び、それに同調する人が増えたら、これに対抗するのは難しい。
対抗策は2つあり、1つはロビー活動に大金を投じて、そうした声を抑え込むことだ。もう1つが米国の管理外に逃げ出すことで、RISC-Vインターナショナルはその2番目の策を取った格好である。「2018年頃の見立ては正しかった」と喜ぶか、「やっぱりそうなったか」と落胆するか。RISC-Vインターナショナルのメンバーの大半がそう思っただっただろう、と想像される。
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