エヌアセットが街づくりの一環として取り組むシェアオフィス「nokutica」
“怪しい空き家”を人が集う街のランドマークにリノベ、川崎市・溝の口から始める挑戦
2024年01月10日 10時00分更新
「nokutica(ノクチカ)の理想は“街のランドマーク”です。溝の口という街に人を集めるような施設にしたい、という思いからスタートしました」「住みたい、住み続けたいと思っていただける街づくりを実現し、そのビジネスモデルを全国の地方都市にも展開していきたいと考えています」(エヌアセット 山下直毅さん)
東京都心へのアクセスが良いベッドタウンとして知られる神奈川県川崎市高津区。その商業中心地である溝の口駅から歩いて数分の場所に、2017年にオープンしたシェアオフィス施設「nokutica」がある。築95年を経た洋館をリノベーションし、コワーキングスペース、レンタルオフィス、レンタルスペース、コーヒースタンドを収容する小さな建物だ。
元々は診療所兼住宅として、また学習塾や下宿としても使われていた建物に入ると、多くの街の人が出入りしてきた歴史からか、一般的なオフィスビルにはない暖かみや居心地の良さが感じられる。一方で、休日や早朝/夜間を含めた柔軟な施設利用を可能にするために、出入り口の施錠管理には最新のスマートロック「Akerun(アケルン)」が採用されている。
今回はnokuticaを立ち上げた狙いからAkerunの採用理由まで、nokuticaの運営に携わる不動産会社、エヌアセット(N-ASSET)の山下直毅さんに詳しく話をうかがった。
不動産事業以外の取り組みも実践して「街の価値を高める」
エヌアセットは賃貸不動産の管理/仲介を手がける会社だ。2008年に設立され、現在はグループ会社を通じて東京都心やベトナムにも事業エリアを広げているが、その母体をたどると1966年に溝の口で創業した不動産会社にたどり着く。現在も地元密着型の不動産事業を展開しており、高津区内での仲介件数はナンバーワンだという(2022年度実績)。
エヌアセットでは、不動産事業を通じて顧客を一生涯サポートする「生涯顧客サービス」をミッションに掲げており、それを実現するための戦略として「街の価値を高める」取り組みを推進してきた。その取り組みは不動産事業に限ったものではないと、山下さんは説明する。
「溝の口に住みたい人、住み続けたい人が増えれば、われわれの本業である不動産事業がさらに伸ばせると考えてこの戦略をとっています。そのために“街に足りないピース”をどんどん埋めていき、街の魅力を高めていく取り組みを進めています」
ひとくちに「街の魅力」と言ってもさまざまだ。溝の口駅がある東急田園都市線の沿線には、二子玉川、たまプラーザといった、いわゆる“おしゃれな街”がすでにある。山下さんは、地元の人々のパワーが強い溝の口の場合は、おしゃれさよりも「人が集いやすい場所がある」「子どもが育てやすい」「老後になっても住みやすい」といった魅力を底上げしていくことが重要だと考えているという。
そうした目的で、エヌアセットではこれまで企業主導型保育園「こころワクワク保育園」を運営したり、地域で採れた野菜を販売する野菜市や街の清掃活動を定期的に開催したり、小学生向けのキャリア教育プログラムを提供したりしてきた。いずれも不動産事業と直接結びつくものではなく、利益もほとんど出ないというが、溝の口に「住みたい人、住み続けたい人」を増やすための取り組みだ。