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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第18回

『貧困女子の世界』(中村淳彦 編著、宝島SUGOI文庫)を読む

一流大の女子大生がデリへルで働くしかない日本の異常さ

2023年12月28日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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これが“どこにでもある女子大生の日常”になっている異常さ

 たとえばここでは、東京六大学文系学部の3年生の証言が紹介されている。2020年3月、著者がある衆議院議員に“大学生の貧困”の現状報告をするため永田町の議員会館を訪ねた際、そこに同行した女子大生だ。

「ピンサロで働き始めたのは大学2年の夏休みからです。どう考えても大学生を続けるためには、もうそれしかないって判断でした。〇〇駅近くのピンサロで30分8000円の店、時給2000円。基本時給に指名料や歩合給がつきます。コロナ前だったら1日2万円くらいは稼げて、今はその4割くらい。仕事内容はお客1人につき30分で15分しゃべって15分でプレイとか。(後略)」

 多摩地区にあるマンションは家賃6万5000円。光熱費2万円、携帯代8000円、食費4万円と、固定費だけで13万円弱。さらにサークル、交遊、洋服、書籍、交通費などを含めると月の生活費は20万円近くに。月12万円の第二種奨学金をフルで借りており、学費を引いた残りを生活費にあてているという。

 過去にもさまざまな時給で仕事をしてきたが、授業とサークル以外のすべての時間を効率よく使って働いたとしても、せいぜい月8万円程度。どう考えてもお金が足りないため「水商売しかない」と面接に出向き、誘導されるままピンサロ嬢になった。

「夜をすれば生きていけるんじゃないかって。大学1年、2年の前期は支払いに追われて、本当にギリギリでした。生活費を削って、食費も限界まで削って、家賃とか光熱費の支払いにあてた。ご飯も上野公園のハトのほうがいいものを食べている、みたいな。学費は奨学金で払っていて、親からの給付はほとんどないです。ゼロに近くて、そういう子は同級生にもたくさんいます。みんな経済的に追い詰められています」(67ページより)

 著者によれば、彼女が話しているのは“どこにでもある女子大生の日常”なのだそうだ。著者と同年齢の女性秘書は話を聞きながら泣いてしまったというが、たしかに涙を誘うほどショッキングな話ではある。

 いずれにしても、こういったことが日常化していることこそがこの国の異常性なのではないだろうか?

 
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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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