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理論、発信、そして行動 今年もビルダーに強いメッセージ

倹約的なアーキテクトとは? AmazonボーガスCTOが今一番気になるコストとAIを語る

2023年12月07日 09時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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40年前に携わっていた放射線科医でAIを実践するボーガス氏

 コンピューターサイエンスを学ぶ前、ボーガス氏は放射線科医だった。国の癌研究病院に勤めていた頃の40年前の写真には、恩師フランク・ボーガン氏も映っている。「彼は放射線科医でもっとも情熱を持った医療従事者だと思う。フランクは夜、家に帰らなかった。ずっと画像を見ていた。翌日の作業が山積みになることがわかっていたからだ」とボーガス氏は振りかえる。

放射線科医だったボーガス氏(右)、恩師のフランク・ボーガン氏(左)

 コンピューターサイエンスの道へ行くように諭したのはボーガン氏だ。「彼は『早くこの業界から離れろ』と言っていました。実際、私はテクノロジーが好きだったし、テクノロジーで人を助ける方に回った方がいいことを、彼はわかっていたんです」(ボーガス氏)。その後、ボーガス氏は大学に戻り、コンピューターサイエンスを学び、エンジニアとしての道に進む。「今、私がここにいるのは、彼のおかげ」と振り返る。

 そんなボーガス氏が考えたのは、「機械学習で彼らの役に立つことはできないか?」ということ。普段から「機械学習を始めるのは簡単」とユーザーにアピールしていた立場でもあり、自らも作ってみたくなったわけだ。

 ボーガス氏は病院に出向き、40年前に自ら関わっていた放射線科医で、蓄積されたデータと機械学習でなにができるかを探り始める。「自らソリューションを作ったらどうなるか、実験できるような小さい問題を洗いだした」とボーガス氏は語る。

自ら病院を訪れ、ヒアリング。機械学習で何ができるかを探る

 ボーガス氏は、大学で勉強し、病院でヒアリングし、理論だけではなく、実務についても学んだ。「ダブリンの病院の臨床医が話していたのは、脳卒中をわずらったときは、とにかく毎秒が大切だということです。治療されていない患者は、1分あたり190ものニューロンを失うのだと」(ボーガス氏)。そこでボーガス氏は医療画像から通常のMRIでも見つからないような小さな血栓の検知に挑むことにした。

 「Good Data,Good AI」を掲げたボーガス氏は、まず脳画像のデータセットをAmazon S3に収集し、トレーニング用、検証用、テスト用に分離する。続いてSageMakerを起動し、Pythonで書かれたモデルをロード。アーキテクチャをセットし、実際のデータセットで試して、モデルを生成する。ロススコアを抑え、誤差を除去するために、数多くの画像で順伝搬と逆伝搬を繰り返し、最終的にはAPIを得ることになる。このAPIはいわば血栓があるかどうかを調べられるAPIだ。

 「朝3時でも擬陽性で電話がかかってきた方がいい。なぜなら一分一秒を争うからと医師から言われた」(ボーガス氏)と、検知したらショートメッセージが飛ぶようにした。あくまで予測システムではなく検知システムであり、機械学習のモデル作成はそれほど難しくなかったとボーガス氏は語る。

ボーガス氏自らがサービス構築を実践

 同氏の試行錯誤の成果物は、AWSの専門家たちがボーガス氏のコードやシステムに手を入れ、結果「Explainable Intracranial Hemorrhage Detection for Radiologist Workflow Prioritization」としてサービス化された。「いかに簡単に機械学習が使えるか、ぜひ試してみてほしい。私ができることは、みなさんもできるはず」とボーガス氏は語る。そして、大事なことは「小さく、スピーディに、そして安くできること」だ。倹約的なアーキテクトとしては、機械学習をスモールスタートできる要素は重要なわけだ。

ビルダーにとって今より楽しい時代はない

 最後、ボーガス氏は生成AIの開発に役立つサービスを次々と紹介する。

 同日から一般利用が開始された「Amazon SageMaker Studio Code Editor」はVisual Studio CodeのOSS版であるCode-OSSをベースにしたエディター。VS Codeの豊富な機能拡張やショートカットをそのまま利用できる。AWS toolkit for VS Codeがあらかじめ設定されており、Code Whispererによるコード支援、Amazon CodeGuruによるセキュリティスキャンが利用できる。

VS Codeを利用できる「Amazon SageMaker Studio Code Editor」

 また、「AWS Application Composer in VS Code」は、ビジュアルキャンパスを持つAWS Application ComporserをVS Codeから利用可能にする。GUIによって、アプリケーションのロジックとインフラの継続的な改善が迅速に行なえる。また、1000以上のCloudFormationリソースを利用でき、生成AIによるリコメンデーションも受けられる。登壇後に表示されたスライドでは「Amazon Inspector CI/CD Contaioner Scaninng」も紹介された。コンテナイメージのセキュリティアセスメントを実施し、CI/CDのパイプラインの中で、セキュリティ対策を実装できる。

 先だって発表された生成AIアシスタント「Amazon Q」は開発も支援してくれるという。「それぞれの開発パイプラインでAmazon Qが使えるようになる。Application Composerでも利用でき、VS Codeにも入っているので、YAMLファイルの変換もお願いできる。質疑応答は大きなパラダイムシフト。私たちはもっと楽しく仕事ができる」とボーガス氏はアピールする。

ビルダーにとって、いまより楽しい時代はない

 ボーガス氏は、「よい倹約的アーキテクトになるためには、コストだけではなく、サステイナビリティも重視する必要がある。私がLLMのモデルを作れるなら、みなさんもできる。ビルダーにとって、いまより楽しい時代はないと思う」とまとめ、数時間後のパーティ「re:Play」と「Go Build!」をアピールして、講演を締めた。

 世界的な物価高による、多くのユーザーが直面しているコストというテーマを真正面から捉えたボーガス氏のセッション。生成AIの全面展開だった今回のre:Inventでは異色のテーマだったが、時折大きな拍手がもたらされ、聴衆に深く刺さったのは間違いない。AIについても、自らの実践を血肉としていく過程がとてもリアルで、説得力を持っていた。「NOW GO BUILD」が映し出されたされた会場は、セッションに居合わせたビルダーたちの多幸感が充満していたように思える。

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