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倹約的なアーキテクトとは? AmazonボーガスCTOが今一番気になるコストとAIを語る

2023年12月07日 09時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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コストをビジネスにフィットさせるには? Lambdaの進化を例に

 続いてボーガス氏は、「コストをビジネスに合わせよ(Systems that Last Align Cost to Business)」とテーマを掲げる。「ビジネスのことを考えてほしい。テクノロジーはテクノロジーのために作っているわけではない。事業のためにテクノロジーを作っているのだ」とボーガス氏。つねにコストを売上と結びつけ、継続的に事業部と話し合いを持ち、利益を得られるようにする。特にスタートアップの場合は、規模の経済に従い、成長にあわせてきちんと利益を出していくことが重要だという。

 サービス料金とコストという点で引き合いに出されたのが、通信サービスのコストだ。通信サービスでは、以前は利用した容量だけ段階的に上がるという課金体系をとっていたが、最近は容量無制限というプランを提供するところも多い。しかし、サービス事業者から見ると、いくら容量無制限を謳っても、ギガバイトあたりのコストで必ず赤字になってしまう分岐点が必ず存在する。また、ユーザー側も使っていないのに料金を支払っているということもありうるので注意が必要だ。

通信サービスの段階的プランと容量無制限プランのコスト構造

 サービスの継続的な成長を実現するための「フライホイール」の概念でも、コスト削減は重要だ。コストを抑える構造になっていれば、サービスの料金を下げ、顧客体験を上げることができる。「フライホイールが加速的に回っていかなければならない。それを活用して、スケール性を上げなければならない。これを実現するためには、テクノロジーの意思決定と事業部と調和がとれてなければいけない」とボーガス氏は指摘する。

 サービスにフィットしたアーキテクチャの具体例としてトピックに挙げたのはAWS Lambdaだ。2014年、登場したLambdaだが、サーバーレスサービスの先駆けだったこともあり、コスト要素は手探りだったという。最初はミリ秒単位で使ったCPUとメモリに対するチャージだったが、顧客も理解が大変だった。AWS側も料金の妥当性を示すため、利用状況のインサイトとコスト、そしてセキュリティのバランスを見て、テクノロジーの意思決定を行なったという。「お客さまからの使い方のフィードバックをいただき、コストと料金モデルとをマッチさせることができた」とボーガス氏は語る。

 次にサービスとテクノロジーのフィット。Lambdaを実現するため、当初は物理ホストを用いていたが、ワークロードを孤立化させる必要があったため、仮想化を導入した。ただ、仮想化されたLambda用のコンピュートプールは、サイズが大きすぎ、リソースが余剰になっていた。そこで生まれたのがマイクロVMである「Firecracker」だ。Firecrackerでベアメタルインスタンス上に構築したLambda用のコンピュートプールはフットプリントも軽量で、コンピュートとメモリを効率的に稼働させることができる。もちろんマルチテナントで孤立化を実現することができた。

マイクロVM「Firecraker」の導入でLambdaの効率的な運用を実現した

 ボーガス氏は「進化できる(Evorable)アーキテクチャを構築せよ」と提言する。たとえとして挙げたのは再びS3のエンジニアが語っていたという話を取り上げる。「S3は当初シングルエンジンのセスナから始まり、小さなジェット機に進化し、複数のジェット機になった。その後、380のフリートで空中で燃料を補充できるまでになった。これが進化できるアーキテクチャのパワーだ」とボーガス氏は語る。ユーザーの使い方を計測し、コストを意識しつつ、サービスを継続的に進化させていくのがAmazon流と言える。

システムを安定させれば、コストは予測できる Nubankの挑戦

 次は「アーキテクトはトレードオフの連続である(Architecting is a Series of Trade-offs)」というテーマだ。「アーキテクトするということが、つねに何らかのトレードオフが発生するということ。非機能要件と機能的要件とのトレードオフで、コスト、耐久性、セキュリティなどすべてが引っ張り合う」と語るボーガス氏は、Nubankのエンジニアリング シニアディレクターであるキャット・スウェテル氏をゲストに迎える。

Nubank エンジニアリング シニアディレクター キャット・スウェテル氏

 Nubankはブラジルの第4位の金融機関で、約9000万人の顧客基盤を抱える。「当時の銀行はレガシーシステムを抱えていたが、Nubankはテクノロジーを用いて、業界を破壊的に変革し、銀行を使わなかった人にも使ってもらえるようになった」とスウェテル氏は語る。その立役者の1つがAWS。年会費無料のクレジットカードから始め、銀行口座、保険、投資、ケータイ、マーケットプレイスなどのサービスを展開。AWSで構築された40ものシステムと、1000を超えるマイクロサービスで、これらのサービスを実現した。AWSを用いることでプロジェクトが効率的になり、10年間で急速な成長を遂げることができた。

 続くチャレンジは送金システムの開発だ。ブラジルでは従来完了まで1日、5ドルもかかっていた送金システムを、2020年に新プロトコルPIXで刷新した。ブラジル中央銀行が管理するPIXを使えば、24時間365日、瞬時に送金可能になる。Nubankは5ヶ月の期間を費やし、このPIX対応の送金システムを構築した。サービスは期待を超える成長を遂げ、トランサクション数は早々に1年分のデビットカードを超える数となった。

PIXのトランザクションはデビットカードを超える数に

 しかし、PIXはトランザクションの急速な増大で、モバイルアプリに大きな負担がかかるようになる。システムが大きな負荷を受けて、不安定になり、安定性を得るためにコスト的な負荷も大きくなった。これがまさにトレードオフだ。しかし、スウェテル氏は、「コストが爆発的に上がったのは、安定性を高めるために間違ったアプローチをとったからではないかと考えた。実際、機材やメモリを増やしていた」と振り返る。

 そこで試したのが、「システムを安定させれば、コストも安定する」という仮説だ。システムをチェックする上で、スウェテル氏らはマイクロサービスのガベージコレーターの停止が長いということに気がつき、ガベージコレクターを入れ替えた。また、DynamoDBを基盤としたデータベースに関しても、今までは単にメモリを追加していたのが拡張だったが、NVMeディスクやキャッシュサービスを導入。キャッシュに対して、低遅延な検索もできるようになり、マイクロサービスのコスト削減にもつながったという。仮説が実証されたわけだ。

 こうした経験を元に、Nubankは社内文化も大きく変わった。「これが一番の大きいかもしれません。われわれが大切な意思決定やトレードオフを行なうためには、技術や製品を理解しなければなりません。これはエンジニアチームから始め、今や全社に拡がっています」とスウェテル氏は語る。たとえば、ビジネスチームにも「AWSコストチャンピオン」というアワードを設け、コストを意識する文化を醸成している。

Nubankは全ビジネスユニットにコストチャンピオンを設けた

 こうしてシステムが安定したことで、コストは予測可能になったという。その間、遅延も下がり、売上が高まり、低コストで運用できるようになった。その結果、サービスの料金まで下げることが可能になり、より投資規模が拡大するというまさにフライホイールの加速が実現した。

 ボーガス氏は、ビジネスチームがAWSのコストを理解しているからこそ、実現できるAWSコストチャンピオンの制度について改めてポイント。「すべてのエンジニアの決定は、購買を決定すること。これを覚えておいてもらいたい」(ボーガス氏)。さらに意思決定につながるメトリックをきちんと可視化している点が大きいという。Nubankの事例を振り返ったボーガス氏は、「トレードオフに対しては優先度を付けよ」というアドバイスを示した。

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