テレビに出演するなら必須、自分専用ディスプレー
テレビ番組に出演してマジックを披露するとき、制作スタッフの方々に必ずお願いすることがあります。それは「マジシャン専用のディスプレー」を用意してもらうこと。
その理由は、筆者がナルシストだからではありません。手やマジック道具を動かしすぎて、テレビ画面(フレーム)の外に出てしまうことを防ぐため。つまり、視聴者をガッカリさせないようにするためです。
もし、ディスプレーで確認できず、マジック中に手元がうっかり画面からはみ出してしまうと大変です。視聴者から「画面外で、トランプをすり替えているのでは?」と疑念を持たれてしまい、マジシャンとしての評判が下がってしまうかもしれません。
一方、テレビスタッフの中には、その自分専用のディスプレーで「選ばれたカードをこっそり見ているのでは?」と疑う人もいます。しかし、そんなタネならテレビ局で噂になり、すぐに世間に知れ渡ることに……。マジックは、それほど単純なものではありません。プロの仕事は厳しいのです。
リアルタイムでカメラ映りを確認する必要があるのは、テレビ出演者だけではありません。セルフィー(自撮り)や、動画の配信者にとっても、カメラ映りは大切なはずです。
PCやスマホではなく、専用ディスプレーを使うメリット
多くの人は、PCやスマホの画面で、モニター表示をリアルタイムで確認しながら撮影をしているのではないでしょうか。しかし、編集時にフルスクリーンで動画を見たら、テーブルに髪の毛が落ちていたり、撮影時に気が付かなかった小さなホコリが映っていたりで、撮影し直し……なんてことがよくあります。
最近は、大画面のスマートテレビで動画を楽しむ人も増えています。細部だからといって、油断するのは禁物です。
そこで、PCやスマホの画面ではなく、専用ディスプレーを使用するのです。完成した動画が「想像より画面が暗かった」とか「ホワイトバランスがおかしい」などのトラブルが事前に避けられます。
また、大きめのディスプレーをカメラのレンズの近くに設置しておくと、視線をレンズから外さずに収録ができるなど、別のメリットもあります。
「Dell S2722QC」をブラックフライデーで購入
とは言っても、大切なのは「費用対効果」と「気分」です。今回購入したディスプレー、デルの「Dell S2722QC」も、購入をしばらく悩んでいました。
今まで使っていたディスプレーはテレビ放送向けのディスプレーでしたが、今回欲しかったのはPC用ディスプレー。筆者が利用するにあたって、必要なことは以下の通りです。
撮影用ディスプレーで必要なこと
◯サイズは27インチ、4K(UHD)
◯撮影用だけでなく、臨時のPCサブディスプレーとしても使用できる
◯仕事用なので、信頼できるメーカー
◯ディスプレースタンドに取り付けるので、取り付け用のVESA準拠
◯できれば、3万円台
上の条件に合うDell S2722QCを、Amazonのブラックフライデー(2023年11月)に3万6800円で購入しました(通常価格は4万9800円なので、1万3000円引き)。
Dell S2722QCの良かったこと、改善してほしいこと
Dell S2722QCをしばらく使ってみましたが、結果は大満足。以下、使ってみて良かったこと、改善してほしいことを列記してみます。
良かったこと
●付属のスタンドが優秀で、ディスプレー位置の上下移動、回転が可能(筆者はディスプレースタンドを使用)
●ベゼルが7ミリと細い(下部以外)
●sRGB 99%で色の再現度が高い
●3年間交換保証
●USB Type-CでMacと接続できる
改善してほしいこと
●管理ソフト「Dell Display Manager」がmacOS 13.6に対応していない
●スピーカー付きはありがたいが、音質はほどほど
改善してほしいところもありますが、筆者が購入した価格であれば文句はありません。
クチコミなどを見ると、Apple Mプロセッサ(Apple Silicon)搭載のMacではUSB Type-C接続の相性が悪いケースがあり、たまにブラックアウトすることが報告されています。ただし、アップル純正ケーブルを使うと改善されるという口コミもありました。このあたりは、使い続けてみないとなんとも言えない部分でしょう。
筆者にとって、特に良かったのは、画面上下に調整できる点。筆者が使うiMac 27インチと並べて使うときには、2台の画面をピッタリと揃えられるのです。
もっとも、ホワイトバランスがアップル製のディスプレーと少し違うので、もしDTPなど色に対してシビアになる用途に使うなら、ワンランク上のディスプレーのほうが良いかもしれません。ただし、筆者に必要な映像編集や撮影用のディスプレーとしては、Dell S2722QCは十分な性能です。
大切なのは、ストレスなく、気分が良いこと
テレビ番組の撮影や、動画の収録で大切なことのひとつは、使っていてストレスがなく、気分が良いこと。そんなストレスは、顔の表情や身体の動きなどとなり、画面に現れてしまうからです。
そんな機材を選ぶとき、価格が高かったり、高機能の機材を使ったりすることだけがプロのこだわりではないと筆者は思っています。安物ではダメかもしれませんが、必ずしも高級、高機能である必要もありません。
ワンソース・マルチユースという考え
マジックや映画撮影など、ショービジネスの世界では「ワンソース・マルチユース」、ひとつのソース(資源や道具)をいろいろと使い回すという考えが大切にされます。
やりたいこと、欲しいものをすべて揃えると、予算は無限にかかってしまいます。しかし、夢を実現するために、ひとつの資源や道具をいろいろと活用できれば、より大切なことにお金が使えます。
たとえば、映画「インディ・ジョーンズ 魔球の伝説」(1984年)のハイライトとなる、ジェットコースターのような洞窟内トロッコのシーン。これは、同じコースを洞窟の照明を変えながら何度も撮影して長い線路に見せ、予算を節約したといわれています。
今回購入した27インチの4Kディスプレーの使い方に対して、「カメラのビューワーで確認できるのでは?」と感じ、贅沢だと思う人もいるかもしれません。
しかし、「撮影用ディスプレー」「PCのサブディスプレー」「故障時のバックアップディスプレー」と3つの用途に活用できるなら、それほどムダではないはずです。Dell「S2722QC」は自分にとってストレスなく、気分が良くなるディスプレーでした。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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