第13回 and SORACOM
チャレンジはいつのまにか自分たち、お客さま、社会の「三方よし」になっていた
残量検知デバイスでエンジンオイル販売を変えたFUKUDAとSORACOM
提供: ソラコム
京都の山科にあるオイル卸売販売のFUKUDAは、顧客のオイル残量を検知できるIoTデバイスとシステムを開発し、オイル配送のビジネスを大きく変革している。自治体や商工会議所などの地元の支援を受けたビジネスの開発、オプテックス MFGやソラコムなどのパートナーとともに作り上げたデバイス、大きく成長する外販ビジネスについて、FUKUDA 代表取締役社長 福田 喜之氏に話を聞いた。
もっと楽に、もっと売上を求め、たどり着いた残量検知システム
京都の中心部から南東部に位置する山科は、古くから京都と東国を結ぶ要衝だ。京都駅から電車と地下鉄を乗り継ぎ、駅から車で5分程度で着く、そんな山科の地にFUKUDAの事務所はある。京都らしい竹林を背にしている以外は、ありふれたオイルの卸売会社に見えるが、事務所の中に入るとWebサイトにも描かれた絵本のイラストが壁一面に拡がる。そう、FUKUDAはわれわれが知っているいわゆる地元のガス・オイル屋さんとはちょっと違うのだ。
自動車向けのエンジンオイル販売を手がけるFUKUDAは1969年に現社長である福田喜之氏の両親がここ山科の地で創業した。当時、福田氏の父親はガソリンスタンドで灯油の配達を担当していたが、自動車修理工場から「ガソリンスタンドだったら、エンジンオイルも持ってこられないか?」というリクエストを受けるようになった結果、ガソリンスタンド側の勧めもあって独立。エンジンオイルの販売を手がけるようになったという。その後、父親の他界で母親が代表を継いだが、従業員は4名だったにも関わらず、当時から大手スーパーのダイエーグループにエンジンオイルを納入するような優良企業だった。
その後、大学を卒業し、自動車会社に勤務していた福田喜之氏が家業を継いだ。当時はホームセンターにオイルを販売するのがメインだったが、大手の競合を相手に価格勝負しなければならなかった。そのため、ジリ貧になる前にビジネスを変化させようと考えていたという。「量販店中心の薄利多売なビジネスから、地域密着型のビジネスに変えていきたいと思い、入社して5年くらいしてから徐々に会社をシフトさせていきました」と福田氏は語る。
その後、FUKUDAはまさに地域密着型のビジネスへの変換を達成し、近畿2府4県で約3000の顧客を抱えるようになった。自動車の修理工場やバイクショップなど、一件あたりの売上は低いが、量販店相手の商売に比べて利益率は高い。ただ、長らく課題になっていたのは、ビジネスの規模がこれ以上拡大しない点だ。「一人の営業マンが250~300件くらいを担当しているのですが、そろそろ限界に達してしまう。売上が伸びないのであれば、このままがんばって働いても給料は上がらない。でも、もっと楽に働きたい、もっと売上伸ばしたい、もっと利益を上げたいと考えました」と福田氏は語る。
課題になったのは、自社が手がけるオイル配達の効率性だ。オイル配達業者の多くは、営業マンが顧客のオイルの残量を把握しているが、あくまで勘に過ぎず、時期によって消費量も変わる。「土曜日や金曜日の夜に『オイルないんやけど』って電話がかかってきて、休日の朝に配達しにいくような感じ。休んでしまうと、別の業者が入れていたみたいなことが起こります」と福田氏は語る。
こうしてたどり着いたのが、遠隔から顧客のオイル残量がわかるという残量検知システムだ。客先に出向く前にオイル残量がわかれば、配送を効率化でき、営業マンの業務効率化につながるはず。この発想に行き着いたのはなんと12年前。残量検知ソリューションの実現は、FUKUDAにとって、福田社長にとっても、長年の悲願だったと言えるのだ。
ビジネスもデバイス開発も、ぶれなかったのは事業計画があったから
残量検知デバイスが動き出したきっかけは、京都市と京都商工会議所が主催した勉強会だった。「たまたま参加したら、アイデアを計画書に落とし込み、外部からもOK出たら、ビジネスの認定プランをくれるという話になったのです。そこで講習に参加し、なにを、なんのために、いつまでに、どうやってやるのか。そして、なにが必要かをひたすら書きました。気がつくと立派な事業計画書ができていたんです」と福田氏は振り返る。
多くの中小企業の社長と同じく、福田社長も日々さまざまなアイデアを頭の中で描いてきた。「あれやりたい」「これやりたい」など、妄想は膨らむ一方。しかし、残量検知ソリューションが「できたらいいな」という単なるアイデアや妄想ではなく、FUKUDAのソリューションとして結実したのは、外部からお墨付きを得た事業計画があったからにほかならない。
事業計画でビジネスプランとして応募した結果、ビジネス認定を受けただけでなく、100万円の補助金までついた。キックスタート期に重要な補助金、そして書面に落とした事業計画があったため、計画がぶれなかった。「社長って朝礼や終礼で社員に話したりしますが、人間なんで、毎日どんどんぶれちゃうんです(笑)。2ヶ月経ったら、言ってることが全然違うということもあります。でも、このプロジェクトに関しては事業計画があったので、やっていることも、従業員に言っていることも全然ぶれなかったです」と福田氏は振り返る。
最初に試したのは。有線での残量検知だ。初代の残量検知デバイスでは、ドラム缶に紐状のセンサーを垂らし、残量が減って表面の浮力が変化したときに、アラートをケータイ網経由で飛ばすという方法を採用した。残量が一定ラインを切ったらFUKUDA側がわかるという点で、このデバイスの登場は画期的で、実際にサービスにも活用された。
しかし、少ないことはわかるが、どれくらい残っているのか、いつ枯渇するのまでは把握できないという弱点があった。また、基本は水の残留検知を手法として応用したものなので、センサーが油に浸かるということを想定していなかった。そのため、センサーが膨張したり、曲がったりして、2年くらいすると、誤作動するようになったという。
さらに電源供給が有線だったため、電源の近くに設置しなければならず、設置だけで半日くらいかかってしまうのも難点。ダメ押しとなったのは、コロナ禍での部品不足だ。海外からの部品調達が難しくなったのを契機に、国内メーカーで残量検知デバイスを再設計することになった。このときにパートナーとなったのが、京都市伏見区のデバイスメーカーのオプテックス MFGだった。
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