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業界人の《ことば》から 第564回

ジャパンモビリティショー閉幕、車は社会に感動を生んでいるだろうか?

2023年11月13日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

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今回のひとこと

「これからのモビリティは、街とつながり、人とつながり、その心もつなげていく。そして、心と心が、共感によってつながった多くの仲間が、これまで以上の感動を生み出すことができる。これが、自工会が提案するモビリティ社会である」

(日本自動車工業会の豊田章男会長)

イベントそのものがフルモデルチェンジ

 JAPAN MOBILITY SHOW 2023が、10月26日~11月5日まで11日間の会期を終えて閉幕した。

 これまでの東京モーターショーから、JAPAN MOBILITY SHOWへと名称を変更。「自動車(モーター)」を中心としたイベントから、自動車産業の枠を超えて、様々な産業の企業やスタートアップ企業が連携して実現する「モビリティ」をテーマにしたイベントへと進化した内容となった。47回目となる今回、イベントそのものが、「フルモデルチェンジ」したのが、JAPAN MOBILITY SHOW 2023であったといえる。

 出展者数は、前回の東京モーターショー2019の192社を大きく上回る475社が出展。スタートアップ企業も116社が出展した。そして、会期中の来場者数は111万2000人となり、100万人を突破した。

日本自動車工業会の豊田章男会長

 主催者である一般社団法人日本自動車工業会(自工会、JAMA)の会長を務める、トヨタ自動車の豊田章男会長は、「日本で、100万人を集められるイベントは、夏の甲子園とJAPAN MOBILITY SHOWだけである」とする一方、「今回は、東京からジャパンに、クルマからモビリティに大きく進化して開催する初めてのショーになった。これからのモビリティは、街とつながり、人とつながり、その心もつなげていく。そして、心と心が、共感によってつながった多くの仲間が、これまで以上の感動を生み出すことができる。これが、自工会が提案するモビリティ社会である」と定義した。

 象徴的なのが、主催者プログラム「Tokyo Future Tour」だ。

 ここには、177 社の企業が参加。自動車産業に留まらず、あらゆる産業の企業が、体験型コンテンツを通じて、「モビリティが実現する、明るく楽しくワクワクする未来」を提案してみせた。

 「Tokyo Future Tour」は、移動やライフスタイルの広がりを示す「LIFE& Mobility」、復興現場で活躍するモビリティを示す「EMERGENCY& Mobility」、遊びやスポーツによって広がる新たなモビテリィを提案する「PLAY& Mobility」、楽しく、おいしい食体験を提案する「FOOD& Mobility」の4つのエリアで構成。それそれのシーンにおいて、モビリティによって変わる未来を表現してみせた。これまでのモーターショーにはない、業界横断型のモビリティの提案が相次いだ。

Tokyo Future Tour

 また、スタートアップ企業が出展したStartup Future Factoryでは、ブースの見学やビジネスマッチングを通じて、大手企業などと次の打ち合わせが決定した案件が430件以上も創出されたという。

主催者プログラム「Tokyo Future Tour」には177社が出展

 豊田会長は、「JAPAN MOBILITY SHOWの会場には、オールジャパンの技術を結集したモビリティの未来がある。誰のための未来を作りたいのか、という明確な意思があり、みんなで、未来をもっと良くしたいという共感がある。規制や外部の圧力によって作られた未来と、いまを生きる大人たちが、未来を託す子供たちのために仲間を信頼し、共感して作る未来とはまったく違うものになる。私はそう信じている」とし、「JAPAN MOBILITY SHOWのテーマは、『乗りたい未来を、探しにいこう!』である。この言葉に、未来はみんなで作るもの、信頼と共感で作るものという思いを込めた」と、JAPAN MOBILITY SHOWに進化させたイベント開催に強い意思を示した。

瑶子女王殿下も臨席したオープニングスイッチオンセレモニー

オールジャパンの技術を結集したモビリティの未来

 瑶子女王殿下も臨席したオープニングスイッチオンセレモニーでは、豊田会長以外にも、JEMAの副会長として、国内主要自動車メーカーのトップが参加。自動車産業全体が、モビリティによる価値を提案する姿勢を強めていたのが印象的だった。

オープニングスイッチオンセレモニーでは、国内主要自動車メーカーのトップが参加

 モビリティによって、自動車産業を大きく変革したいという姿勢は、国内主要メーカーも同じだ。そして、各社に共通しているのは、今回のJAPAN MOBILITY SHOWを通じて、モビリティの世界を、具体的なユースケースとして提示したことだ。モーターショーから、MOBILITY SHOWへの変化はそんなところにも感じられた。

 トヨタ自動車の佐藤恒治社長は、「多様性にあふれるモビリティの未来を伝えたい」とし、「バッテリーEVと暮らす未来」、「IMVゼロで目指している未来」、「人と社会をつなぐモビリティ」の3つで、モビリティによって描く未来を示してみせた。

トヨタの「FT-Se」

 「バッテリーEVと暮らす未来」では、環境に優しいだけではなく、電気エネルギーならではの運転の楽しさと、これまでと同様に走りの楽しさも実現できるバッテリーEVの世界を提案。「クルマ屋らしいバッテリーEVをつくる」と強調した。いままでにない低重心と広い空間を両立するクルマを作り、基本コンポーネントを徹底的に小型化、軽量化。新たな体験価値を実現するソフトウェアプラットフォームの「アリーン」により、常に最新のソフトウェアを実装するほか、車両データを活かして、顧客ニーズに寄り添った開発をスピードアップし、価値の提供を加速する。これは、ソフトウェア・ディファインド・ビークルを実現することになるという。

 ここでは、ソフトウェアによって、クルマのなかからアプリで買い物したり、ドライブ中にマニュアルモードで走りの楽しさを味わったりといったことも可能になるという。

 「IMVゼロで目指している未来」では、Innovative International Multi-purposeの原点に立ち返り、クルマで運びたいものや、やりたいことをソリューションとして提供するものになる。畑で収穫した野菜や果物を運んで、街に到着したら、クルマが直売所になったり、街の広場では、コーヒーショップやフードトラックになったり、夜には、バーになったり、DJブースにもなる。

「ユニークで多様なクルマが、社会に溶け込んでいくことになる。クルマがプラットフォームとなり、利用者自身の価値を拡張していくことができるクルマになる。みんなでつくるモビリティの未来を実現することができる」と語る。

トヨタの「カヨイバコ」

 同社では、このモビリティを「カヨイバコ」と呼び、トヨタの工場で、多様な部品を詰め込んで生産現場をつなぐ「通い箱」から命名したことも明かした。

 「人と社会をつなぐモビリティ」では、人の多面性にフォーカス。仕事では、先に触れた「カヨイバコ」を配送に使用しなから、休日はアウトドアを楽しむために、テントやバーベキューグッズを「カヨイバコ」に積み込んで、郊外に出かけるといった使い方を提案する。「社会のなかで、モビリティの価値をみんなで育てていくことが、カヨイバコで目指している未来」と位置づけた。

トヨタ自動車の佐藤恒治社長

 トヨタ自動車の佐藤社長は、3つのモビリティの実現においては、電動化、知能化、多様化が鍵になることに加えて、「未来のモビリティは、私たちのライフスタイルに応じて、その価値を拡張していくことが重要である」とし、「トヨタの使命は、世界中のお客様の暮らしに、とことん寄り添い、多様なモビリティの選択肢を届けることにある。この未来はみんなでつくっていきたい」と述べた。

日産自動車は5台のコンセプトカーを

 一方、日産自動車の内田誠社長兼CEOは、「2023年12月に創立90周年を迎える日産は、常に革新を続け、移動の自由を提供することで、人々の生活を豊かにしてきた。そして、ワクワクするモビリティの未来を、イノベーションの力で、みなさんとともに創造いきたい」と切り出し、電動モビリティ、EVエコシステム、知能化技術の3点を日産自動車のイノベーションの3つの柱と定義。「今回紹介するコンセプトカーは、創立時から受け継ぐ、他がやらぬことをやるという精神から生み出された、日産にしか作れないEVであり、日産が目指す未来を象徴している」と位置づけた。

日産自動車の内田誠社長兼CEO

 日産自動車は、JAPAN MOBILITY SHOW 2023に、5台のコンセプトカーと、それにあわせた5人の象徴的なユーザーをキャラクターとして紹介。それぞれにおけるモビリティの姿を示してみせた。

ニッサンハイパーフォース

 究極のハイパフォーマンスカーである「ニッサンハイパーフォース」は、現実の世界でも、バーチャルの世界でも、ドライビングを愛する人をターゲットとしたクルマだ。自由に自己表現ができる「ニッサンハイパーパンク」は、AIとバイオセンサーによって、ドライバーの気分にあわせて音楽と照明を選択し、リラックスした気分と活力を与えてくれるクルマとなっている。リビングルームにいるままで移動ができるような「ニッサンハイパーツアラー」は、快適で、上質なものを愛する人たちに、日本の新しいおもてなしを提供。広々としたキャビンで、集中も、リラックスもできる空間を実現した「ハイパーアーバン」は、持続可能な世界を望む意識が高い人を対象にしたクルマとなっている。そして、冒険心にあふれる「ハイパーアドベンチャー」は、アクティブなライフスタイルを送るデジタルノマドに最適なクルマとして提案した。

 とくに、ニッサンハイパーフォースは、ゲームシミュレーションの技術を搭載し、バーチャルとリアルをシームレスにするのが特徴だ。ソニーグループの1社であるゲームソフト開発のポリフォニー・デジタルと協業し、ゲーム内でドラビングのスキルを鍛え、それを実際のドライビングに簡単に反映させることができるという新たな仕組みを導入。「ゲームチェンジャーになるクルマ」と位置づけた。

 さらに、福島県浪江町では、スマホアプリを使い、モビリティサービスと再生可能エネギー、EVバッテリーを組み合わせたエネルギーマネジメントシステムを、パートナー企業とともに開発し、日本全国から世界へと展開する新たなモビリティの取り組みも示した。

 日産自動車の内田社長兼CEOは、「コンセプトカーは、あらゆる乗車体験を、もっと安全で、もっとワクワクするものに変えていく。そして、暮らしや夢の実現をサポートしていく。日産は、エキサイティングな未来を創造しつづける」と宣言した。

自動車産業からモビリティ産業へと

 国内主要メーカートップの発言を聞いても、新たなテクノロジーを活用し、様々な業界と連携することで、クルマと社会がつながるモビリティの世界を実現しようしていることが感じられた。

 今回のJAPAN MOBILITY SHOW 2023は、「東京」の「モーターショー」から、「日本」の「モビリティショー」へと変革を遂げるイベントになったのは明らかだ。

 最終日に行われた「ジャパンモビリティショー大反省会 マツコデラックス×自工会会長 豊田章男」で、豊田会長は、「自動車産業が動くと100万人集まる。自動車産業を中心に、未来づくりに参加する人たち、業界を超えて様々な企業に参加してもらったのが、今回のJAPAN MOBILITY SHOWである。一緒にモビリティを作るための『この指とまれ』大会であった」と総括。「これが、日本から世界に向けて、モビリティを発信するスタートになることを願っている。モビリティが自分の未来にどう影響してくるのかを考えてもらう2週間になっていれば大成功である」と振り返った。

 自動車産業に従事する人は550万人だが、モビリティ産業という見方をすると850万人が勤務していることになるという。

 自動車産業が進化し、「モビリティ産業」という新たな産業の創出へと、日本全体が挑むきっかけになるイベントになったのは確かだ。

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