本記事はソラコムが提供する「SORACOM公式ブログ」に掲載された「DXリーダーが語るスマート物流への挑戦、デジタル化推進の要はカルチャー変革にあり」を再編集したものです。
目次
物流業界に集うDXリーダー人が支える配送のデジタル化に挑む
世界情勢に即応するサプライチェーンにはデジタル化が必須
アナログな現場をデジタル化し、物流システム全体をつなぐ
DXを阻む「失敗してはいけない」という意識をどう変えるか
物流業界は技術革新、環境問題、人手不足、地域差、グローバル化などの課題を背景に、デジタル化と持続可能性に向けた取り組みが求められています。
2023年7月6日に開催されたカンファレンス「SORACOM Discovery 2023」で実施したセッション「DXリーダーが語る:デジタルとスマート物流」のパネルディスカッションの一部をレポート形式でご紹介します。
本セッションは、ゲストにグローバル企業で活躍後に物流業界でDXに取り組む、JPデジタル/日本郵政グループ 飯田恭久氏、パナソニック コネクト 榊原彰氏のお二人を、モデレーターに企業のDXを支援するKDDI Digital Divergence Holdings 藤井氏をお迎えしました。物流業界でのデジタル活用の課題と取り組み、そして大企業がDXに取り組む際の進め方について伺いました。
<スピーカー>
飯田 恭久氏
株式会社JPデジタル 代表取締役 CEO
日本郵政株式会社 常務執行役・グループCDO
日本郵便株式会社 常務執行役員 DX戦略担当
榊󠄀原 彰氏
パナソニック コネクト株式会社
執行役員 ヴァイス・プレジデント CTO
<モデレーター>
藤井 彰人氏
KDDI Digital Divergence Holdings株式会社 代表取締役社長
株式会社ソラコム 社外取締役
物流業界に集うDXリーダー
KDDI Digital Divergence Holdings 藤井彰人氏(以下、藤井氏):登壇者のDXリーダーのみなさまから自己紹介をお願いいたします。
JPデジタル/日本郵政 飯田恭久氏(以下、飯田氏):これまで、ジレットやウォルト・ディズニーなどの外資系企業でマーケティングに従事し、その後、ダイソンの黎明期に日本法人の代表取締役社長として、日本におけるダイソンのブランディングを確立しました。
その後、楽天グループで15年を過ごしましたが、その多くの年月はアメリカでグローバル展開を推進して参りました。資本関係ができたことから日本郵政グループへ移り、CDO(Chief Digital Officer)の役割を担っています。
パナソニック コネクト 榊原彰氏(以下、榊原氏):私は人生の大半をIT業界で過ごしています。日本IBMで30年ほど働いた後、マイクロソフトおよび、同社の開発を担うマイクロソフトディベロップメントの両社に所属しました。現在はパナソニック コネクトでCTOをしています。
藤井氏:ありがとうございます。私は本日はソラコムの社外取締役としてモデレーターを担当いたします。
サン・マイクロシステムズ、Googleを経て、現在はKDDIのDXを推進するグループ会社で代表をしております。では、早速お話を伺っていきましょう。
人が支える配送のデジタル化に挑む
飯田氏:日本郵政というホールディングスはさかのぼれば150年以上の歴史をもち、郵便、貯金、保険という3つの事業で成り立っています。
郵便物というと世界的には減少傾向にありますが、日本中に拠点を持ち、全国民がお客さまになるユニバーサルサービスを提供しているという強みがあります。郵便局での体験はまだ紙での手続きが多く残っていて、デジタル化が行き届いているとは言えません。
窓口業務をスマート化していくとともに、生活をサポートする新しい価値も提供できるだろうと考え、デジタルとリアルを融合してその体験価値を徹底的に高めることを目指しています。
藤井氏:郵便局の大きな業務に物流、配達という業務もあると思いますが、現状をどのように捉えていらっしゃいますか?
飯田氏:郵便局の配達には、2種類あります。まず、はがきや手紙の配達、そしてゆうパックなどの小型荷物の配達です。
150年にわたって日本全国に配達してきたので、そこにはナレッジがありますが、人に依存した形で蓄積されているという問題があります。
藤井氏:2025年の壁と言われるように、人手不足が課題として見えてきています。人にナレッジを依存している状態だと、事業継続という観点でもリスクがあるということですか?
飯田氏:その通りです。ベテランが引退してもナレッジを引き継いでいけるようテクノロジーを活用して解決しようとしています。
藤井氏:ロボット、AI、ドローンからアプリケーションまでいろいろ取り組まれていますね。ありがとうございます。
次に榊原さん、現在の物流の課題をどうとらえておられますか?
世界情勢に即応するサプライチェーンにはデジタル化が必須
榊原氏:グローバル視点でみると、ここ数年のパンデミックの影響で、物流、サプライチェーン全体にわたり、物流の需要が変化しました。特に、「ラストマイルデリバリー」、つまり最後にお客さまの会社や家までとどける部分というのは大きく変化しました。
また、戦争などの世界情勢によって物流の経路が変化するなど、在庫の取り回しも柔軟性が求められています。デジタル化で物流全体を即応させる必要性がでてきています。
藤井氏:改めて、パナソニック コネクトが取り組む事業についても教えていただけますか?
榊原氏:私が所属しているパナソニック コネクトは、パナソニックホールディングスの中でハードウェアとソフトウェアをBtoB向けに提供する会社です。
ハードウェア領域では産業用ロボットや大型プロジェクター、パソコンや決済端末などが主力で、ソフトウェア領域ではサプライチェーンの事業にフォーカスしております。2021年にアメリカのSaaSベンダーであるBlue Yonderを買収しました。サプライチェーン全領域を網羅しており、計画から実行までをエンドツーエンドでサポートします。
海外の事例は規模が大きいんですよ。例えば、倉庫のバックヤードが2km四方あって、2000台のトラックを収容できる広場のような場所だったりします。こういう場所で物流を管理するには、人手でやっていたようなやり方は通用しません。そこでクラウドやIoTデバイスの出番になります。
しかし、多くの人が関わる物流の現場では、簡単にテクノロジー活用は浸透しません。デジタル化するには、まずデータを作り出すこと、デジタル処理することが必要で、難しいところでもあります。
アナログな現場をデジタル化し、物流システム全体をつなぐ
藤井氏:アナログな現場というと郵便局は色々お話がありそうですね。
飯田氏:郵便局は全国6300万カ所に配達をしています。これを可能にしているのは人の力、アナログの強みがあります。しかし裏を返すと、デジタル化されていないから人ありきにならざるを得なく、効率化できないとも言えます。例えば、荷物を出すときに差出人や宛先を書きますよね。その情報を始めからデジタルデータで得られれば、最適な配達経路や人員配置などは理論上わかるはずです。
藤井氏:確かに、荷物を出す時点でデータになればよいですね。サプライチェーンのシステムも同じで、各拠点や店舗の在庫管理や輸送などは統合管理できていない、つまり要所要所でアナログな業務が入り、つながっていないとも言えますね。
榊原氏:そうですね。国際的に見てもまだまだです。サプライチェーンの導入提案には、そもそもの概念からご説明が必要な状況です。加えて、日本の現場の人はとても優秀で、自分の担当業務をしながら別のことにも対応することもあります。欧米ではピッキングをする人はピッキングだけするといった業務分担が明確です。どちらがデジタルに移行しやすいかというと後者、欧米のほうが早くデジタル化が進むはずです。
藤井氏:確かに、郵便局の窓口の方はどんな質問にも答えようとしてくれます。とはいえ、課題は間近に迫っており、多くの方が受け取る段ボールの数の増加など、運送の負荷を体感されているでしょう。スマート物流は、まだデジタル化が進んでいない故、デジタルで効率化できる領域がとても大きい、今投資して取り組むべき課題ですね。
DXを阻む「失敗してはいけない」という意識をどう変えるか
藤井氏:次におふたりとも大企業でDXを推進する側で指揮を執られているということで、大企業におけるDXの進め方についても伺いたいと思います。おふたりは海外での勤務経験もお持ちですが、海外と日本の違い、どこから進めるべきかなどご意見を伺えますか?
飯田氏:日本郵政グループは社員が40万人いる組織です。最初に感じたのは、失敗に対する寛容度が低いという点、元々役所なので間違えてはいけない、失敗してはいけないという意識が高くあります。しかし、変革に失敗はつきものです。この意識変革から取り組んでいます。
若手にデジタルを学んでもらい、試してもらう。JPデジタルという別会社で推進しているのも、前例がない会社をつくることで、前例を踏襲せずにいちから取り組むためです。
藤井氏:出島をつくるということですね。そのやり方は有効でしたか?
飯田氏:きっかけとしては有効だったと思います。
榊原氏:パナソニック コネクト全体として、事業やカルチャーを変えようと取り組んでいます。私としては、成長エンジンである研究開発を根本から変えないといけないと感じました。脈々と受け継がれてきたのはハードウェア製造業の進め方なんですね。今回Blue Yonderの買収をきっかけにソフトウェアベンダーになろうとしています。
ハードウェア製造の進め方に最適化されていると、ソフトウェアの開発もハードウェアのプロセスや品質に対する考え方が求められてしまう。これを変えるために、Blue Yonder のチームでは、グローバルのクラウドサービスベンダーであるBlue Yonderのプロセス、開発環境で進めています。
もうひとつ取り組んでいることは、飯田さんと同じで「考え方」です。私達のスローガンに「THINK BIG、ACT FIRST、FAIL FAST」という言葉があります。何かアイディアをだしても、手を動かす前に失敗したらどうしよう、これをしてはダメなのではないかといろいろ考えてしまうとそこで止まってしまいます。まず、プロトタイプを作って、動くモノを見てから考えよう、改善していこうという考え方を伝えています。
何度失敗しても会社は怒らないと言うことを伝えるために、失敗した人を奨励する賞を作りました。2つ賞があって「Cliff-hanger(崖っぷちにぶら下がる、絶体絶命)」と「Tiger’s Den(危険を承知の上で飛び込む、虎の穴)」のふたつです。そうしたらたくさんエントリーがあって、こんなに失敗していたのかという発見もありました。
藤井氏:素晴らしいですね。
飯田氏:例えるなら1日に作業を間違わずに3個の作業をする人と、1日に1個間違うけど10個の作業をする人がいたら、前者が評価されてきたような文化があります。間違いをおかさずに実施できること自体は正しい部分もあります。しかし、やる気があって、生産性も3倍ある人にバツがつく状況は変えていきたいと考えています。
世の中がデジタル化していく中で、私達も進化していかなければ、最終的にお客さまに良い体験をお届けできなくなっていきます。なので、失敗してもいいから、学んで前に進もうということを強調しています。
藤井氏:失敗を奨励するという、心理的安全性を確保するということが大事なんですね。モノをつないで、可視化し、データを活用していく、物流の分野でも新しい取り組みが生まれていくことが期待されます。本日はありがとうございました。
― ソラコム 田渕
投稿 DXリーダーが語るスマート物流への挑戦、デジタル化推進の要はカルチャー変革にあり は SORACOM公式ブログ に最初に表示されました。
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