まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第94回
〈後編〉ジャンプTOON 統括編集長 浅田貴典さんロングインタビュー
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた
2023年10月29日 15時00分更新
縦読みマンガを生み出す仕組み
―― では、どのように生み出していくのかについてもうかがっていきたいと思います。まず、ジャンプTOON編集部発と、先ほどの『氷の城壁』のように社内のほかの編集部発、という2通りがあるかと思いますが。
浅田 ほかの編集部発でジャンプTOONで連載する作品もあります。ただ、基本的に「ジャンプTOONオリジナル」を冠するのは、連載会議に通った作品のみになります。
連載会議にはほかの編集部からも提出可能という枠組みです。少年ジャンプ+も、週刊少年ジャンプやほかの編集部から持ち込まれた作品が連載されていますし、昔に比べると編集部を飛び越えての展開が可能になってきていますね。
―― この連載会議に企画を持ち込む際、各編集部の編集者が出席するのですか?
浅田 その通りです。そこでは先ほど挙げた「続きを読みたくなる」「繰り返し読みたくなる」という条件を満たしていればジャンルは問いません。いわゆる「ジャンプのパブリックイメージ=少年たちによる能力バトル」だけにはしたくなくて、男性向けも女性向けもやるし、格闘技もの、カッコイイもの、グロイものだって試しますよ、という方針です。
―― どれくらいの規模感になりそうですか?
浅田 現時点(取材時)で具体的には申し上げられないのですが、2024年中にアプリが始まることはすでに発表しています。詳細はもう少し経てばお知らせできると思います。なお、投稿サイトも立ち上げます。
―― ジャンプルーキーと同様の展開ですね。そしてジャンプTOONではジャンプTOON AWARDという新人賞が開催されました。
浅田 私たちは新人作家さんのクリエイティビティーを大事にして、縦スクロールマンガを作っていく方針です。アワードについては、我々の予想を上回る121本の応募がありました。
―― アワードの募集要件を見る限り、相当ボリュームを問うものでしたね。
浅田 ボリュームは80コマ以上です。とはいえ、たとえばページ5コマの横開きのマンガに換算すると16ページ分ですから、そこまでボリュームがあるとは考えていません。しかも、カラーでなくても構わない。
ただ、応募作品を見ると80コマを上回り、しかもフルカラーの作品が結構ありました。海外からも届いています。ジャンプTOONという名前があるだけで、アプリもサービスも影も形もないところに、これだけの本数をご応募いただいたというのは期待の表われでしょう。その期待をしっかり受け止めて事業を進めていきたいと思っています。
―― 海外にも募集情報を出されていたのですか?
浅田 出していません。ただ、注目されている感覚はあります。ジャンプTOONのX(Twitter)アカウントを開設したときに、アメリカで最も縦読みマンガでヒットしている『Lore Olympus』の作家さんがフォローしてくれて「おお!」となりました。
―― ジャンプブランドの強さもありますね。
浅田 アニメ配信を通じての海外での人気の高さ、MANGA PLUSなどの取り組みといった積み重ねがあったおかげですね。
表現の幅はアプリがBANされない範囲で
―― 海外市場を意識した作品作りみたいなことは考えていますか?
浅田 まずは目の前のお客さんを満足させないと、ですね。
結局のところ、海外の人のメンタリティーって我々わからないじゃないですか。先ほど『女優失格』が面白いと申し上げましたが、この作品はさまざまなトラウマを抱えた少女が主人公で、お酒を飲まないと演技ができないというエピソードが挟まれています。
韓国では女性のアルコール依存症が社会問題になっており、それが作品にも色濃く反映されています。これは作者が韓国で暮しているという、いわば土着性によったものですから、日本で作るならば日本人が理解できるものを作ったほうが良いと私は思っています。
―― とは言え、先ほどの話にも関わりますが、アプリは審査がありますし、週刊少年ジャンプでもタバコなどをどう扱うか、というのは常について回りますよね?
浅田 そこは、個人的にはできる限り広い表現で勝負したいですね。アプリがBANされない程度にチャレンジしたいです。
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