業務を変えるkintoneユーザー事例 第202回
事故を経て「自立=放置ではない」に気づく
要望の期待値を超える面白いアプリ、熱いアプリの提案がDX推進の鍵
2023年10月04日 09時00分更新
2023年7月6日、Zepp DiverCityで開催されたkintone hive tokyo。今回は2番手、エクソル 情報システム部 田中幹也氏によるプレゼンのレポートを紹介。kintoneならではのプラグインの使いこなしにより、業務改善を実現。一方で、ユーザーの誤操作による事故も経験し、運用ルールやユーザー教育の重要も痛感している。
連携サービスやプラグインを利用し、ミスの削減や効率向上につなげる
エクソルは太陽光発電の設計や施工からメンテナンス、保証まで手掛ける太陽光発電の総合企業で、新製品の開発も行なっている。創業は2001年で北海道から九州、上海まで支店・営業所を展開。自社の太陽光発電所も構えている。従業員は約300人。田中氏は前職でかまぼこの営業をしており、現在はエクソルで「元、非ITの情シス」として業務改善に携わっているという。
以前のエクソルでは、業務でExcelを使っていたため、バージョン管理が難しい、共有Excelが壊れる、個人フォルダの奥底にある重要資料といった「あるあるな課題」を抱えていた。中でも、特に深刻なのが、各部署で資料をばらばらに管理しているので、部署間のスケジュールの連携などができていなかったという。
「これらの課題はkintoneで大体解決できると考えて打診したものの、反応が微妙でした。Excelは検索が簡単で色付けできたり、まとめて入力できたりするメリットがありまります。それを見落としていたので、案件を炎上させてしまいそうになりました」(田中氏)
そこで、kintoneの一覧をExcel風に表示するプラグイン「krewSheet」(グレープシティ)を導入。条件付き書式が利用でき、簡単に検索・入力ができるようになった。
次の課題は、メールだった。社内外とメールでやり取りすることが多いが、kintoneに転記するのが手間なうえ、ミスも発生していたのだ。そこで、kintoneのゲスト機能を利用し、取引先をゲストとして招待したという。
メールのやり取りが減るので、メールの作成時間が削減できるようになった。コミュニケーションのスピードもアップし、通知やリマインダー機能を使うことで、お互いが対応漏れを防止できるようになり、完全にWinWinの活用を実現できた。
エクソルでは、krewSheetだけでなく、他にも連携サービスを活用している。
「プリントクリエイター(トヨクモ)はkintoneの情報をPDFとして出力できます。シンプルに設定できて、デザインを自由に作れるのがとても便利で、お世話になってます。gusuku Customine(アールスリーインスティテュート)では、この条件の時にこの処理をするという機能をノーコードで組み立てられるサービスです。できることが多くて、無限の使い道があります」(田中氏)
たとえば、kintoneでは各部門のアプリをルックアップで相互につなげて、工事店や元受けをゲスト招待し、情報共有することでメールを削減。krewSheetを全アプリに入れることで、Excelとkintoneのいいとこ取りをしている。さらに、プリントクリエイターで、工事の関係書類をPDFに出力し、1件あたり30分もの作業時間を削減できた。
施工管理には「ANDPAD」というサービスを利用しているが、その情報をRPAを使い、kintoneの現場と内勤それぞれのアプリにつないでいる。kintone内のデータをPDFではなく、Excel帳票に出力する必要があるときは、gusuku Customineを利用しているという。
「krewSheetとgusuku Customineを組み合わせて、ルックアップを自動更新して、営業アプリや工事系のアプリ、設計のアプリなどを全部自動で更新されるようなシステムにしています。この建物にこの部材を使う、という情報は、kintoneのテーブル機能とkrewSheetで管理しています。このように、プロジェクト案件の管理はkintoneで行なうのが当たり前になってます」(田中氏)
kintoneと連携サービスを活用することで、大きな導入効果も得られた、年間7500時間程度の時短を実現し、約1700万円の削減ができた。これは売り上げに換算すると、1億円以上になる。転記作業が削減したので、入力ミスも減少した。さらに、情報共有が強化されたことで、トラブルが減少するという効果も得られた。
「もっとも大きい効果が、各部署にDXの種まきができたことです。kintoneで管理するようになってから、『この業務どうにかできないか』といった声をいただくようになりました。これは、すごくありがたいことだと思っています」(田中氏)
AIに相談して業務改善に必要な要素をあぶりだし
kintone導入が大きな効果を出したことで、6月1日から情報システム部が社長直轄の部署に変わり、会社全体で業務改革をすることになった。田中氏がいろいろと作り上げた感想としては、すぐ作れる、すぐ直せるの繰り返しや、思ったものを形にできたり、現場がリアクションしてくれるというのがとても楽しかったとのこと。
kintoneで業務改善する裏側では、同時にkintoneを浸透させるために、社内営業をしていたという。ここで、前職のかまぼこ営業スキルが役に立った。
「かまぼこ営業で学んだ中で、特に印象に残ってるのが「営業は恋愛と似たようなもの、口説け」と言うことです。口説けって言われてもな……と思って、ちょっとChatGPTに聞いてみました」(田中氏)
ChatGPTは、「自信をもって薦める」「面白いものを提供」「相手のことを考える」といった回答をしてくれたので、これらを踏まえて、コミュニケーションを取るようにしたという。
田中氏が個人的に特に大事にしているのが、「期待通り」を少し超えるということ。たとえば打ち合わせの途中で期待を超えるようなすごいものを出すと、最後に満足して帰ってくれるからだ。多少粗があっても、面白いアプリ、熱いアプリを作ることを意識しているそう。
実際にアプリを作る際は、相談者の席の横で作業することを心掛けている。画面を見ながらどういう業務をしているのか聞きながら、要望に合わせてアプリを開発しているのだ。現場のことを知りながら現場のアプリを作るので、アプリ作成の時間を短縮できるうえ、kintoneを知ってもらうという効果も得られた。そのおかげで、何割かの人がkintoneのことが好きになってくれたという。
ハンズオンの勉強会も開催している。業務外での開催にも関わらず、累計100人以上がリアルタイム参加し、アーカイブも全社員が閲覧できるようになっている。田中氏は東京で働いているが、オンラインの勉強会などを実施することで、大阪や九州、北海道など、遠距離の部署にもkintoneを浸透させることができた。そのため、活用事例を横展開できるようになったという。
現場のノウハウを情シスが調整・最適化
kintoneの活用が広まるなか、ユーザーの誤操作でデータを大量に削除するという事件も起きてしまった。後処理がとても大変で「自立=放置」ではないんだな、と痛感したという。
データを復元できるような環境を構築したり、削除権限を必要以上に付けないようにした。多くのアプリに入れているkrewSheetの一括削除機能も無効化した。このように、運用方針を変更し、事故が起こらない仕組みにして、社内教育も行なった。その上で、アプリ開発もカスタマイズしてもらうようにしているという。
情シスが統制するだけなら、kintone活用の阻害容認になるのでは?と思いきや、そんなことはない、と田中氏。情シスのところに集約された活用事例を他部署に展開することで、チーム、ひいては会社の戦力を強化することにつながるという。
現在は、現場から上がってきたノウハウを情シスが調整・最適化することで業務が楽になり、また現場がいいアイデアを出すという、とてもよいスパイラルが生まれているそう。
「今後の展望は、いろいろなシステムと連携することで、さらにすごくなったkintoneを社内展開したいと思っています。今までの経験すべてを武器にして業務改善を進め、社内も社外も巻き込んで業界も変えていきたいです」と田中氏は語った。

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